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以上はごく単純な系について強制振動の説明をしたが、ここでわれわれが取り扱うとしている機関のねじり振動系でもこれと全く同じ現象が生じる。機関の運転中にはクランク軸にはプロペラをまわすための大きなトルクをピストンからコンロッドを介して受ける。もちろんクランク軸、プロペラ軸はいずれもこの大きな推進トルクに耐えるだけの十分なねじり剛性をもっている。問題は機関から与えられる回転力(トルク)は時間的に一定したものでなく、クランク角の位置に応じて変動する成分を含むことである。すなわちその変動成分が機関のクランク軸系に強制振動を発生させることである。もちろん上に述べたようにクランク軸系は十分なねじり剛さをもっているから、変動する変動回転力成分とクランク軸系の固有振動とが共振状態を生じない限り強度上の不安はない。しかし、クランク軸系は先に述べたように多数の固有振動をもっている。したがって機関の回転力の変動部分は機関の使用回転、速度範囲でいくつかの固有振動と共振状態になる可能性が必ずあるということである。さらに厄介なのはこの回転力の変動成分は簡単なものでないという点である。

その変動成分の発生はまず、ピストンを動かしているのが燃焼ガスの圧力であり、当然空気の吸入燃焼という燃焼サイクルに応じた息付きをしながらクランクをまわしていることによる。次に大きな質量をもったピストン、コンロッドがピストンクランク機構という複雑なメカニズムを介してガス圧力をトルクに変換するという機構学的必然もその原因となる。要するにピストンクランク機構により燃焼ガス圧力から回転力を取り出す過程では必ずクランク角によって変化する成分を含むことである。このことはわれわれが自転車を漕ぐ場合に体感できることである。回転力の変動についてもう少し詳細に述べることにする。

いま考えている機関を4ストロークサイクルでZ個のシリンダ数のものであるとする。この機関がnrpmで定常運転しているとする。各シリンダは2回転に1回、等間隔に燃焼する。それら各シリンダにおける燃焼状態が完全に同一であるとする。この機関の1個当たりのシリンダから燃焼ガスより発生する回転力NE(t)は、上に述べたように4ストロークサイクルであるから機関が2回転するのに必要な時間TEを周期とする周期関数である。そのことからフーリエ(Fourier)の定理に基づき、

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となる。

 

 

 

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