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二が切除され、胃の上部と空腸をつなげたため十二指腸は閉じられていた。疑問は次から次へと出てきて、解剖で学ぶことと臨床での知識が合わさる日を待ち遠しく思ったが、二年後もこの気持ちを忘れずに励んでいたいものだ。

本の上での知識と全く違った印象を受けたのが、顔の構造。特に耳だった。鼓膜や耳小骨、三半規管など、目の前の見落しそうな小さな器官と、学んできた重要な働きがどうしても結びつかず、改めて人間の機能のすごさを感じた。

六時間椅子から立ち上がらずひたすら解剖に没頭した日もあった。ピンセットを持ったまま睡魔と戦ったりもした。疲れや辛さは思い出したらきりがないが、四ヶ月もの間一度も休むことなく実習を続けられたことの達成感は大きい。

明治初期の日本最初の女医、荻野吟子は自分の体に墨で臓器の位置を記して憶え、人骨を寺に盗みに入るまでして医学を志したという。それから百年が過ぎ、私達は今、医学への貢献のため御献体くださる方々、御遺族の尊い御意志のもとで、こうして解剖実習を行うことができる環境にある。荻野吟子の情熱を少し見習いつつ、私なりに実習で得たものを今後の勉強で確実に身につけていきたいと思う。

 

 

 

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