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3 ロシアにおける地方自治法の制定とその後

(1)立憲国家への模索と地方自治

ロシアの「地方自治」改革の大きな転機は、かの「八月革命」に先行する91年5月の憲法改正と7月の「地方自治法」(以下、旧地方自治法または91年法)の制定である。

社会主義のもとにあったロシアの「地方自治」の問題は、それ自体独自の研究対象である。よく知られるように、従来のソ連型社会主義のもとでは民主主義的中央集権主義をとってきたこともあって、中央権力にたいする自治という観念をもたなかった。初期ソヴィエト権力は、十月革命が諸ソヴィエトの権力の樹立を宣言したように、地域自治を踏まえた自治団体の連合という構想とある意味では相つうずるものをもっていた。しかし、現実化したソヴィエト体制は、極度に集権化し、地方ソヴィエトやその執行機関も国家権力の地方機関との位置づけをあたえられることになる。こうした地方権力概念を修正し、「地方自治」概念の定着をもたらしたのはペレストロイカであつた(21)。

91年法による「地方自治」の主要な内容は、<1>地区、市、町、村における地方自治は、地方人民代議員ソヴィエト、住民の地域的社会的自治機関、住民投票、集会、スホート(市民集会、部落会・農民集会)、その他の直接民主主義的諸形態をとおして住民がこれを行使する、<2>地方自治は地方的意義を有するすべての問題を市民がその選挙した機関をとおしてまたは直接に自立的に決定することを保障する、<3>地方自治の経済的基礎は、自治体財産である、<4>地方ソヴィエトに直接当該ソヴィエトの会期で選挙される議長をおく、<5>地方行政庁を新たに設置する、<6>地方行政庁は当該の人民代議員ソヴィエトと上級の執行・処分機関に従属する(いわゆる「二重の従属」)、<7>地方行政庁は地方行政長官が指導し、当該人民代議員ソヴィエトは地方行政庁の長官およびその他の公務員の不信任を決定することができる、といった点に要約される。

ここで新たに登場した地方行政庁および行政長官なるものは、中央レベルの権力分立原理の採用に対応するもので、人民代議員ソヴィエトのなかにあった執行機関たる執行委員会とは別に行政機関の独立化をはかったものであり、中央の最高会議議長職に対応させてソヴィエト議長職を新設した。しかし、行政長官が実際に登場するのはこの91年11月以後のことであり、しかも予定されていたような選挙によるのではなく、根本的な経済改革の時期の非常措置として、地区、市の行政長官は地方、州、自治州、自治管区の行政長官によって、地方、州の行政長官はロシア大統領によって、地区や市より下級の地方の行政長官は地区と市の行政長官によって任命されることとなった。そしてこれ以降、各級のソヴィエトはその「地方憲法」ともいうべき独自の憲章を制定することが予定されることとなった。この地方自治法のい

 

 

 

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