<地域>
ヨーロッパ
実績
昨年のヨーロッパ観光は、トリノでの冬季オリンピックを始め、ドイツのFIFAサッカー・ワールドカップ、アイルランドのライダー・カップまで、多数のイベントの開催、ならびに、レンブラント生誕400周年、モーツァルト生誕250周年、ピカソ生誕125周年など数々の文化イベントによって牽引された。地域各地に引き続き拡大・普及する低コスト輸送会社(LCC)のサービスも需要を刺激した。低コスト航空会社によるサービスの恩恵を受けない旅行目的地国が犠牲になるケースもあり、競争力が低下する結果となったものもあった。国際観光客到着数の推定増加率は4%で、世界の他の地域に比べると増加は緩やかである。しかし、これはもとになる数値が非常に大きく、実際の観光客増加数は1,700万人近くである。これまで安定して成長を続けており、2006年の国際観光客到着数は4億5,800万人に達し、世界総数の54%以上に相当する。
ヨーロッパ:インバウンド・ツーリズム
国際観光客到着数
ヨーロッパ観光産業に対する脅威もいくつかあったが、実際にはそれほどの脅威にならずにすんだものもあった(心配された鳥インフルエンザの蔓延等)。とはいうものの、障害は数多くあった。税率と燃料費割増分で航空運賃を押し上げる結果になった原油価格の高騰は言うに及ばず、空港の安全讐備管理の厳重化に繋がったテロ脅威の再来、ヨーロッパ各地の異常気象や洪水などである。
例年のことだが、多くの国の最終実績が入手できておらず、データの解釈は注意を要する。また、昨年の業績が、期間によってデータが異なる指標に基づくものである場合もあり(あらゆる形態の登録滞在設備の宿泊数であったり、単にホテルの宿泊数であったり、など)、観光客到着数の動向を必ずしもきちんと反映しているとは限らない。フランスがその好例である。
国際観光収入に関するデータはまだ不完全なもので、ヨーロッパ全体の傾向を反映しているとは言えない。同地域の主要観光目的地国のなかでは、フランス、スペインとも実質的に2005年並であり、イタリアの実績は全体的に伸び、年初から現在までの間、国際観光収入に比べ国際観光客到着者数は大きい増加を見せた(それぞれ6.6%と11%)。これは明らかに、ヨーロッパ人によるヨーロッパでの短期休暇が平均以上の増加をしたことによる。イギリスでは到着者数の伸びは7%、観光収入の伸びはやや多く7.4%であった。ドイツも同様で、到着者数の伸び9.5%、観光収入の伸び11.6%(1月から11月)であった。
国際観光客到着数のヨーロッパ地域の平均伸び率は4%であったが、小地域区分ごとに大きな差がある。中央・東ヨーロッパに対するここ数年の鬱積した需要は最低水準で、2006年の伸びは、2005年(1.4%増)より低い1%に留まった。一方好調であった国もあった。特にアルメニア、ブルガリア、チェコ、ラトビア、リトアニア、スロバキアなどである。西ヨーロッパ(4%増)は過去2年の平均以下という状況からようやく回復した。南・地中海ヨーロッパの2006年の観光客到着数は1億6,500万人を超え、地域平均並の好成績を記した(4%増)。とはいえ西ヨーロッパ、南・地中海ヨーロッパとも、過去3年間、同地域のスター選手である北ヨーロッパ(2006年7%増)に比べればはるかに低い伸び率であった。
北ヨーロッパでは、手元にあるデータから、最も力強い伸びを見せたのはアイスランド、フィンランド、アイルランドであり、いずれも10%超の増加を記録している。イギリスも2004年、2005年の好業績に績き、7%と力強い伸びを達成した。アイスランド(14%増)の場合、有利な為替レートが主な貢献要因となったが、UNWTO専門家委員会からの回答によると、これによって産業界にも大きな収益を生む結果となった。SASと英国航空は長年休止していた冬季の便を再開した。フィンランド(10月末までの宿泊滞在数で11%増)は、2006年9月から12月の間に送客市場によってばらつきがあるものの、11〜19%という並外れた伸び率を記録した。その主要因はロシアと中国の急速な経済成長と、両市場からの旅行客の大幅な増加であり、また、日本とインドからの旅行客の増加も貢献した。フィンランドがEU議長国であることもビジネス観光を押し上げる一助となった。ノルウェー(3%増)とスウェーデン(4%増)の宿泊滞在数も、ロシアその他の新興市場からの著しい伸びを反映している。ノルウェーの場合、新興長距離市場からの旅行客の大幅な増加が、ドイツ、デンマーク、スウェーデンといった主要送客市場からの落込みを埋め合わせる役目を果たした。面白いことに、デンマーク(宿泊滞在数で0.3%減)のみ、米国市場からの観光客が増加している。
引き続くLCC路線の拡大と好況なインドからの航空アクセスの改善に加え、ユーロ圏の盛り返しが牽引材となって、2006年初頭から11月末まで、イギリスの成長(7%増)を導き、ロンドン・ヒースロー空港のテロ未遂事件後の警備強化がもたらした、8月中旬から9月初旬にかけての航空スケジュールの混乱といったマイナス要因を相殺する結果となった。ほかにもプラス要因として、燃料費割増分(2007年2月からの航空旅客税倍加で相殺されるであろう)が徐々に減少しているということが挙げられる。アイルランド(10月末までで11%増)は2006年9月〜12月にあらゆる主要市場、特にアメリカ合衆国、イギリス、ヨーロッパ本土(特にイタリア、オーストリア、フランス、北欧諸国、ベルギー、スペイン、東ヨーロッパの新興市場)からの旅行客が増加した。国内観光も健闘し、ゴルフ、ウォーキング、釣り、乗馬といった娯楽のニッチ商品部門での回復も見られた。9月に開催されたアイルランドでのライダー・カップも需要の刺激を助けた。
ドイツは予想通り、FIFAサッカー・ワールドカップ開催によって、国際到着客数が11月までで9.5%と大きな増加を見た。サッカーファンが、6、7月の2ヶ月で一部の市場から信じ難いほどの割合で到着客数の伸び率に貢献した。例えば、ポルトガルから110%増、ブラジルから256%増、中央アメリカ/カリブ海から405%増など。ドイツ政府観光局(DZT)によると、絶対数ではこの2ヵ月で29万3千人の到着数を追加する結果となったイギリスが最多送客国であり、2位のアメリカ合衆国のこの2ヶ月の到着数は21万1千人であった。同じくDZTデータによると、ドイツに旅行した全旅行者の73%は明らかにワールドカップを目的としたものであった。
オランダ(9月末までで10%増)は、レンブラント生誕400周年記念を取り巻く祝典がヨーロッパ市場からの伸びに大きく貢献したすばらしい一年だった。しかしまた、ロシア(32%増)のほか、ブラジル(25%増)、中国(17%増)、オーストラリア(18%増)といった長距離送客市場からの伸びも力強いものであった。とは言え日本(4%滅)は期待外れであった。同様に、スイス(11月末までに8%増)では、新興の長・短距離送客市場からの伸び、ならびにLCCによる短期休暇旅行による増加が見られ、都市部の旅行目的地の業績が特によかった。
フランスに関しては、入手できるデータがホテル滞在関連のみであるため、結果を評するには時期尚早である。けれども、フランスはリゾート地が高緯度に位置するために、2006年末の雪不足による披害は、他のウィンタースポーツ目的地国よりも大きくはなかった。
オーストリアは雨の多い夏に苦しめられたが、雪不足にもかかわらず冬季のスタートは好調で、ほぼ2%増で年を締めくくった。ウィーンとザルツブルグは、モーツァルト生誕250周年記念祝典、ならびに引き続くLCC便と短期都市滞在型休暇の増加で、平均以上の成果を上げた。オーストリアヘの昔からの主要送客国(ドイツ、オランダ、イタリア)は落込んでいるように思われるが、スカンジナビア、ポーランド、ロシアなどからの旅行客数が伸びつつある。
中央・東ヨーロッパの2006年は1%増であった。現在入手しているデータでは、アルメニア、ブルガリア、チェコ、ラトビア、リトアニア、スロバキアを除く諸国の業績はあまりよいものではなかった(主要目的地国であるロシアとウクライナは、第3四半期までの観光収入(それぞれ27%増と11%増)は上向きであったようだが、到着数についてのデータは全く入手できていない)。ラトビア、スロバキア両国の業績は2005年を凌ぐもので、LCCの新規運航に負うところが大きい。エストニアヘの二大主要送客市場であるフィンランド、ドイツは減少したものの、宿泊滞在数、観光客到着数ともに、ロシアとラトビアからの増加によって一部補填された。ロシア人のビザ手続の簡略化が2006年1月に実施されたことに負うものであろう。UNWTO専門家委員会によると、2006年第3四半期末までのハンガリーの落ち込み(8%減)には異なる要因がいくつかあるが、そのすべてが深刻な影響を与えた。イースターの時期にブダペストで洪水があったこと、また、観光客に関する限り実際の懸念にはならなかったものの、秋のデモが需要に大きく影響したともいえるであろう。また、経済不況が増税につながったという事実もあった。
南・地中海ヨーロッパ(4%増)はトルコの到着数7%減などが原因で、昨年は伸び悩んだ。これは当然、イスラエル・レバノン危機の結果増大した政治的緊張に多く起因すると言えるが、また、テロの攻撃・脅威、加えて、年初にデンマーク風刺画事件によって引き起こされたトルコの混乱にも起因するものである。この中東危機によって、観光客を地中海東岸から西岸の旅行目的地国へ移行させる動きが止まらず、スペイン(4.5%増)、イタリア(10月までに11%増)、ポルトガル(11月末までの宿泊滞在数で7.5%増)など過去に実績のある国々へ観光需要は流れていった。キプロス(2.8%減)の低下の理由も同じである。キプロス需要が増加した数少ない市場の一つにロシア(年初からの11ヵ月で17%増)があった。しかし、キプロス観光客の過半数を送り込むイギリスからの観光客到着数は同時期2%ダウンした。
何年も低迷が続いたが、2006年、イタリアはトリノの冬季オリンピック開催が起因となり、年初の好調なウインター・シーズンの後、さらに飛躍したサマー・シーズンを迎え、2005年比が11%増となり、地域区分では他を大きく引き離し最優秀国となった。ギリシャのデータは半年分しか手元にないが、いろいろな点から推定すると、実際はデータから示される数値(6月末までの宿泊滞在数3.7%増)を凌ぐ成果を収めたようだ。インフラやホテルの質向上など、ポスト・オリンピック効果が都市観光と会議ビジネスに大きなプラスの影響を与えたものと推定される。一部の市場(フランス、イタリア、ドイツ、アメリカ合衆国)および部門(船舶旅行)も平均を優に超える伸びを見せた。
アジア・太平洋地域
実績
速報データによるとアジア・太平洋地域の観光客到着数は8%増で、2006年、アフリカに次いで実績を上げた地域であった。オセアニアは低迷した(0.3%増)ものの、北東アジアは前年比7%増と推定され、東南アジア(9%増)、南アジア(10%増)ともに平均以上の成果を収めた。
アジア・太平洋地域:インバウンド・ツーリズム
国際観光客到着数
アジア・太平洋地域の堅調な伸びは、ここ数年困難の中で成し遂げたことを考え合わせると、より目覚しいものである。2004年は前年比(27%増)の点では記録的な年であったが、その年12月の津波の後でさえ、さらに前年を上回る年がもう2年(2005年、2006年とも8%増)続いている。最も津波被害のひどかった二国(タイとモルジブ)の復興が2005年中には成し得なかったが、両国とも昨年は力強い伸びを見せており、これが地域全体の動向に大きく影響を与える結果となっている。
北東アジア各国の通年結果は出揃っているため、2006年7%増という推計はほぼ確定的なものである。韓国の2.2%増という鈍い伸びは、ウォン高、ならびに朝鮮民主主義人民共和国の核実験を取り巻くメディア報道に起因する。これらが韓国の競争力を削ぐ結果となった。台湾(中国)も平均以下(4%増)だったが、日本は、特に地域内の韓国、中国、シンガポールからの観光客が伸び、非常に好調(9%増)な結果となった。ヨーロッパと北アメリカからの観光客到着数はそれほど伸びず、対米ドル、対ユーロの円安という状況にもかかわらず、いずれも2005年をやや下回った。中国のインバウンド観光は、2006年、伸びが鈍化した(6%増)。これはおそらく、2005年7月〜2006年12月に対米ドルで6%もの元高になったことが起因しているのであろう。隣国の韓国と日本からの需要(2005年比1%増)も、両国との関係改善にもかかわらず低迷した。主要市場マレーシアとタイからの観光客も減少した。しかし、アメリカ合衆国、カナダ、ロシア、イギリス、ドイツ、フランスなどの長距離送客国からの伸びは平均10%の増加を見せた。しかしながら、2004年29%増、2005年10%増という驚くべき伸び率が2年続いた後という点を考慮すると、この6%増という数値は大きな成果であることは特筆しておくべきであろう。
マカオ(中国)は、新しいホテル・カジノの開発と、ギャンブラーたちの短期休暇アクセスを容易にした低コスト航空会社サービスの拡大のお蔭で、地域区分の中では2006年のスター選手(19%増)であった。中国本土(12%増)からの観光客が到着総数の60%近くを占め(うちほぼ半数が団体旅行ではなく個人の旅行者)、30%が香港(中国)(20%増)からである。ギャンブル収入はマカオ(中国)でほぼ70億米ドルに達したと推定され、これでこの旧ポルトガル植民地はラスベガスのメインストリートをも凌ぐ、世界で最も利潤を上げるカジノ都市として位置づけられることになった。ギャンブルからの税収はこの都市の年間予算の相当な部分に及ぶ。にもかかわらず、現在の猛烈な勢いのカジノの成長を鈍化させる恐れのある労動力の不足など、この先数年は課題が多いだろうと政府は警告している。
東南アジア(9%増)は2006年、10%以上の伸びを記録し、サクセス・ストーリーを展開した旅行目的地国がいくつもあった。タイ(9月末までに23%増)、カンボジア(通年で20%増)、ラオス(9月末までで11%増)、ミャンマー(同10%増)。フィリピンとシンガポールも11月末までに約9%の伸びを達成した。タイの力強い業績はもちろん、2004年12月の津波から復興したことに大きく起因する。災害後2年、人気のプーケット島(津波被害を最も受けた旅行目的地の一つ)には2006年、2005年比87%増となる約470万人の観光客が来訪した。しかし、それ以外にも同年タイは、2005年から延期されたプミポン国王生誕80周年と即位60周年記念の祝典など、観光客を引き寄せる数々のイベントにも彩られた。ロシアからの送客数は108%増となり、タイ向け観光で最高の伸びを記録し、他のヨーロッパ諸国、中東、アジアからの送客数の伸びも堅調であった。マレーシアからの伸び(16%増)を見ると、タイ南部の国境不安からは何のマイナス影響もなかったことがわかる。インドネシアは依然としてテロと自然災害に苦しんでいる。2004年の観光客到着数は530万人を超えていたが、2005年に5百万人まで落ち、2006年1月から11月までの到着数はさらに5%近く減少した(13ヶ所の入国通関地を経た到着数が観光客到着総数の80%に相当)。けれども、朗報として、オーストラリア、日本という二大送客市場からの低迷は続くものの、バリが盛り返しを開始したように見える。12月の到着数は2005年同月(2回目の大規摸テロ事件の2ヶ月後)から62%増となり、かつ2004年同月比2%減程度であった。2006年の観光客到着数は、2005年比9%減、2004年比14%減の130万人と推定される。カンボジアの伸び20%増(最盛期である9月〜12月では24%増)は、シアヌークビルの新国内空港の開港はもちろん、豊富な新規アトラクションや観光商品に起因するものである。マレーシア(9月末までに6%増)もまた周辺諸国と同様に、LCCによって新規の旅行目的地が開拓され、観光需要を押し上げる一助となったと報告してきている。ベトナム(4%増)もLCC輪送能力の拡大に恩恵を受けた。また、同年の世界貿易機関(WTO)加盟とアジア太平洋経済協力(APEC)グループ会議受け入れによる観光需要の増加も大きく起因している。フィリピン観光(9%増)にとって2006年は、2年前から続いている増加傾向をさらに引き継いだ。2004年以前は業界も投資を鈍る状況であったが、状況が回復し、業界は上昇気流に乗るべく速やかに行動に出た。指標は安定し結果も良好で投資を支持するものであった。観光局によると、ボラカイが新しく約1,500室を増やす予定で、セブ市とマクタン島で1,350室、パラワンで500室が増やされる見込みである。シンガポールは11月末までで到着数9%増となったが、大ニュースは、政府が、同国でカジノを経営する2つの企業グループを精選したことである。Las Vegas Sands Corporation社がマリーナ・ベイにリゾートを建設中で、Genting Internatinoal社がStar Cruises社との共同出資でセントサ島にカジノ付きの総合リゾートを開発する予定である。マリーナ・ベイ・リゾートの主な狙いがビジネス旅行者部門(すなわち、巨大展示ホールでの会議参加者)であるのに対し、セントサ開発はGenting社が現地に10億ドルのテーマパーク「ユニバーサル・スタジオ」を建設する計画で、レジャー・アトラクションに焦点を合わせている。南アジアの業績も非常によいもので(10%増)、平均以下だったのは、ネパール(2%増)とスリランカ(2%増)だけであった。スリランカでは国内紛争が激化し、旅行注意通達が出されたために旅行者が遠ざかり、9月から12月の4ヵ月間に急激に旅行者数の低下を見た。冬季のピークである12月に、西ヨーロッパからと、いつもは立ち直りの早いインド亜大陸からの到着客数が急落したためである。この傾向に逆行した数少ない市場は、ロシアや中国などの比較的新しい送客市場であった。一方、モルジブ(52%増)は、主に航空アクセスの増加(定期便・チャーター便とも)と、主要市場でのマーケティングとプロモーション強化のお蔭で、2004年12月の津波から完全復興を遂げたといえる。インド(13%増)は、主として、好評を博した「インクレディブル・インディア」キャンペーンによって、同国の認知度が上がり、観光需要を押し上げた。LCCでのより簡単で安価なインド国内旅行等、質の上がった観光商品と航空会社アクセスの増加にも大きく起因する。
オセアニアの観光客到着数は不振で(0.3%増)、非常に好調であった小地域区分から非常に不調であった小地域区分までさまざまであった。すなわち、バヌアツとトンガは二桁成長、キリバス、北マリアナ、マーシャル諸島は二桁下落など。これらの低迷は、円安ならびに、燃料費値上がりによる主要市場からの航空会社の便数減少に大きく起因すると言える。円安に関していえば、オーストラリア政府との政治的関係も到着数に影響したと思われ、日本からの送客数の減少は、ニュージーランドとオーストラリアの期待外れの成果(各1.3%増、0.5%増)をもたらす原因となったといえよう。両旅行目的地国とも原油価格の高謄とそれから来る航空運賃上昇に影響を受け、それが国際市場での競争力劣化の誘因になった。
米州
実績
UNWTOによると、2006年、米州の国際観光客到着数は、世界平均伸び率の4.5%をはるかに下回る、2%プラスアルファ程度の伸びと推定されている。この平均値は、4つの地域区分ごとの様々な成果から構成されたものである。中央アメリカと南アメリカはそれぞれ6%増、7%増で、最良の業績を達成した。カリブ海は3%の伸びを記録した。しかし、同地域の到着総数の2/3を占める北アメリカの伸びが、0.5%程度であったため平均値は引き下げられた。また、これらの地域区分の平均値は、特定の時期や季節、個々の国の大きな変化を隠している面もある。全般的に言えることは、8月〜12月期のほうが、5月〜7月期よりも観光客の流れは増加へと大きく動いたといえる。
米州:インバウンド・ツーリズム
国際観光客到着数
北アメリカでは、米ドル安とカナダ・ドル高から来る購買力のシフトによって、観光客の流れにおいても「合衆国に有利、カナダに損」というシフトを生んだ。その他の要因も短期間ではあるが、強力な影響を及ぼした。自動車燃料価格の高騰と航空運賃の燃料費増のために、長距離ドライブや飛行機旅行を思い止まらせるといったことがかなりの期間続いた。米商務省(DOC)の旅行・観光産業局(OTTI)は、2006年、アメリカ合衆国への国際観光客到着数は2005年比3%増の、5,090万人に達したと推定している。それでも、米国のインバウンド観光はまだ2000年のピーク(5,120万人)レベルには回復していないということである。また、この伸びは、主要送客市場の有利な為替レートに比例した数値とはなっていない。米国のインバウンド観光業績は、送客市場や地域毎に大きな差があるものであった。2006年1月から10月まで、カナダからの到着数が7%、メキシコからの到着数(米国内へのみ)が29%と大幅増加したが、海外市場からの送客は2005年同期を下回るものであった(1%減)。また、ブラジル、中国、韓国、オーストラリア等、一部の長距離市場からの伸びは非常に大きかったものの、西ヨーロッパは、米ドル安による競争優位という背景にもかかわらず、2005年比3%減であった。複数の国の代表からなるUNWTO専門委員会メンバーは、西半球海外渡航イニシアチブ(WHTI)とその実施詳細の度重なる変更が消費者に与えた混乱を重視している(直近の詳細は指標の予測を参照のこと)。さらに、2006年、長距離市場においてビザ免除国を含め、外国人入国者に対する米国ビザ・旅券の要件をめぐる混乱があったことも重要な原因である。2006年1月〜11月の間のカナダヘの到着数は3.5%減であった。専門家委員会によると、この低下は、全体的には不利な為替レートとWHTIに、また、高い燃料価格に起因する。米国からカナダヘの日帰り旅行は、為替レートに大きく影響され、ここ数年ずっと前年割れが続いている。しかしこの為替レートは、ヨーロッパその他の長距離市場からの旅行を促進する働きをしており、アジアからの路線の一部では航空輸送能力が不足しているという報告がされている。メキシコヘの到着数は3%減となった。米ドル以上にメキシコ・ペソは急落し、本来、アメリカ合衆国からの到着数増加の誘引剤にもなることができるはずであったにもかかわらずである。2005年10月のハリケーン・ウイルマで被害のあった観光施設の修理・改修は2006年半ばまでにほぼ完了し、ウイルマの被害が最も大きかった地域からは明るい結果報告があった。にもかかわらず、総合月次数値は、2006年後半、期待に反して到着数の好転を示すことはなかった。喧伝された政治不安に加えて、強力なハリケーン・シーズンの再来に対する懸念も、需要回復の鈍化を助長したかも知れない。とはいえ、観光収入(11月末までに18%増)は非常に上向きであった。
カリブ海諸島の2006年の業績はこもごもであった。2005年のハリケーン被害を受けたか否か、新規航空サービスを誘致し得たか否か、また単に「人気があった」か否か、にかかっていた。2006年に10%超の到着数増加を確実に遂げた島には、アンギラ(10月末までで19%増)、バミューダ(11月までで10%増)、ケイマン諸島(通年で59%増)、グレナダ(10月末までで22%増)、ジャマイカ(通年で14%増)などがある。ジャマイカの伸びは当該目的地への航空輸送能力の増加に起因するが、他のカリブ海諸島の場合同様、メキシコのハリケーン・ウイルマ後の下落に負っている。ケイマン諸島とグレナダの伸びは、ハリケーンによる2004年、2005年の低迷後、2006年は有り難いことに、再来襲がなかったことを指摘する必要がある。到着数の最も多かった島々のうち、ドミニカ共和国(7%増)(対米ドルのドミニカ・ペソ高にもかかわらず、主に合衆国から)とプエルトリコ(9月末までで2.4%増)では観光客到着数は引き続き前年を上回ったが、キューバは前年割れとなった(4%減)。キューバは、スペイン、イタリア、ドイツのような主要送客市場からの需要減のため、到着数がダウンした。中央アメリカ諸国の業績は全体として非常に好調であった。ベリーズ、エルサルバドル・グアテマラ・ホンジュラス、ニカラグア、パナマなどはすべて、ここ数年の上向き傾向を維持して、2006年、8%以上の前年比増となった。コスタリカ(到着数で2%滅、年前半の収入は3%増)のみが、2006年到着数で平均以下の業績となった。
南アメリカの経済成長は、高い国際商品や原油価格で潤っており、なかでもチリ、ペルー、ボリビア、ベネズエラといった国々でその速度が増した。アルゼンチン経済の目覚しい回復も続いている。こういった背景から、2006年、地域内観光および地域外向け観光の流れが大きく増加する結果となった。同地域の二大送客市場であるアルゼンチンとブラジルの国際観光支出は二桁成長を遂げていることからもそのことは明らかである。チリ、コロンビア、パラグアイ、ペルーでは、11月まであるいは通年で10%以上の到着数増加が報告されており、アルゼンチンは2006年第3四半期までに8%の伸びに達した。ブラジルについては到着数のデータは入手できていないが、観光収入の点では、ヴァリグの事業再構築に起因するブラジル航空会社の国際航空路線輸送能力の著しい低下にもかかわらず、12%の伸び率が報告されている。エクアドル(2%減)はコロンビアからの観光客到着数の減少のために2005年より微減したが、これは、エクアドル領に入るコロンビア国民はコロンビアで発行される「pasado judicial」という、所持人に犯罪歴がないことを示す証明書を提示する要件が付加されたためである。コロンビア(13%増)は著しい成長を見せ続けており、ウルグアイは2006年の到着数で5%減となった。計画されているパルプ工場がウルグアイ川に与える環境影響をめぐる、アルゼンチン・ウルグアイ間の紛争(二国を結ぶ橋の封鎖も加わった)が続いているためである。一方、対ブラジル・レアルのウルグアイ・ペソの有利な為替レートがブラジルからの到着数増加に寄与し、もう一方の主要送客市場であるアルゼンチンからの到着数の二桁減少をある程度まで補完する一助となった。専門家委員会では、チリ、コロンビア、パラグアイ、ペルーにおいて観光供給物の質と多様性の向上が実現したことも大きく貢献していることを指摘している。
アフリカ、中東
実績
アフリカは通年予測が8%増(北アフリカ6%増、サハラ以南地域9%増)となり、二年連続して前年比率トップの地域となっている。北アフリカの伸びは主にモロッコ(9%増)の好業績に起因し、これは、航空輪送の自由化とその結果、ヨーロッパからの低コスト航空会社の参入、また観光インフラ、ホテル、アトラクション、その他施設への引き続く投資(政府投資と外国投資家の両方)、それに外国でのプロモーションの向上が生み出した前向きの反応に起因する。一方、チュニジアからの専門家委員会のメンバーは、平均をやや下回る自国チュニジアの業績(2.7%増)を、市場の不安定性と航空輸送の問題に責任があるとしている。それでも、イギリス(7%増)、フランス(6%増)からの到着数は増加している。
アフリカ:インバウンド・ツーリズム
国際観光客到着数
中東:インバウンド・ツーリズム
国際観光客到着数
手元にあるデータによる限りでは、モザンビーク(前半期のホテル宿泊数で37%増)、南アフリカ(9月末までで14.5%増)、ケニヤ(10月末までで14%増)は、2006年、最高業績を上げた。モザンビークの力強い伸びは、ヨーロッパからの観光客の増加、航空便の接続の改善、新観光商品の開発に起因すると言える。ホテルの分類・等級化が行なわれたことも国内の業界には好ましいものであった。南アフリカは2006年、非常によい観光実績に恵まれた。ランド安が同国への観光需要を押し上げたことはもちろん、新規の航空路線(アメリカ合衆国のデルタ航空等)や、南アフリカ観光局による新キャンペーン、2010年サッカー・ワールドカップに向けた高まり、そして、一部の競合目的地国の目に見える不安定性が有利に働いたことなどが原因である。とはいえ、南アフリカ航空の財務状況ならびにそれが今後のアクセスに及ぼす影響については不安が残る。
平均値以上の成果を上げ続けている同地域のその他の旅行目的地のなかでは、セイシェル(9%増)に言及すべきであろう。国際ホテルチェーンの進出と投資、東ヨーロッパからのチャーター便の増加、観光局による観光シーズン拡大の成功、これらすべてが貢献要因に挙げられる。しかし最も重要なのは、業界全体と政府とが一層協力して取り組み、それが対費用効果を上げ、より世界で突出する達成の一助となったことである。モーリシャス(4%増)、レユニオンとも、チクングンヤ熱が観光需要に与えた形響のために2006年は低迷したが、いずれも危機は去り、首尾よく従来の送客市場も今後の新興市場も安堵させ得たようである。特に、モーリシャスは航空輪送自由化の恩恵を実感しつつある。
中東では、全般的な地政学的状況、特にイスラエル・レバノン危機にもかかわらず、多くの旅行目的地国で好業績が報告され、2006年国際観光客到着数は4%増の見込みである。とはいえ、年初に出されたUNWTO専門委員会の2006年予測評価は、2005年をはるかに凌ぐ144であったが、2006年終了時の最終的な評価はそこから大きく落ちた123となっている。
レバノンの前半期の観光客到着数は49%増で、ラフィク・ハリリ前首相を殺害した2005年2月の自動車爆破事件が口火となった一連の事件から、この国が立ち直りを見せたことを裏付ける結果となった。にもかかわらず、7月中旬以降の事件によって、第3四半期の業績は59%減となり、結果、通年の到着数は7%減となった。攻撃で破壊されたベイルート空港は2ヵ月近く閉鎖された後、空域封鎖解除に従い9月8日に、紛争勃発以来初めて再開した。ベイルート空港閉鎖のほか、空爆による原油漏出でベイルートの海岸への被害もあった。南部の港町ティルではローマ時代の霊廟のフレスコ面が崩れ落ち、バールベクでもローマ遺跡の石が倒された。
イスラエルも2006年初、観光客到着数は2005年比33%増になるだろうという前向きな予想がなされていた(イスラエルはUNWTOの分類ではヨーロッパの一部であるが、その中東危機への関わりから見て「指標」当号では近隣国の章で分析を行なう)。けれども、速報データによると、最終数値は180万人で4.2%減であった。前半期の22%増のあと、到着数は後半期ようやく12月には回復したものの、7月から12月を通しては26%減となった。興味深いことに、アメリカ合衆国からの到着数は2005年比8%増を記録し、イスラエルヘの到着客が最多の国となり、戦争の影響はなかったと見られる。
しかし、中東地域にも朗報がある。バーレーンが2006年前半に26%の伸びを見せ、イエメンもここ数年の増加傾向を持続し、11月までで到着数17%増を記録した。ニューヨークタイムズに「今年最も旅行したい国」として取り上げられたことで、この国の観光潜在性が国際的に認知された。2005年の伸び率を維持したヨルダン(8%増)、シリア(第3四半期までで2%増)、エジプト(6%増)も好調である。エジプトで外国人行楽客を含む20名の死者を出した、4月の紅海リゾート地ダハブでの自殺爆弾事件を考えると、この伸びはいっそう重みのある数値であるといえよう。ドバイが9月までのホテル及び同等宿泊施設宿泊客数で4%の伸びを見せてはいるが、湾岸諸国のデータは今のところほとんど入手できていない。所有する別荘か、友人や家族の家や別荘に滞在する観光客が多いため、ホテルの業績は到着数の動向を完全に反映しているとはいえないとはいえ、ドバイ空港を通る乗客の交通は昨年16%以上増加して2,870万人になったことは言及する必要があろう。
|