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自分の目でどうしても観てみたかった。春休みからワクワクしていた。最初の山は、第一回目のレポートの時だった。私は頸部の担当だったが、頸部の神経を観ると、とてもこんなもの書けるわけがないと思った。そして、先輩はこれをどんな風に書いているのか、と昔のレポートを見た時、さらにその凄さに唖然とした。意を決して書き始めてみたものの、どう書き出していったらよいか、見当がつかず、途方にくれた記憶がある。結局何度提出しても、レポートには「?」印がついて戻ってくるので、自分の観察力の無さに悲しくなって、数日間落ち込んでしまった。

実習に慣れてくると、遺体がしばらく前までは、生きた人間だっという事実を忘れがちになってきて、ひたすら仕事をこなすことだけに必死になってきていた。その頃ちょうど機会あって、新しく献体なさる方の家族とのお別れの場に立ち会って、ご焼香をさせていただいた。この時、亡くなった祖父の葬式を思い出し、自分の身内の者の献体するという望みを認めた家族は立派だと思った。そして、いろいろな思いを経て私の何倍も長い人生を送ったご遺体が、今私の目の前にいらっしゃるという事実を決して忘れまいと思った。また、白菊会の集いでは受付を担当した。この日のために、はるばる佐渡など遠くから来て下さる方が大勢いらした。話を聞くと、みなそれぞれの動機や覚悟があってここに来たことがわかり心を打たれた。

解剖学実習のおかげで、体の全体像についてかなり理解することができた。この結果、

 

 

 

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