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(陸上養殖技術)

8) 陸上で用水を循環濾過して養殖を行う「循環式陸上養殖技術」が欧米で開発され、実用化研究が進み、既に一部事業化が始まっているが、我が国で開発研究を行っている機関はほとんど見あたらない。数年前から国際養殖産業会が海外の技術紹介やノウハウの導入を開始し、一部で実証実験が始まったところである。

「循環式陸上養殖技術」は、養殖魚が排泄するアンモニア等を微生物を使ったバイオ技術で硝化した後、窒素ガスとして放出し、養殖用水を浄化して循環再利用し、系外に用水を排出せずに養殖ができるため、海洋汚染を招かない環境に優しい養殖技術である。

9) 「循環式陸上養殖技術」は、陸上における独立した自己完結型養殖設備であるため、魚に最適な環境を作り出すことができる。すなわち、外部からの魚病や寄生虫の侵入を防ぐことが可能となり、魚のへい死率の低下や身質の良い魚生産が可能となる。

10) さらに、水温や塩分・水質等、養殖魚の育成環境の制御により、魚の成長速度を高めることも可能となり、また、給餌管理等はコンピュータで自動管理するため、少人数での養殖管理が可能である。

11) ただし、現段階では土地・建物や水槽設備・機器類、管理システム等の初期投資にかかる費用が大きい。

12) 安価で高効率の水浄化システムの開発が必要である。

13) その他、養殖対象魚の生理・生態の研究、餌、ワクチン等の周辺技術の開発も重要である。

14) 養殖生産コストは、現状では海面養殖等他の養殖に比べ割高であるが、将来、陸上養殖システムの普及により水槽や浄化システム等の設備価格の低下、養殖管理システムの自動化による省力化等が予想されるので、従来方式の養殖コストと同等の生産コストとなる期待がもてる。

 

我が国は海洋国家でありながら、海に対する配慮がたりなかったのが現状で、海の使用料はただという認識があった。その結果、海からの恩恵を最も受けている漁業が年々縮小し、近い将来、海からの生産はあまり期待できない状況が予想される。

したがって、現在行われている海を利用した養殖の一部を陸上に移行させることにより、海に対する負荷の軽減を図り、その結果、海洋環境の保全が可能となる等の利点がある陸上養殖技術の進展が期待される。

我が国は水産との関わりは長く、養殖においても業界・学界等の貴重な経験や技術、知識の蓄積があり、それらを陸上養殖技術に生かすことにより、我が国に適応した陸上養殖システムが実現することを期待する。

なお、本報告書は、我が国の海面養殖事業者、各地の栽培漁業センター、漁業協同組合、養殖関連事業者の関係者の方々並びに国際養殖産業会、宝幸水産(株)の方々をはじめ水産庁や多数の漁業関係者の方々のど協力により完遂されたものである。

 

 

 

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