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第4章 今後の展望

4.1 SRAによる海洋観測

竹田 厚

1.海洋の衛星観測とSAR

 海洋は衛星観測という手法の実現を跳強く待望していた観測対象ではないだろうか。その芒莫とした広大な姿を一望の視野の中に捉え、巨視的、客観的に把握できる視点は宇宙空間を航行する人工衛星をおいてほかたない。しかし一方、衛星観測の手段となるリモートセシシング技術も決して万能ではない。とくに海洋観測に関しては本貿的な点でいろいろの限界があることを十分理解しておく必要があろう。
 まず、リモートセンシングの媒介となる電磁波は大気中と異なり水中では減衰が著しく巨大な海洋空間の内部へは殆ど浸透しないため、直接観測できるのは海面付近の薄い口に限られていることである。
 つぎに、衛星観測は同じ場所を定期的に饒測できる利点はあるがその間隔は数日から数10日で、一基の衛星では千変万化する海洋現象を追跡することはむずかしい。(静止衛星は30分から1時間程度の短い間隔で観測をくり返すととができるが、地球からの距離が遠くなるため十分な解像度を得ることはできない)
 さらに、海洋の場合、陸面に比べて非常に厄介なのは、衛星観測と同時または事後の検証が簡単でなく、場合によっては不可能なことである。リモートセンシング技術は検証によって画像と地上の事象との対応関係が明確になったときのみ有意となるものだからである。
 とくに、SARによる海洋観測の場合、電波センサーであるため昼夜によらずまた雲の影響の少ない全天候型であるという利点はあるものの、可視光を媒介として発達した人間の視覚とは大きく異なる冒波(マイクロ波)の散乱から結像したSAR画像には、しばしば我々の経験からは理解できないようなパターンが現れる。その説明には衛星観測と同期した海上(海中)での検証実験の積み重ねによる息の長い研究が必要になる。
 SAR技術の冒波工学的な研究を進める一方で、海洋表層の未知のダイナミックスについての研究の進展により、SARがもたらす海洋情報の可能性は無限に広がるように思われる。電波工学的には周波数、偏波、オフナディア角、の選択、インターフェロメトリ技術など、SARには究極のセンサーとしての発展が、また海洋学的には流れ、波動を基本とするさまざまなダイナミックスが「さざ波み」を通して海面に特徴的なパターンを描き出す過程が解明されること、への期待は大きい。

 この小論ではSEASATのSAR観測データをぺースにした1980年代までの内外の研究成果から得られた知識をもとに、現在、運用中、あるいは近い将来運用が予定されている衛星搭載のSARを利用した海象の観測について、1,2の応用例を述べる。それに先立ち復習的な意味までマイクロ波の海面散乱過程のモデルとSARの源理と海洋現象との相互作用にも簡単に触れてみたい。

 

 

 

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