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の実際の問題は、症例の選別、搬送先の決定、搬送前の処置である。しかしながら、平素の健康状態の把握と既往歴、基礎疾患などの情報は極めて重要である。その意味で、行政により例年実施される定期健康診断と二次検査の結果報告は大切な基礎資料である。交通の便の悪さのため受診卒が30%程度と低いが、定期健康診断のための受診をより徹底させ、また、診療所においてもプライバシーを侵さない範囲で結果を随時利用できるようにしたい。

搬送症例の選択は、現地に医師がいないため看護婦と密接に連絡をとりあって行っている。勿論推定される原疾患とバイタル・サインにより判断されるが、看護婦達はいずれも豊富な経験を持ち、必要な情報を的確に知らせてくれる。
意外に判断に苦しむのは、内服薬を現地で切らしたてんかん患者など島民以外の者がたまたま疾患し、看護婦が既往歴や常用薬を把握していない意識障害患者である。また、最近の健康状態が不明であった、症状が現れにくく重篤感を把握しにくい島民も同様である。検査機器がなく医師ですら診断が困難な状況では、ヘリコプター搬送の適応も広く考えざるを得ない。

看護婦達とはしばしば研修会を行って研鑽に努めているが、この観点から、重要と思われるものや意外な盲点となった症例を集めた出版物や資料があると有意義である。頻度の高いものについては非定型例についての蓄積が必要であろう。また、殆どは比較的軽症で経過しても、重篤な病態を合併しやすい疾患も重要である。

搬送手段としては村営船や漁船が最初に検討されるが、緊急性からヘリコプター搬送の適応と考えられても、現地の気象条件で待機となり、最終的に飛行できなかったりすることも多い。また、非常に大きな飛行中の振動や騒音で医療行為がかなり制約されるため、離陸前の処置も極めて重要である。最近、絶対安静を原則とする救急患者でヘリコプター搬送中に呼吸停止となった症例を経験したが、このケースにおいても漁船や村営船に比較して搬送時間が極めて短いこと、医師が添乗できることなどは絶対的に有利であると考えられた。

(2)脳血管障害について(表4)

今回の調査期間に脳血管障害は三島村を合わせると、脳出血5例、脳梗塞9例が発症し、くも膜下出血はなかった。本土に搬送した12例のうち血腫除去術のため某脳神経外科に転院した1例を除き、111列は当科にて入院加療している。死亡は、DOAで搬入されたmassiveな混合型被殻出血の1例であった。年齢は58〜91歳で、性別では男性7名、女性7名と差はなく、島別の比較でも一定した傾向はみられなかった。

脳出血の5例中4例、脳梗塞の9例中6例に高血圧を、また、脳梗塞の3例に心房細動を認めた。一方、月別にみると、脳出血は冬期の1〜3月に各1例ずつがみられるが、9月にも2例が発症している。脳梗塞の発症は6〜1月であった。
症例数が少ないが、従来の報告とは異なるこの地域特有の疫学的特徴を指摘することができる。全体として脳梗塞は少ないが、一度でも発症するとより医療環境の整った都市部に転居する者も多く、再発例が算入されにくくなる可能性が考えられた。また、軽症のため村営船で受診したケースもありうる。

くも膜下出血がなかったのは、調査期間が短く全体の症例数が少ないことなどが理由と考えた。島民の平均年齢は必ずしも高くはなく、くも膜下出血の好発する中年層も割合多い(表1)。我々は実際に最近(平成7年4月)55歳の女性例を経験している。

脳出血はやはり冬期に多く発症している。9月に2例をみたのは、鹿児島地方が戦後最大級の超大型台風や水害に襲われた異常気象の年であった。時期的に完全に一致した訳ではないため証明は困難であるが、脳出血の発症にはなお多くの因子が関与する可能性もある。また、脳梗塞の発症は6〜1月に

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