日本財団 図書館


遼寧対外経貿学院図書館館長 趙 国林
日本の大学図書館視察記
 
 東の隣国である日本に渡って8日間の滞在中、とても感想が多く感銘が深かった。
 日本科学協会の招請を受けて「第4回中国大学図書館担当者訪日団」一行27人は、12月4日〜11日に日本を訪問した。日本滞在中、日本の大学図書館を視察し、日本の文化を体験した。笹川陽平日本財団会長、濱田隆士日本科学協会理事長及び日本科学協会の担当者達、特に、教育・研究図書有効活用プロジェクト室の担当者達の支持と手配により、我々の訪日は実り豊かなものとなり、大変成功した。日本滞在中に日本財団、日本科学協会、日本の4大学の図書館、国立国会図書館等から熱烈な歓迎を受けた。日本科学協会の細心な手配により日本の大学図書館、国立国会図書館を訪問してこれらの図書館と良好な関係を作り、多くの経験を学んだ。その他にも訪日団は日本の文化を体験し、日本の文化に対する理解と認識を深めた。
 中国の大学図書館の担当者として日本の大学図書館の経験を勉強し、参考にすることは極めて重要である。私本人も日本の大学図書館について一層興味を持ち、日本の大学図書館のすべてを分析し、考察することについて多くの精力を投じた。視察した4大学図書館、すなわち武蔵工業大学図書館、芝浦工業大学図書館、成蹊大学図書館、琉球大学図書館に関して以下のような認識を得た。
 
1. 高水準の現代化
 4大学図書館とも現代化水準が高い。整備されたネットワーク、厳しいセキュリティーシステム、便利で迅速に対応できる公共サービス(複写機、プリンターのネットワーク化)の他に、自動貸出・自動返却システム、自動伝送システム、移動本棚等がある。これらの現代化システムは中国大学図書館の一部において配置されているが、自動伝送システムや移動本棚はまだ殆どない。高水準の現代化システムと設備の存在は、読者に利便さを与えると同時に大量の人力を省いた。これらのシステムへの投資費用は高く、日本の大学図書館の現代化の水準の高さを示している。
 
2. 科学的な管理
 4大学図書館はそれぞれ独特な管理方法を実施しているが同時に、4大学図書館は科学的な管理を実施している。
 まず、図書館の人員配置においては極力無駄を省いている。各図書館には通常司書資格を持つ管理者が8〜9人いる。その他の人員はすべてアルバイト学生(学部生、修士課程院生、博士課程院生)である。人件費の支出を節約するだけでなく、アルバイト学生達に図書館を熟知し、図書館を利用するチャンスを与えている。アルバイト学生は図書館に関する情報を仲間達に伝え、図書館の利用率を高めるという目的もある。
 次に、管理面における読者本位である。より良好な学習環境と研究環境を提供し、心や目を楽しませることにより読者の学習意欲と研究意欲を一層引き立てるため、木質の内装材を使って読者に暖かさを感じさせる環境を整えている。(図書館館舎の)造形芸術は読者に美を感受させる。どこからも本がとれる。どこにいてもインターネットが利用できる。どこにいても図書館員から助けてもらえる。どこからも必要とする資料を手に入れ、利用しようとする設備が利用できる。
 第三に管理の細やかさである。どこに身を置いていてもよく誘導してくれる。さまざまな指示、宣伝資料、業務ガイダンス等が図書館内の目の届く場所に置いてある。読者に利用しやすいだけではなく図書館の文化の一つでもある。
 第四に優雅な環境、精良な設備、精巧なデザイン、整然とした秩序である。
 
3. 鮮明な特徴
 4大学の図書館は(館舎の)精巧なデザイン、精良な内装、特色のある蔵書等を以てそれぞれの特色としている。
 武蔵工業大学図書館は、心静かに伸び伸びとした学習型の図書館を目標にしている。そのため、内装にはすべて木質材料が使われている。本に囲まれている読者は、どこからでも本が取れる。閲覧席も本棚に近く無線LANが接続できる。音楽が流れている中で読者が伸び伸びとした環境の中において暖かさと利便性を感じることができる。
 芝浦工業大学における図書館サービスの特色は、鮮明な印象を残してくれた。茶道の実演を観賞し、茶道の厳かで重々しさ、静粛さ、優雅な雰囲気を楽しむことができる。茶道も読書も同じ趣旨だと思った。心を静めて茶を楽しみ、心を静めて読書を楽しむ。その楽しさに勝るものない。
 成蹊大学図書館は、まさにデザインと藝術の殿堂である。図書館の建物全体はガラス張りであり、透明で明るい。各閲覧室の造形は異なり、椅子の造形も精美で美を楽しむものである。
 琉球大学図書館は中国の大学図書館に似通っている。発展段階も中国大学図書館に近い。しかし、琉球大学図書館は琉球に関するすべての文献と資料を収集しており、琉球資料の整備を以て図書館の特色としている。豊富な琉球資料は世界各地からここに集まり、読者や研究者に利用されている。
 以上、4大学の図書館に関する印象をまとめた。これらは、中国の大学図書館の参考に値する。特に、私立大学である我が遼寧対外経貿学院の図書館にとって、図書館の建設全体に関して日本の大学図書館の経験を吸収し、生かすことは極めて重要である。遼寧対外経貿学院図書館館長として「第4回中国大学図書館担当者訪日団」の一員として日本で感受したことは、日本人の勤勉な勤務姿勢や日本文化の特色だけではない。一番収穫が多かったのは、日本の大学図書館の優位性から自らの図書館業務をより良いものに改善していくという自信と決心ができたことである。
 笹川陽平日本財団会長、濱田隆士日本科学協会理事長、梶原義明先生、三浦先生、及び友人の皆様、本当にありがとう。
 我々の見学と視察を協力してくれた4大学の図書館、国立国会図書館の皆様、本当にありがとう。
 特に、今回の訪日のためにいろいろ苦労された日本科学協会の担当者に感謝しなければならない。
 われわれの友情の末永い継続、そして、日本科学協会事業の発展、友人の皆様のご健康とご活躍を心からお祈りする。
2006年12月19日
 
清華大学図書館 館員 晏 凌
「第四回中国図書館担当者訪日団」参観のまとめ
 
 私は日本の財団法人、日本科学協会の招待に応じ「第四回中国図書館実務者訪日団」に参加した。その活動は、日本科学協会が実施している「教育・研究図書有効活用プロジェクト」の重要な一部で、2001年から2005年までに3回行われた。その趣旨は中国の図書館員にこのプロジェクトの組織と実施状況を紹介し、双方の交流を強化して、プロジェクトのよりよい推進を目指すというものである。同時に実際の考察を通じ、中国側の館員は日本の図書館界で起きている発展や変化、日本の社会や文化が持つ特徴が理解でき、日本人が友情を重んじ、友好を続けていこうと望む真摯な心を感じ取った。
 訪問団が日本滞在中に行った主な活動は、日本財団、日本科学協会幹部の表敬訪問、図書館5施設の視察(公共図書館、大学図書館など)、科学技術や文化研究に関する機関の視察、文化古跡や自然の観光などである。
 
1. 日本の図書館における建築構造の斬新さ、設備の先進性、人本主義精神の表現
 
 大学図書館か公共図書館かを問わず、中国での状況と比べると、日本の図書館はいずれも高い経費予算が組まれている。この点は文献資料の購買能力だけでなく、建屋や一通りの先進的な設備にもよく現れている。私たちが視察した図書館は、例外なく斬新な建築構造であり、広々とした閲覧スペースや充実した検索端末を備えており、中国国内の読者(公共閲覧エリア)と国書(書庫)とが空間を奪い合う苦境とは明らかに対照的である。
 これらの図書館は基本的に全て新築されたもので、集中書庫や無人書庫ないしその管理システムを備えている。これは中国国内の図書館が蔵書の停滞を解決するのに参考となる。このほか、各図書館の書庫が科学的かつ合理的に通風換気装置、音声警報装置、煙感知器にとどまらずガス(CO2)消化システムなどを備えた消防設備を備えており、通路の主要位置には非常時システムとその簡単な使用説明が設置されていた。
 図書館業務を専門会社に委託するのも現在の日本の図書館では流行している。視察した中で、4大学の図書館では正規職員が大学の教員や学生の人数、蔵書に比べて非常に少なく、彼らは図書目録業務を目録の専門会社に委託し、閲覧図書の流通などは専門の人材会社に委託し、貸出返却の自動システムや無人書庫システムなどの先進技術や設備も利用し、大幅に館員の業務量を削減している。これにより館員は時間と力をリファレンス問い合わせなどの高度なサービスに集中できるのだ。これは私たちが中国の図書館を将来発展させる情勢のとき参考となる現実的なオペレーション例である。
 他の先進国と同様、日本でも既に成熟した公共図書館体系が形成されている。公共図書館のサービス対象は幅広く、証明書申請方法も手続きも簡単である。特に小児や障害者などの文献ニーズを考慮している。公共図書館は文献を提供するサービスと大衆の文化的素養の涵養という二つの分野で同等に重要な働きをしていると言える。同時に、日本の大学図書館がここ数年行っている「大学図書館を開放し、地域社会にサービスする」試みや研究レポジトリ(Institutional Repository)の設立は、社会の人々が知識情報を得る方法と経路をより充実させ、一般大衆の文化的素養を向上させる重要な作用がある。
 日本の図書館に対して深く感じたことは他にもあり、それは細かくも濃厚な人本主義精神の表現である。サイレント処理がされた定期刊行物書架や、日英中韓といった多言語で書かれた小冊子など。各図書館がほぼ全てで、障害者専用の通路、表示装置や文献閲覧補助器などを設置していた。読者に対する尊重と思いやりに基づき、館員は閲覧中の読者が参観者の干渉を受けないよう、合理的に訪問者の写真、動画撮影を制止している。真に「読者が一番」の理念を体現しているのだ。
 
2. 日本文化の体験
 
 訪問中、代表団は行った先々で心のこもった対応をいただいた。簡単な会話だけでも、私たちは日本人の友好と誠実さを感じ取れた。限られた参観の中で、日本人の勤勉さ、入念な仕事ぶりを理解できた。
 「教育・研究図書有効活用プロジェクト」の配送センターとなっている倉庫の参観では、多種多様な図書が大量に保管されていたが、一つ一つの業務プロセスが整然としており、乱れた形跡が全くなかった。従業員の応答も雅やかで礼儀正しく、原則を重視しており、規則制度に反する要求にはほとんど応えなかった。
 東京では、浅草の日本伝統食品や物件に中国文化からの深い影響を見ることができた。秋葉原では百花繚乱のIT製品が、日本の先進技術をありありと感じさせてくれた。沖縄では、琉球大学図書館を訪問したほかに、歴代の琉球王が住んだ首里城の観光にも行った。沖縄の美しい景観と素朴な民間風俗も、深く印象に残っている。琉球の歴史と首里城の由来は中日文化の交流と融合の歴史の長さを感じさせた。
 京都では幸いにも金閣寺、清水寺などの寺院を参観して回り、京都の町並みの古風で質朴な姿も味わった。古跡を大事にして、保存もきちんとしている。京都はちらりと見ただけで、日本の古い文化に対する重視姿勢を感じ取ることができた。そして、何ということなく傷つけられてしまった中国の歴史遺跡を思い心が痛んだ。
 
3. 今後の訪日活動についての個人的提案
 
 私は財団法人日本科学協会が中国図書館担当者の訪日に招待してくれて非常に感謝している。私個人の実体験と業務経験から考えると、より多くの時間、図書館界の学者や実務者との交流ができ、より多くの図書館専門家の講義を聞け、具体的な問題について討論できたらと思う。日本の図書館を訪問するのも交流と討論が主になればと希望する。
2006年12月25日


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