日本財団 図書館


大連海事大学図書館 副館長 那春光
「第4回中国大学図書館担当者訪日団」訪日感想
−真理がわれらを自由にする−
 
 
 日本科学協会の招請を受けて「第4回中国大学図書館担当者訪日団」一行27名は、2006年12月4日〜12月11日に日本を訪問し、視察と交流を行った。訪日団の一員として今回の交流に参加できたことを光栄に思った。日本滞在中、武蔵工業大学図書館、芝浦工業大学図書館、成蹊大学図書館、琉球大学図書館、国立国会図書館を見学した。特に、国立国会図書館と琉球大学図書館を見学した際に二つの図書館は同じ館訓――「真理がわれらを自由にする」を掲げていることに驚いた。繰り返しその意味を噛み締めたが、本当に意義深いものだと感じた。そして日本滞在期間に感受した、点滴ではあるが個人の体得もこの理念にまとめられると思っている。
 
1. 図書館――読者が真理を求めて自由を手にいれる殿堂
 各図書館を見学して最も印象的なことは、「すべて読者のため」というサービス理念である。見学した5つの図書館はそれぞれの性格に基づいて豊富な文献を集めている。図書館の各階には読者検索用の端末、セルフサービスの複写機、プリンターを設置してある。
 琉球大学図書館には、読者が検索結果を記録するために検索端末のそばにメモ用紙を用意してある。武蔵工業大学図書館、芝浦工業大学図書館、成蹊大学図書館は、読者の情報交換を重視し、館内に公共学習室を設けた。予約により読者は無料で利用することができる。国立国会図書館は読者に影響を与えないように見学者の撮影禁止が規定されている。図書館の見学を通じて読者本位やきめ細かなサービスは日本の図書館サービスの特徴になっていることが分った。ジャーナルラックには消音が施され、日、英、中、韓等多言語のガイドブック等、各図書館のバリアフリー、目の不自由な読者のための音声ガイドや文献閲覧器等きめ細かに配慮されている。日本の図書館においては「倫理綱領」に基づいて氏名、住所、所属会社、職業、行動記録、利用回数、読書事実、参考、相談記録、利用記録、図書館資料の複写記録等を含む読者のプライバシーが保護されている。これらすべては読者の利用需要と図書館の利用権利への尊重である。
 その他に「真理がわれらを自由にする」的雰囲気作りを通して投機的な行為や卑俗な行為を巧みに拒否し、真の才能と学問を身に付けるよう読者を激励している。
 
2. 文献を大切に保管し、文献を重宝する手本
 「真理がわれらを自由にする」。ここでいう「真理」とは、一方では客観的事実及び規律が人々の意識に正確に反映されることを指すが、他方では人々が認識した客観事実及び規律の物質化、すなわち文献を指す。日本の図書館は文献の保管と文献の展示を非常に大切にしている。見学した5つの図書館は貴重図書優良図書等の精美な文献を大切に保管し、ガラスケースに収めている。成蹊大学図書館には「後漢書」(古活字版)、「竹取物語」(古活字版)、「百富士」(天明5年刊)、「潮来絶句」(享和2年跋刊)、「航海術」等が大切に保管されている。琉球大学図書館には「仲吉本」(古琉球歌謡)、「琉球人行列図」(錦絵)、「琉球日記」、「沖縄写真帳」等の貴重な蔵書が大切に保管されている。これらの貴重な図書等の保管と展示により、図書館内には濃厚な図書文化が漂っている。本を大切にし、蔵書を活用することによって、知識を求め、自由を求める読者を激励する。図書館の蔵書はすべての読者に共有される性格があり、真理の門はすべての読者に開かれている。図書館はすべての読者に同じ情報を提供している。言い換えれば真理を獲得する機会はみんな均等であるが、自由を手に入れられるか否かは読者自身の努力に任されることを意味する。
 日本の図書館において貴重図書優良図書が大切に保管され、利用されている現状を見ると、中国の図書館業界における「重蔵軽用(保管を重視し、利用を重視しない)」への反省及びその影響は、一つの極端からもう一つの極端に走ったのではないかと深く考えさせられた。
 
3. 司書資格制度による図書館サービス水準の維持
 日本の「図書館法」には、図書館就業者に関する資格認定の規定がある。1950年に公布された「図書館法」第5条 司書と司書補、第6条 司書及び司書補の講習、1968年に公表された「図書館法実施規則」第1章は9条からなり、「司書と司書補の研修」における図書情報に関しては必須科目と研修科目、取得単位、考査、認定等を規定されている。2001年に日本の「図書館法」は改訂され、図書館就業者の資質を厳しくした。日本の図書館就業者の資格制度により一定の学歴を有し、図書館情報学の関連科目を履修した人を図書館に就業することにより図書館員の資質を保証し、高水準のサービス提供を保証している。図書館員は社会から認められ、尊重される。同時に高い待遇を受けている。
 インドの図書館学者ランガナタン(Shiyali Ramamrita)は、「図書館員が個人の資質を図書館に持ちこむことにより図書館が活力に満ちる」。「図書館に活力がないのは、スタッフがいても図書館員がいないことだ」と指摘した。図書館業の歴史という視点からも確実に実行できる措置を以て図書館員を育成すること自身も一つのルールであり、「真理」といえよう。この「真理」を理解し、この「真理」を実践すれば図書館サービスの質を保証し、図書館事業を「自由」の境界に導くことができる。
 
4. 建築物と設備が図書館文化である
 見学した私立大学図書館の館舎はすべて新築である。建築のデザインには濃厚な図書館文化が込められている。武蔵工業大学図書館は自然と文化の融合という理念に基づくデザインとなっている。図書館の内装と備品は木質の材料で統一されていた。自然、豪華な印象を与えられている。木質の環境の中で読書することは最も効果的であり、記憶力と集中力が高められると担当者は説明してくれた。気持ちが伸び伸びとした学習型の図書館を目標にしているのだ。読者は本に囲まれ、どこからでも本が選べる。閲覧席が本棚に近く、館内に無線LANが使われ、非常に便利である。音楽が流れている中、ゆったりとした、暖かい雰囲気が伝わってくる。
 芝浦工業大学図書館は、白と黒の色彩を使用し、厳かで重々しく、静粛で優雅な眺めである。館内に世界的に著名なデザイナーによりデザインされた備品が陳列され、備品のそばにはデザイナーの氏名とその人物のプロフィールが書かれている。これらの高価な備品の価値は備品自身の価値を超えたものであり、読者に創作のヒントを引き出すのに役に立つに間違いない。
 成蹊大学図書館は、鉄鋼フレームに大量のガラスを張った館舎は、ユニークな空間造形と釣り合っている。その中に身を置くと宇宙に来た感じである。思想が活発になり、インスピレーションが湧くのではないか。ガラスと鉄鋼構造が完璧に融合されている成蹊大学図書館は、まるでデザイン藝術の殿堂である。ガラス張りは透明で明るい。各閲覧室の造形がそれぞれ異なり、椅子の造形も精美そのものであり、その美しさを楽しむことができる。
 見学したすべての大学図書館はネットワークシステムと厳しいセキュリティーシステム及び便利でかつ快速な公共サービスシステム(コピー、プリンター等機器がネットワーク化されている)が整備されている。そして自動貸出・自動返却システムもある。書庫には換気設備、音声警報システム、そして煙警報装置、CO2自動消火システムを含む消防設備がある。通路の要所には緊急システムと簡潔な利用方法に関する説明文がある。特に触れなければならないのは、武蔵工業大学図書館、成蹊大学図書館及び国立国会図書館等20以上の図書館が、自動書庫、自動図書転送システム及びそれらを管理するシステムを利用して低利用率の一部の図書を管理することによって人件費を節約すると共に図書館貸出業務の効率化を図っていることである。武蔵工業大学図書館内には図書カードによるノートパソコン自動貸出システムがある。高水準で現代化されたシステムと設備は、読者に利便性をもたらしたのみならず、大量の人力を省いた。これらのシステムへの投資額は高く、比較的高水準の日本の大学図書館の現代化が反映されている。
 日本の大学図書館の建築風格と備品は、現代化、多様化、特色付けされている。図書館の建築と設備は図書館文化の重要な構成部分となっている。読者を啓発し、創造性を高め、静粛な閲覧に重要な役割を果たしている。
 
5. 科学的に、高効率に、謹厳に管理
 図書館業務の外部委託は、日本の図書館の業務管理における特徴である。視察を通じて見学した4大学図書館は教職員数と学生数に対して正規な図書館員と蔵書が非常に少ないことに気づいた。図書館の人員配置において効率を求めている。武蔵工業大学図書館は図書の目録編集を専門の目録編集会社に委託し、図書流通等の業務を専門の人材会社に委託した。自動貸出、自動返却システム、無人書庫システム等の先進的技術と設備を借りて図書館員の作業量を著しく削減した。それによって図書館員は時間と精力をより高水準の情報サービス改善に集中できる。我々が見学した図書館には司書資格を持つ館員が8〜9名しかないなかった。その他に図書館は学生アルバイトを活用することにより人件費を節約しただけではなく、学生にも図書館を理解し、活用する機会を与えた。
 図書館を見学する時間は非常に短かったが、些細なことから日本の図書館の管理が非常に厳格に確立されていることを実感させられた。武蔵工業大学図書館を見学した時のこと、訪日団は海外からのお客さんとして熱烈な歓迎を受けたが、図書館内で昼食をとることはなく、道路を渡った別の棟の会議室で弁当を食べたのである。客だからといって特別扱いすることはなく、読者と同様、訪日団にも飲食禁止の規定が適用されたのである。しかし、他方、規定制度を真面目に厳守するだけでなく、温か味のある利用者への配慮も失っていない。図書館に入る通路の両側に利用者のための飲食エリアがある。利用者は食べ物を持ってくるか、或いは飲食エリアで買って食べることができる。外部委託にしても、規定に従うことにしても図書館管理における客観的発展の規律に合致している。従って、これらを行うことにより、非常に良い効果が得られている。これも「真理がわれらを自由にする」ことだろう。
 
参考文献
1. 『図書館学5定律』ランガナタン(Shiyali Ramamrita)著、夏雲等訳、北京書目文献出版社、1988: 15.
2. 「大学図書館発展のボトルネック:制度的欠陥」甘明、大学図書情報フォラム、2006(4):8-11


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