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いずれも障害が重く、これまでは生涯施設で暮らすしかないと考えられていた人達です。しかし障害の重い人達を対象にしたグループホーム「オリーブ」の誕生によって、この4人は20数年ぶりに施設から社会へと第一歩を踏み出すことになりました。

「オリーブ」の入居者は、Aさん(44歳、在園年数27年)、Bさん(37歳、在園年数26年)、Cさん(45歳、在園年数27年)、Dさん(57歳、在園年数20年)で、全員が療育手帳A判定の障害の重い人達です。

知的な障害をもつ人達の地域生活を実現するためには、最低五つの条件整備が必要です。今回のように障害の重い人達のグループホームの開設にあたっては、さらに特別な配慮が必要です。ですから開設を計画してから1年間をかけてさまざまな角度から検討し、周到な準備を進め、やっと開設にこぎつけました。

 

5. グループホーム開設に向けての5つの条件整備

 

地域で暮らすために必要な第一の条件は「所得の保障」です。施設入所者は、食費も住居費も医療費もすべて措置費でまかなわれます。ですから、障害基礎年金だけでも経済的にはゆとりがあり、かなりの部分を貯蓄に回すことができます。しかし、一旦施設を退所して地域に暮らすようになりますと、食費、住居費、医療費、日用品費などすべてが自前になります。さらに、無認可のグループホームでは、人件費すら自分で負担しなくてはなりません。

所得保障のベースとなるのは、障害基礎年金です。平成9(1997)年4月現在の年金は1級で月額81,825円、2級で65,458円となっています。「オリーブ」の人達は障害が重く全員が1級年金ですので、この年金に作業所などから受けとる工賃を足すと、ぎりぎりの生活にはなりますが、何とか地域生活を継続できるだけの所得を確保することができます。

第二の条件は「住まいの確保」です。住宅については、職員みんなで手分けして不動産屋さんを訪問したり、知り合いに相談したりして、何とか町の中に新築のアパートを借りることができました。3LDKで家賃は6万円でした。施設では4人部屋でしたが、グループホームは個室と2人部屋です。これまでと違い、少人数のゆったりとした環境の中で、のびのびと暮らすことができるようになりました。

第三の条件は「就労の場あるいは日中通う先の確保」です。通うところがなく日中グループホームに閉じこもっているのでは、決して質のよい暮しとは言えません。ですからどんなに障害が重い人であっても、必ず就労の場や活動の場が必要となります。

「オリーブ」のメンバーは一般企業での雇用が困難な人達です。4人のうち2人は家族の会が運営する地域共同作業所に通うことになりました。1人は太陽の園で最も障害の重い人達が入所している第二青葉学園で、清掃や洗濯をするハウスキーパー助手として受け入れてくれることになりました。他の1人は、せっかく町に住むのだから、町の職場で働きたい、という本人の強い希望もあって、市内のクリーニング屋さんで働くことになりました。障害が重く正規雇用は困難ですので、準雇用という形の就労です。施設にいるときは、働く場も生活の場も敷地内にありました。しかし、住む所と職場が別々になり、全員通勤の途上目にする町の景色やさまざまな人との出会いを楽しんでいるようです。

第四の条件は「仲間達との交流の場の保障」です。施設から地域に出るにあたって、本人や家族が最も懸念するのは、地域の中で孤立してしまうのではないかということです。せっかく地域の中で暮らすのですから、施設より質のよい暮しでなければ意味がありません。毎日働いて、食べて、寝るだけというのではなく、生活をエンジョイするための余暇活動や仲間達との楽しい交流があって、初めて豊かな暮しと言えます。

「オリーブ」のメンバーは、これまでどおり太陽の園の仲間達との交流を継続していくと同時に、地域生活者自治会「わかば会」に入り、新たな人間関係を広げていくことになりました。

 

 

 

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