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「マラッカ・シンガポール海峡における航行安全と環境保全の向上に関するシンポジウム」の開催について
 2007年3月13日・14日の2日間、マレーシアのクアラ・ルンプールで、マラッカ・シンガポール海峡(マ・シ海峡)沿岸三カ国の研究機関と日本財団により、「マラッカ・シンガポール海峡における航行安全と環境保全の向上に関するシンポジウム」が開催されました。
 
1 シンポジウムの概要
 
(1)開催の経緯・目的等
 この2〜3年、マ・シ海峡の沿岸国と利用国その他の利害関係者が協力して安全・環境・セキュリティ対策の向上を図ろうとする動きが急速に活発化しています。2005年からはIMO(国際海事機関)が沿岸国と共同で開催する一連の会議が開催されており、2006年9月のクアラ・ルンプール会議では、安全・環境対策に関する6つのプロジェクトと協力のメカニズムが沿岸国側から提案され、議論が大きな進展をみました。2007年9月には一連の会合の締めくくりとなる会議がシンガポールで開催される予定であり、この場で沿岸国と利用者との協力実現について合意がなされることが期待されています。
 こうした取組みはこれまで政府間の協議を中心に行われてきましたが、民間レベルでもマ・シ海峡における協力をめぐる議論を行って政府レベルでの取組みを補完することを目指し、今回のシンポジウムが企画されました。本シンポジウムは、民間の役割、特に海峡の直接の利用者である海運業界の役割について検討することをねらいとしています。
 
(2)開催主体
 シンポジウムの開催主体は、以下の4つの民間研究機関です。
・マレーシア:マレーシア海事研究所(Maritime Institute of Malaysia/MIMA)
・インドネシア:東南アジア研究センター(Center for Southeast Asian Studies)
・シンガポール:S. ラジャラトナム国際研究大学院(S. Rajaratnam School of International Studies/RSIS)
・日本:日本財団((財)運輸政策研究機構・(社)日本海難防止協会が協力)
 
(3)参加者
 沿岸三カ国を中心に幅広い国々からの研究者、政府関係者、海事関係を中心とした企業の関係者のほか、INTERTANKO等の国際的な海運関係団体の代表者も含め、計194名が参加しました。
 
(4)シンポジウムの内容
(1)冒頭の開会セレモニーの中で、マレーシアのチャン・コン・チョイ運輸大臣がナジブ副首相の基調演説を代読しました。沿岸国の研究機関の代表者に続き、笹川陽平・日本財団会長が挨拶を行いました。
 
チャン・コン・チョイ
マレーシア運輸大臣
 
笹川陽平
日本財団会長
 
ダトー・チェア
MIMA所長
 
クワ・チャン・グァン
RSIS渉外部長
 
ハシム・ジャラール
東南アジア研究センター所長
 
(2)日本及び沿岸国の研究機関からそれぞれのテーマに沿った発表が行われ、これを受けてセッションごとにパネリストが意見を述べ、さらに、一般の参加者からの質疑・コメントを受けた議論が行われました。
 
(3)国際的な海運関係団体など関係する6団体から意見表明が行われました。
 
中本 光夫
日本船主協会
理事長
 
ティム・ウィルキンス
INTERANKO
アジア太平洋地域部長
 
トーマス・ティムレン
BIMCO
セキュリティ・国際業務部長
 
(4)最後に、主催4団体間の協議により「合意文書(Consensus Document)」が了承されました。その内容(抜粋)は以下のとおりです。
 
シンポジウムの合意文書の内容(仮訳・抜粋)
 
 4つの研究機関は、以下の点について合意した。
 
A. マ・シ海峡の航行安全と環境保全の向上は、次の各点から導き出されること。
1. マ・シ海峡は、今後とも国際的な海上輸送の面で最も重要な貿易ルートである。世界の貿易の拡大により、通航量は2004年の40億DWT(載貨重量トン)から2020年には64億DWTまで増加し、事故や海洋汚染のリスクが増大する。
2. マ・シ海峡の通航量の増加により、生物多様性と海洋環境、沿岸地域の生活や水産業・観光業は大きなリスクにさらされる。
3. 航行援助施設の整備・維持その他の安全対策のコストは、マ・シ海峡の通航量の増加に伴い著しく増加することが予測される。
4. 予備的な費用対効果分析の結果によれば、航行援助施設の整備による便益は明らかに費用を上回っている。
5. 日本がこれまで30年にわたり航行安全・環境保全対策のために150億米ドル以上を任意に拠出してきたことは、賞賛されるべきである。
6. 国連海洋法条約第43条の規定の下で、利用国が航行援助施設の維持や海洋汚染防止のために沿岸国と協力する責務があることを認識し、最近いくつかの利用国は、2006年のクアラ・ルンプール会議で沿岸国から提案されたプロジェクトに対し支援を表明している。
7. 主要な受益者として、海運業界やその他の利用者もまた、航行安全・環境保全を維持・増進するために要する金銭的費用を分担すべき。
 
B. 費用負担の方法は、次の各原則に基づくべきであること。
1. マ・シ海峡を領海に含む沿岸国の主権が尊重されなければならない。
2. 費用負担の方法は、第43条の協力の枠組みに関する規定を含め、国連海洋法条約の規定の実現を目指すものであるべき。
3. 海運会社や他の利用者は、マ・シ海峡の航行安全・環境保全の向上に向け、企業の社会的責任を認識し、沿岸国に必要となる支援を任意に提供すべき。
 
C. マ・シ海峡の航行安全と環境保全のための基金は、次のような形で設置されるべきであること。
1. クアラ・ルンプール会議で議論されたように、マ・シ海峡の航行援助施設の維持・更新その他航行安全・環境保全対策に対し、海運会社やその他の利用者が任意に金銭的な支援を行うルートを提供するため、基金が設立されるべき。この基金を「マラッカ海峡基金」と呼ぶことにする。
2. 海運業界やその他の利用者は、海洋汚染や海難事故の原因者となる可能性が高いことから、任意に上記の基金に資金拠出すべき。これら以外の主体からの資金拠出も歓迎する。
3. 現在、年間40億DWTの船舶がマ・シ海峡を利用している。仮に海峡を利用するすべての船舶が載貨重量トン当たり1セントを「マラッカ海峡基金」に拠出すれば、基金の収入として毎年4千万米ドルが生み出されることになる。
4. 監査や費用対効果分析の実施を含め、上記の基金の設立に当たっての管理その他関係する事項についてはIMOと協力し、主要な資金拠出者と協議しながら、沿岸国間で合意すべき。
 
D. 次の点について歓迎すること。
1. 利用者からの任意の資金拠出を伴う基金の設立を含め、沿岸国と協力しながら、航行安全・環境保全の向上に向けてさらに協力を続けることについて、日本財団から意見が表明されたこと。
2. マ・シ海峡の航行安全・環境保全対策のための任意の資金拠出について、日本船主協会から支援継続の申し出があったこと。
3. 基金設立のための任意資金拠出の進め方や仕組みについて、ICS、BIMCO、INTERTANKOが、関係者との協議に入ることに関心を示したこと。
 
E. 以下のとおり協力を強化すること。
1. MIMA(マレーシア海事研究所)は、4つの研究機関を代表し、このシンポジウムの合意文書を沿岸三カ国政府に送付し、2007年のシンガポール会議でこのシンポジウムの結果について発表させることを求める。
2. 4つの研究機関は、上記の基金の設立・管理・運営に関する事項について、共同で更に研究を進める。


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