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分布している。精密な議論のためには症例数を増やす必要があるが、トカラ列島のような温暖な地域では冬期の気温の低下の影響は少ない可能性がある。逆に夏期の気温の上昇と脱水、ヘマトクリットの上昇などの影響を考える必要もあろう。

共著者の新村は多数の脳血管障害発作例を集積し、季節の移行期(鹿児島地区では5月と11月)に多発することを報告している。今回の調査結果と完全に一致する訳ではないが、脳血管障害の発症には従来の報告にとらわれず、その地域ごとの気候や地理的要因に対する十分な配慮が必要と考えられる。高血圧や心房細動が高率に認められるが、搬送された者の殆どは診療所に通院しておらず、平素からのリスクファクターの管理が重要であることが再認識させられた。また、ボーダーラインの高血圧患者にmassiveな被殻出血が発症するなど、日内変動や生活習慣も含めた級密で厳密な管理が望ましい。

定期検診と予防接種

村では年1回中高年に対する詳細な定期健康診断を実施しており、当院のみでなく本土の種々の医療機関が利用されている。急性疾患の発症に即応できない島民にとっては健康診断は極めて重要であり、受診率を高めて、精密な統計資料の作成が待たれる。

小・中学生の定期健康診断は、巡回診療の時に診療所で行われる。表5に示すような定期的なものの他にも、修学旅行やスポーツ大会前の不定期なものも多い。そのため、名前だけですぐ顔が思い浮かび、既往歴もおよそ記憶しうるほど子供達とも親しくなっている。

また、喘息発作やてんかんなどの比較的頻度の高い慢性疾患でも、慣れからくる家族の慢心は禁物である。平素の発作とは異なるわずかな変化に十分注意するよう指導している。
予防接種は、ロットの管理の問題のため定期船が各島に停泊している間に船内の診療室で行われることが多い。島民の診察機会を増やすため、我々は互いに出張が重ならないよう工夫し、多くの船便に医師ができるだけ分散して乗船している。したがって、被接種者の事情で延期されても、ごく近いうちに再度予定を組むことが可能である。しかしながら、接種直後の発熱や痙攣への迅速な対応は困難で、被接種者の当日の体調にはむしろ慎重すぎるほどの対応が望まれる。

ところで、平成6年度は届け出に応じて8名の母子手帳の発行がなされており、ほぼ同じ比率で例年妊婦検診を行っている。その中で2名は都市部に転居したが、2例は流産している。例数が少なく頻度は比較できないが、切迫性流産はヘリコプター搬送全体に占める割合も高いことや、若者の定着という面からも離島医療における重要な問題である。各地域の実情にあった救急対応の標準化が望まれる。

まとめ

現地に常駐する医師のいない島々における医療は、このように多くの問題点を抱えている。また、同じ離島でもその地域ならではの特殊性もあり、それぞれに柔軟に対応して行う必要があろう。
理想的な医療活動の実践には、医療従事者のみでなく島民自身の意識改草が重要であるが、現地のみでなく我々の鹿児島赤十字病院自身の設備の充実も不可欠である。都会から転居したある中年夫婦は、施設の不備をマン・パワーでカバーする努力と、予想以上の医療の充実ぶりを賞賛してくれていたが、今後も多方面からの人的・財政的支援を期待したい。

文献

1)河野正樹:地域医学、6(12):994.1992.
2)鈴木一夫:日本臨林、51(662):20.1993.
3)新村健:大和ヘルス財団助成による研究業績集第2集、昭和53年3月 日本医事新報第3773号(平成8年8月17日発行)に掲載
(鹿児島赤十字病院 〒891-01 鹿児島県鹿児島市平川町2545)

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