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第五の条件は「継続した援助の保障」です。よく人生は綱渡りと言いますが、知的障害をもつ人達の地域生活はまさに綱渡りです。それだけに、施設から出ても生涯にわたる継続した支援が必要なのです。「オリーブ」のバックアップ施設である希望ケ丘学園では、通所部のスタッフを中心に、「オリーブ」のメンバーも含めて28名の地域生活者を支援しています。希望ケ丘学園には入所施設と通所施設があり、さらにアフターケアを受けている人達がいることによって、次第に暮しの場が広がって来ていますが、その前提となるのは、どこで生活していてもしっかりとした安心感のもてるケア体制があるということです。

 

6. 施設から町の中へ-生き方を変えよう-

 

太陽の園は、入所施設400名、通所施設20名、総定員420名の大規模施設です。希望ケ丘学園はこの中にある入所定員100名と通所定員20名の併設施設です。入所者の平均年齢は46歳で、施設歴20年以上の長期在園者が6割を越えており、これらの中には大切な青年期、壮年期を施設で過ごし、もはや社会参加のタイミングを逸したのではないか、と思われるような人達も多くいます。

以前は施設から出て町の中で暮らせるのは、一般就労が可能な比較的障害の軽い一部の人達と考えられていました。ですから障害の重い人達の圧倒的多数は、自立という目標のもと日夜指導・訓練を受けながらも、結果的には出口の見えない施設生活を長く続けているのが実状なのです。

かつて知的障害をもつ人達の生活の場は、家族と暮らすか、施設に入所するか、の二つしか選択肢はありませんでした。しかし、第三の生活の場としてグループホームが脚光を浴びるようになり、一時は「施設で一生を終えるしかない」とあきらめかけていた人達も、人生の半ばを過ぎてから長かった施設生活から抜け出し、地域の一市民として新たな生き方を模索することができるようになりました。

施設から町の中のグループホームへ移った、「オリーブ」の人達は大きく変わりました。

Aさんは体を動かすのが嫌いな人でしたが、今では作業所までの30分の道程をバスにも乗らず、雨の日も雪の日も元気に歩いて通っています。

Bさんはこれまで人に話しかけられても、あらぬ方を向いてとんちんかんな返事をするばかりでしたが、今はしっかり相手の顔をみて適切に応対しています。

Cさんは外にあまり出たがらず閉じこもりがちの人でしたが、「わかば会」の行事などにも積極的に参加し、とても社交的な一面を見せるようになりました。

Dさんは気の弱い性格で、人の言いなりになりがちでしたが、徐々に自分を主張するようになりました。

このように、これまでの依存的になりがちな施設の生活ではあまり見せることがなかった、自分で考え自分で行動する力、自主性、主体性が徐々に発揮されるようになりました。

長い施設生活から抜け出し、地域の中で生き生きと暮らしている「オリーブ」の人達の姿をみていると、今最も求められているのは私達施設職員の意識変革ではないかと、つくづく感じます。

 

7. グループホームを障害福祉の主流に

 

(財)日本知的障害者愛護協会が毎年行っている全国精神薄弱者関係施設の実態調査報告書によりますと、平成7(1995)年度の就労自立率はわすか0.85%となっています。この数字はごく一部の幸運な人達を除いて、圧倒的多くの人達は、一度施設に入ってしまうと望む望まないにかかわらす生涯施設の中で暮らす結果になっていることを示しています。

精神薄弱者福祉法によれば、「更生施設及び授産施設は、指導や訓練を行うことによって、更生あるいは自活させることを目的とする」となっていますが、上記の数字を見る限り、現状の施設にリハビリテーションの機能を期待することは極めて困難である、といえるかと思います。

 

 

 

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