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ま え が き

 

寒冷地域においては、雪や氷による被害が多方面にわたって発生する。

陸上においては交通機関の麻痺をはじめ、電線の切断や道路標識が見えなくなるための交通事故等悲惨なトラブルの主原因の一つとなっている。

一方、海上においても、冬期に北方海域を航行する船舶は悪気象条件の下に航行するため、しばしば着氷にみまわれるが、この着氷問題は陸上の想像をはるかに越える厳しいものであり、人命損失の海難事故に発展するケースが現在に至るも解消されていない。

船体の着氷に関しては、1970年代までは、特に漁船の着氷による大量遭難が社会問題化し、そのため、海上保安庁はじめ各関係機関により研究され、その発生メカニズムはほとんど解明された。しかし、1980年代以降になると、着氷が原因と見られる海難事故が減少傾向となり、社会的関心もややもすれば薄れがちとなってきたため研究も低下してきているように見受けられる。船体着氷による海難事故減少の理由としては漁船等の近代化による船体構造の進化や、航海用、通信用電子機器類の開発が進み、気象情報が正確かつスピーディに入手できるようになったこと、1977年から国連海洋法が施行され、漁獲量はじめ操業上の秩序が確立したこと、船体着氷防止についての指導が関係機関から強力になされたこと、などによると考えられる。

船体着氷による海難事故を防止するため、従来から着氷のメカニズムの解明に続いて、対策としてデッキ上にヒートパイプを通す方法や、機関の冷却温水を散布する方法等が考案されたり、船体の復原性確保やプロペラの強度確保のための基準の制定やルール化が行われ、安全への対応が配慮されてきた。

しかしながら、小型船、特に漁船等においては経済的な理由やスペースの関係で格別の対策は採られておらず、止むを得ずほぼ2〜3時間毎にハンマリングで氷をたたき落とすといった原始的な方法で除去している。

また、甲板上に設置するよう義務づけられた救命用または航海用の機器類は、その多くが電気的な精密機械であることから、ハンマリングや強力な熱源等による着氷防止・除去ができないため、決定的な対応策のないまま現在に至っているが、これらはいずれも船舶の安全航行、海難防止に直接かかわる重要な機器であり、経済的で効率のよい対応策の開発が望まれている。

これらの理由により、船舶の航行の確保と人命の安全に寄与するため、着氷の防止・除去技術を早急に開発する必要があるとの観点に立ち、当財団においては産学官の学識経験者からなる委員会を設け調査研究を行うこととした。

海難防止の観点から対策の対象となるものには、船体や推進器、搭載機器等があるが、今回はいまだ確定的な対策の定まっていない甲板上の機器類に対象を絞り研究を行うこととして、「甲板上機器類の着氷防止技術に関する調査研究」委員会として、日本財団からの事業補助金の援助を受けて実施したものである。

 

 

 

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