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ように沿海地方行政府の広報文書はインターネット化されているのであって、知事の自己宣伝のためならコンピューターを活用し、市民生活のためにはそれをしないというのでは問題があろう。こうしたところにも沿海地方政治の特殊性が現れている。

 

2 沿海地方政治を特徴づける環境要因

 

(1) 辺境的愛国主義:カリーニングラード州との比較

 

少なくとも1996年大統領選挙に至るまでの沿海地方民の典型的な投票行動は、「連邦議会下院選挙では自民党(ジリノフスキー党)か共産党に投票する同じ選挙民が、大統領選挙ではエリツィン、知事選挙ではナズドラチェンコに投票する」というものであった。この投票行動は、ロシアの政治地図における「北のペリフェリー」に特徴的なものであり、その点でロシアの東端である沿海地方は、ロシアの西端カリーニングラード州に似ている(16)。「南」のナショナリズムがロシアの伝統的な価値観の優秀性を訴える左翼愛国派(共産党系)に流れるのに対して、「北のペリフェリー」では、住民の定住性の低さ、住民内のロシア人比率の低さ、民族問題または国境問題の存在などから、右翼愛国派、すなわちロシア的伝統を前提としない愛国派、中でも自民党(17)に流れる傾向がある。カリーニングラード州では、1991年大統領選挙においてジリノフスキーが有効票の15.6%(ロシア平均では7.8%)を獲得した。1995年連邦議会国家会議(下院)選挙では、全国的には5%バリアを超えることができなかった「ロシア人共同体会議」(スココフ=レベヂ党)がここでは12%を獲得し、翌年の大統領選第1回投票でも、レベヂ候補は、全国平均(14.5%)よりも高い19.3%を獲得した(18)。沿海地方でも、1995年下院選挙において、自民党が全国平均(有効票11.2%)の倍近い20.5%の得票で、共産党の追撃を退けてクライ第1党の地位を守った。共産党は全国平均(22.3%)を下回る18.9%しか獲得できなかった。「ロシア人共同体会議」も健闘し、沿海地方では5%バリアを突破した。翌年の大統領選第1回投票では、レベデ候補がカリーニングラード州におけるとほど同率の19.5%を獲得した(19)。このように沿海地方とカリーニングラード州は、右翼愛国派が優勢である点で共通している。ただし、沿海地方では自民党が、カリーニングラード州では自民党以外の右翼が強くなる傾向がある。

アンドレイ・ヤルツェフは、カリーニングラード州で右翼愛国派が強い理由として、?軍人の住民人口のかなりの部分を占めること、?飛地領土であること、?隣人であるリトアニア人との緊張関係、?バルト3国内のロシア系住民が差別迫害されていることへの義憤、?ロシア以外の旧ソ連圏で迫害された難民の流入、

 

 

 

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