シンポジウム
「芸術は人間の生命にどのように力を与えるか」
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◆塚原立志(つかはらたつし)
老人保健施設豊寿苑ゼネラルマネージャー
■プロフィール
1961年生まれ。早稲田大学卒業。出版社勤務を経て、1995年より愛知県小牧市にある医療法人双寿会、老人保健施設豊寿苑のゼネラルマネージャーを勤める。
■要旨
民俗知にむけて
1.美術の構成要因
技術 過去の蓄積 模倣と反復にもとづく 安定した秩序
創意 未知の次元 未来へひらかれている 非日常性
2.美術教育
美的感性の育成
技術の習得
個別性の獲得→主体的に生きるための表現の場
3.要介護老人の現状
無機的で均質化された「終わりのない日常」を生かされている→他者への依存
老人保健施設の目的 家庭復帰をめざして、要介設老人の心とからだの自立を支援→美術を導入
平均的な老人の美術認識
手本にいかに忠実であるかが価値基準となり、主体的な表現手段としては内面化されていない
4.主体性のワナ
自覚的意識の欠如を否定し、主体性の碓立を絶対視→西欧的なまなざし
社会システムの温存
老人の社会的嬌正→主体性を持とうとしない老人は不適応者として排除される
5.民俗知の援用 川村邦光の用語
過去の蓄積にもとづく集合的な想像力「歴史の記憶装置」
日常的な<民間の知>の深部にある、非日常的で、コスモロジカルな<知>の枠組
→主体性の確立によることなく、硬直化した日常に揺さぶりをかける
6.豊寿苑での企画
インスタレーション「般若心経」
写真展“Another Sights”
7.まとめ
個別性の獲得をめざす美術教育の在り様は、人々をある一定の方向へ導こうとする目的論的な考え方によって、生の多様性(個性)を圧殺し、全体性へと導く危険をはらんでいる。そうならないためにも、こうした問題の意味するところの本質は何なのか、認識する必要があるだろう。
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