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?海水が沈む海域では二酸化炭素を吸収し、湧き出す海域では放出する

アルカリポンプや生物ポンプに必須な炭酸イオンや栄養塩には海洋の大循環が大きな役割を果たしている。海流は北大西洋域の表層から深層へ大きく沈み込み、そのまま深層を伝ってインド洋と北太平洋で再び表層へ現れる。一周するのに実に2000年の時を費やすが、海流は絶え間なく、表層の海水と中・深層の海水をかき混ぜてくれているのである。沈み込む海域では、表層の海水中に溶け込んだ二酸化炭素をごっそり深層へ運んでくれるので、二酸化炭素の吸収に大きく貢献している。一方、沸き上がる海域では、過飽和の二酸化炭素を再び表層へ運んできてしまうので、放出区域となる。しかし、この海流は二酸化炭素だけでなく、海底に眠っていた炭酸カルシウムやさまざまな栄養塩をも運んでくる。炭酸カルシウムは炭酸イオンへと分解しアルカリポンプの活動を支え、また、リン、窒素、鉄などの栄養塩は生物ポンプを活性化する。それによって、この海域は二酸化炭素を多く放出するが、多く吸収もする海域となっているのである。このようにプラス・マイナスを相殺すると、結局海洋は年間当たり3ギガトン(炭素量換算)もの二酸化炭素を吸収していることになる。

 

<海洋への影響>

このまま二酸化炭素の排出が抑制できず、地球温暖化が進み海洋の平均温度もわずかに上昇したとすると、溶解ポンプが不活性化され、二酸化炭素の吸収力が減少するかまたは、最悪せっかく海洋に溶け込んでいた二酸化炭素か放出する可能性がある(図 2-10)。

また、他の環境問題との関係も無視することはできない。例えば、酸性雨問題である。海洋は現在弱アルカリ性であるが、そのpH値をわずかに0.3低下して、酸性化したとすると、アルカリポンプが不活性化されて、海水中の全炭酸の半分近くが大気中に放出されてしまうという試算がある。酸性雨による海洋のpH値の変化は、海洋の大きさを考えればわずかであるが、そのわずかな変化でも無視できない量の二酸化炭素が放出される可能性は否定することはできない。さらに、人工化学物質や開発による海洋汚染による生態系への影響が心配されているが、もし、大量に植物プランクトンが死滅するようなことがあれば、生物ポンプを不活性化することになり、海洋は大幅に二酸化炭素の吸収能力を失う可能性が大きい。そして、オゾン層の破壊などによる地球規模の気象変動は、大気圏だけでなく海洋圏へも大きく影響を及ぼし、海洋の大循環の流れを大きく変えてしまうかも知れない。

二酸化炭素の放出と地球温暖化の間には様々な環境問題も絡み合いながら、互いを互いに促進し合うという正のフィードバックループを築いている。したがって、歯車が狂って逆回りの回転を始めると、加速的な地球温暖化が進行する恐れがある。

 

<海洋を利用した地球温暖化対策>

 

海洋を利用した温暖化対策には、自然エネルギーなどを利用して二酸化炭素の放出を抑制する方法と、化学的、物理的、生物学的な方法を用いて二酸化炭素を積極的に固定化・除去する方法がある。対策技術に関する現在の研究状況を図 2-11 に示す。

 

 

 

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