パフォーマンス
芸術とヘルスケア会議
11/7
◆一人芝居[マルセ太郎]
■『生きる』―スクリーンのない映画館―
「スクリーンのない映画館」と呼ぶマルセ太郎の一人芸は、ある映画を一本、一人で語りつくし、演じ切る。彼の批評を加えた表現が、時としてスクリーンを越える。
今回、取り上げる映画は黒沢明監督「生きる」(1952年)である。
実直な市役所の市民課長が、胃がんで余命いくばくもないことを知って、貧しい街の環境を改善し、小さな公園を造成することに情熱を傾ける。雪の夜、公園のぶらんこで歌をくちずさみながら、課長は死を迎えた。
この「生きる」をマルセは喜劇とみる。例えば、課長の葬式で盛り上がった役人たちが、翌日にはまたいつものお役所仕事に戻るラストなど、黒沢明の鋭い笑いが随所に光る。日本映画には珍しい骨太の人間喜劇だとマルセは語る。
■プロフィール
1933年大阪生まれ。新劇俳優を志し、1954年上京。マルセル・マルソーの舞台をみてパントマイムに興味をもち、彼の名前にちなんでマルセ太郎と命名。その後コント活動を経て、動物の形態模写を中心に、浅草の演芸場に出演。特にサルの形態模写はその迫真力で他を圧倒。評論家の矢野誠一氏をして「内面的な描写からサルにせまり、本物のサルよりもはるかにサルらしく哀しげだ」といわしめる芸である。1984年より、映画再現芸というまったく新しいジャンルを開拓。一本の映画の最初から最後まで徹底的に語り尽くす一人芸である。
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