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事例報告?

「医療を変えるホスピタルアート運動」

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◆鎌田實(かまたみのる)

諏訪中央病院院長

 

■プロフィール

 

1948年 東京都に生まれる

1974年 東京医科歯科大学医学部卒業

現在  諏訪中央病院院長 諏訪看護専門学校学校長 長野県学童心臓検診委員会副委員長

チェルノブイリ連帯基金代表 藤田保健衛生大学医学部客員教授

著書 『風よ吹け』(銀河書房 1,500円)

『医療がやさしさをとりもどすとき』(医歯薬出版 2,800円)

『ホスピス最期の輝きのために』(共著)(オフィスエム 1.600円)

 

■要旨

 

「病院らしくない病院」をめざして―風景と芸術と癒し―

 

信州の山あいの小さな街で「同じ病気でも東京の人は助かり、諏訪の人は助からない」という不平等をなくしたいと何人かの仲間とともに始めた地域医療。

診断と治療だけのせまい医療にとどまらず、健康な人が健康でいつづけられるために、健診活動を充実させたり、多いときには年間80回の健康教育活動「より合い」や「ほろ酔い勉強会」を通じて健康な地域づくりを行ってきた。「ほろ酔い勉強会」100回記念講演会には画家の原田泰治さんと歌手のさだまさしさんのコンサートやトークショーが行われた。

そして、現在私たちの病院では年間1千4百件の手術、1万1千件の時間外救急患者を診療し、周辺には老健・デイケアセンター・在宅介護支援センター等々、整備してきた。さらに、東洋医学センターをつくり、ハーブガーデンや漢方の薬草園をつくってきた。

東京からも患者さんがやってくるようになった。80点を超す美術品に囲まれ、病院らしくない病院をつくった。24時間体制の在宅ケアをおこない、「自分の家で亡くなりたい」というお年寄りの夢に応えられるようにしてきた。

たくさんの病院ボランティアが参加し、有名な音楽家による「ホスピタルコンサート」が開かれている。

チェルノブイリの原発事故で汚染地帯の子どもたちが白血病や甲状腺癌に苦しんでいると聞いて、6年間に42回の医師団を派遣し国際医療援助を行ってきた。

本来、医療はやさしさに満ち満ちていなければならないのに日本中の病院はやさしさから遠く離れた存在となっていないだろうか。20世紀に入り人類はいくつもの病気を克服してきた。しかし、わずかを進歩とともに、大切なやさしさをずいぶん失ってきたように思う。

末期癌に苦しむ患者さんに、今の医療は十分にやさしいだろうか。

大都会にあるホスピスはクリスチャンかお金持ちか、知識人が利用しているようであるが、田舎の小さな街に農民が普段着で利用できる日本で最小のホスピス(6床)をつくり、痛みや苦しみから開放して最後の大切な時間を友人や家族と過ごし「グッド・バイ。満足だったよ、ありがとう」とお別れができるような医療空間を現在建築中である。

「病院らしくない病院」をコンセプトにつくった。病院は1991年、第1回日本病院建築賞を受賞した。病院の窓から展開される、八ヶ岳のパノラマ。高原都市の澄みきった空気と空、近く点在する里山の森の「気」。ハーブガーデンの香り。

病院の中を流れるBGM。時より開かれるコンサート。たくさんの彫刻や絵画。

ぼくたちは卓越した技術と同じように「風景」や「芸術」や「人と人のつながり」の中に癒しの力があると信じて「病院らしくない病院」づくりをおこなってきた。

 

 

 

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