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1997国際保健協力フィールドワーク・フェローシップ活動報告書

 事業名 海外諸国の保健福祉に関する研究及び援助
 団体名 笹川保健財団  


フィールドワーク・フェローシップの持つ意味

フィールドワーク・フェローシップに参加して

 

牧 信行(自治医科大学5年)

これまでただ漠然と将来国際保健医療協力に関われたらいいな、くらいにしか思っていなかった私にとって、具体的に何をすれば役に立てるのか、そのために今何をしておくべきかということを考えるために今回のフェローシップはいい機会になった。発展途上国の抱える医療問題がこれまで私が考えてきたよりもずっと複雑で、多方面にわたることを今回思い知った。

まず第一に、これまで私は発展途上国というと満足な医療を受けられないまま子供達が感染症や栄養不良でどんどん死んでいく、といった風景を思い浮かべていたが、実際との違いに驚いた。少なくとも私たちが今回訪れた限りでは、街にはセブンイレブンやマクドナルドが並び、セーラー服を着た高校生たちが楽しそうに会話している。その一面だけを見ると自分がどこの国にいるのかを忘れてしまいそうなくらいであった。保健医療分野でもそれを反映していて、例えばセブ市内の原因別死亡順位上位10位までのうち5つまでがいわゆる成人病であり、こうした国々の抱える医療問題が決して感染症だけでないことを知った。

もちろん、感染症も発展途上国では依然として大きな保健上の問題の一つであることには間違いない。フィリピンでは感染症対策の事業を大きく2つに分けて、結核、ハンセン病、デング熱のように国家単位で取り組むべきものとマラリアのように地域単位で取り組むべきものとしていた。今回は主に結核とハンセン病への取り組みについて勉強したが、研究施設や治療法を見てみても国内研修で見た日本のものとほとんど変わらないものであった。薬剤やその財源が現在充分なのかそれとも不足しているのかなどといったことは今回はっきりとは分からなかったが、全体としてかなり高いレベルの保健医療サービスが供給されているのではないかと思った。

そうしたフィリピンの抱える保健医療上の問題は、全体のレベルの問題よりもむしろその供給の問題にあると感じた。フィリピンの人口あたり医師数は少ないというよりも偏在しているのだという。今回訪れることは出来なかったが、地方に行くとまだまだ最寄りの保健所に牛で長時間行かないとならないところにも人が住んでいるそうである。また、都会でも華やかな町並みとは裏腹にストリートチルドレンがいたるところにおり、何をするともなくたむろしている大人達も多数みられた。彼らに対して一体どんな保健医療サービスが提供されているのか、統計上にどれだけ数字として現れているのかさえ実感として把握することは出来なかった。経済的‘社会的に中間層の人々が少ないだけに、この国における貧富の差というものは際立ってみえた。

今回の研修ではフィリピン大学医学部も見学させていただいたが、日本の医科大学とほとんど変わらないような医者を養成するシステムをこの国はちゃんと持っている。しかしながら、大学卒業生のうち優秀な人たちはよりよい待遇を求めてアメリカなどの国外に流出してしまうのだそうである。この話を聞いた時、私は衝撃を受けた。私たちに大学を案内して下さった学生さんは卒業後も医者がフィリピン国内に定着して働けるように学生の意識を改革している最中だと話してくれた。しかし私は、そうした個人個人の意識改革と同時に全体として優秀な人材がフィリピン国内で安心して働けるようなシステムを整備する必要性を強く感じた。

この問題を考える時、私はこれまであまり考えてこなかった自分の母校である自治医科大学の存在意義というものを改めて認識せざるをえなかった。かつて日本も現在のフィリピンと同じように医療サービスの偏在と僻地における医療過疎という問題を抱えていて、それを解決するべくして自治医大は創られた。だから、その自治医大が創立以来どのような医療を僻地に供給してきたか、そのうえでどんな問題点を抱え、どのように対応してきたかなどといったことを記録して残しておくことは、やがて同じような問題を抱える国々にとって参考になるのではないかと思った。

まだほんの一面にすぎないのだろうが、これまで特別なもののように思っていた国際保健医療協力がじつは日本で行っている医療と共通する部分がたくさんある事を私は今回のフィールドワークで学んだ。それは逆に言うと日本で医療についてよく経験を積んでおけばそれがそのまま国際保健医療協力の場でも役に立つ事が多いということでもあろう。今回11日間という短い日程ではあったが、これをただの11日間に終わらせないように、今回学んだ事を今後の勉強に役立てていきたいと思う。

 

 

 

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