日本財団 図書館


 その他、SARは、初年氷、多年氷の識別、あるいは氷の成長に合わせての継統的観測による氷の厚さの計測などが報告されている。将来においては、多偏波、多周波SARを活用することにより、春先の氷解時における氷質の観測の改善、氷の密集度の計測の改善、あるいは初年氷、多年氷などの識別能力の向上を計ることが期待されている。〈参考文献:Current Status and Direction−NASA Tecnical Memorandum 4679〉

 以上、見てきたとおり、SARは、海洋の表面波、中規模流、海表面の風速、海底地形、湧昇、大気・海面相互作用、内部波、スリック、船舶モニタリング、航跡、海難捜索、漁業情報、降雨状況、氷の状況などの観測など非常に応用範囲の広いものである。これらの種々の観測能力を兼ね備えていることはSARの優れた特性であり、他のセンサでは実現できないところである。また、SARはマイクロ波を使用しており、上記観測が昼夜間全天候下で行えることも特長である。

 本研究は、船舶の安全航行を目的として、SARによる波浪、風、海流等の計測の有効性を調査・研究するものであるが上記概観したところから推して、SARはこの目的を達成するものに有効な手段となるものと考えられる。 本研究では、波浪、風、海流が計測対象となっているが、上述の通り、SARは種々の観測が可能であり、これらの計測においては、各現象は必ず、「さざ波」の後方散乱断面積の形でSARに検出されることから、注目している現象以外の現象による後方散乱はノイズ(クラッタ)となってしまうことである。注目している現象を抽出するためには、クラッタを取り除かなければならない。そのためには、クラッタの性質をよく知る必要がある。従って、ある特定用途のSAR応用であっても、その用途の信号検出だけでなく、クラッタとなる海面現象についての広い知識が必要とされる。

 日本における現状のSAR応用研究は、その緒についたばかりであり、SARでどのようなことが観測できるかというシーズ志向の研究が主であるが、その研究成果であるシーズをヒントとして、ニーズを具体化していかなければならない。 そのためには、だれがなんのために「SAR情報」を使うのか、その「SAR情報」とは具体的に何なのか、必要とされる空間スケール、時間スケールなどはいかほどのものでなければならないかを決めていかなければならない。
 また、その実用化を実現していくための、データの計測方法、処理アルゴリズム開発、データの配布方法、さらにこれらを実行するための体制などの構想についても、合わせて検討していく必要がある。

(友田委員)

 

 

 

前ページ  目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION