日本財団 図書館


第2部 医療講演会「最近のIBD治療について」
社会保険中央総合病院 高添和正先生
<司会>
 先生は昭和52年大阪医大を卒業され、その年から国立病院医療センター、昭和57年から社会保険中央総合病院内科医師として現在まで勤務されています。担当の患者さんが2000名おられるということでびっくりいたしました。今日は先生よろしくお願いいたします。
 
<高添先生>
 こんにちは。今日鹿児島からみえている方いらっしゃいますか?鹿児島にはないと聞いていたので、鹿児島にも欲しいと思います。どんなに病気が酷くても、どんな局面でも最後まで踏ん張る事が大切です。ここに来ている人たちは元気な方が多いと思うんですが、こういう会で他の元気な人から元気をもらって帰って欲しいし、今元気な人は元気のなさそうな人に元気を上げて欲しいと思います。各地から来ている人もここでの出来事を仲間に伝えていただければ幸いです。
 
 
(スライド)
 これは炎症性腸疾患、IBDという言葉ですがこの言葉自身は古くからある言葉ではありません。潰瘍性大腸炎は歴史が古くからあります。クローン病も比較的古くからあると最近わかってきました。
(スライド)
 潰瘍性大腸炎、約8万人これ2002年度、クローン病2万2千人。五万人を超えたので潰瘍性大腸炎は特定疾患の見直しをする。これは当たり前、早くからやってなかったのが悪いんです。いきなり厚生省の談話が出たのが嘆かわしいことです。徐々に徐々にその事を想定してやっていけばよかったのにやらなかったということで潰瘍性大腸炎の人はとても心配なことと思っている人がいらっしゃる。
 潰瘍性大腸炎とクローン合わせて10万人いるということで、他の疾患と違うのは非常に患者さんが若いというのが大きなポイントです。もう一つ発症した時から辛い症状がある。発症したときはすごく軽くだんだん重くなっていくというのとは違います。ちなみにクローン病は生活習慣病かと言った先生がいます。秋田大学の先生にいますけども、その概念に近いものがあるかもしれないと途中でおわかりいただけると思います。
(スライド)
 推定発症年齢が非常に若いと、潰瘍性大腸炎とクローンは少し違うと言われていますが、潰瘍性大腸炎のほうが比較的高齢の方でも発症する事があるということがあります。もう一つはクローン病でも比較的高齢で発症する方と生まれて10日位で発症する方もいますので色んな背景が違いますので同じ診断基準を使っていいかまだ分かっていません。
(スライド)
 なぜIBDは、炎症性腸疾患は増えたのでしょうか?炎症性腸疾患というのはとても清潔なお家、清潔な環境の下の人に多いとされています。有名なのはスウェーデン、デンマークという北欧において潰瘍性大腸炎はクローン病というのは頻発しだした。その後北米の方が増えていった。当時クローン病が1932年に報告された頃、調度アメリカでは電気冷蔵庫が普及し始めた。しかもその当時アメリカではお金持ちはユダヤ系、ニューヨークにいる人たちがたくさん居たわけです。今もニューヨークの有名な公園のすぐ横にマウントサイナイという病院がありますがそこに入院していた。そこに沢山入院していたユダヤ系の人からクローンという概念の病気が出てきました。冷蔵庫の多いところ炎症性腸疾患が多いと大体はっきりしているんです。
(スライド)
 クローン病が環境因子と関係あると言われているんですけども、ここだけちょっと見ていただきたい。
環境因子:喫煙でUCの人は危険因子で↓、DCクローン病が↑ これは潰瘍性大腸炎の人は煙草を吸っていてもなりにくいというデータです。クローン病は吸ってれば吸ってるほど悪くなる。今ここで、クローン病で煙草を吸っている人はやめて下さい薬の効きが悪くなったり、手術の率が高くなったりというのは明らかです。あともう一つ。長崎の人いらっしゃいますか?長崎大学牧山先生もされているんですが潰瘍性大腸炎のときに虫垂切除をうけていると潰瘍性大腸炎になりにくいという事があって、それは疫学という大きなスタディでもって調べているものですから、個々の方に当てはまるか分からないのですが、潰瘍性大腸炎で難治の方に虫垂切除したらどうなるかという事があって、ためした先生が牧山先生で、効果のある人が出てるという事ですが、研究としてはまだ始まったばかりです。
:虫垂切除 UC↓ CD0
(スライド)
 IBD患者の現状ということですが、状態が良いというのは緩解。緩解の意味わかります?なんとなく症状が軽くなって、なんとなく血液データもよくなって・・・手術による緩解、症状が良くなったり緩和されたり・・・いい加減ですね。緩解の定義はなんだと思いますか?緩解の定義はとても難しい。本当の意味の緩解とは粘膜の治癒がないとダメなんですね。そういう意味では組織学的にも炎症が取れている状態をもって緩解と言うのが正しいんですが、患者さんが言うのと、医療者では違うんです現場では症状を良くして、普通の生活が出来ればいいということになります。
(スライド)
 潰瘍性大腸炎ですが、この写真を見て潰瘍性大腸炎の診断をつけられるでしょうか?クローン病の方は特異的な所見がみられるが、潰瘍性大腸炎は実は非特異的なんです。患者さんの症状を聞いて、血液のデータ、色んな検査のデータがあって始めて潰瘍性大腸炎でしょといわれる。潰瘍性大腸炎は他の疾患とくらべれば非特異的だということがあります。
(スライド)
 潰瘍性大腸炎の診断の手順です。これは持続性があり、潰瘍性大腸炎を疑う。ここで感染性腸炎の疑いを除外する。内視鏡をやってみて、他の病気が除外できたら初めて潰瘍性大腸炎と言えるわけです。
(スライド)
(スライド)
 ここに、直腸炎型16.8%、左側大腸型41.4%、前大腸炎型とあります。厚労省の方で支援を打ち切ろうと思っているのはこちら直腸炎型のタイプであります。どういうふうに診断するか、大切なのは内視鏡で見て直腸に炎症があるということだけで診断されたらとんでもない事です。組織に炎症があるかどうか調べなければならないので、直腸をこえて細胞を調べてそこに炎症がなくて初めて直腸型といえます。年をとって潰瘍性大腸炎となる方の場合、虚血性腸炎を否定しなければならない。熊本の場合は10万人当たりの比率が多いように思います。
(スライド)
 変な分類があって遠位大腸炎型、左側大腸炎型と。遠位大腸炎型とは肛門に近い直腸とS状結腸までのものを遠位大腸型。内視鏡だけ判るという先生がいらっしゃいますが問題があると思います。造影というのはとても大切です。クローン病なんかも造影をやっておかないといけません。
 
 
(スライド)
 臨床的重傷度、潰瘍性大腸炎の場合です。排便回数6回、ここで一番問題は血便、便潜血反応ではなく真っ赤な便が視認できるかが大切。3+、1+、+-、排便回数が6回。よくクローン病でもそうなんです。便の回数6回以上ないしは血便がありますか?ということで、いつも先生5回なんですが・・・その人に下痢が無いことになるのか、患者さんにとって不満だろうと思います。クローンの場合この回数ではっきり区切られますので重傷度が違います。潰瘍性大腸炎の場合は血便があるかないか、1年間に1回でも、2回でもあれば血便有りと書いてもらってもうそではありません。
(スライド)
 臨床経過と重傷度、本当の重症というのはどうも少ないような感じがします。ここ最近お薬の開発治験が行われているが、正確に潰瘍性大腸炎を見てみると重傷タイプというのが極めて少なくなってきている。それは厚労省も学会も研究班も言っているが、やはり治療が上手くいっているから重症が少なくなっているんだろうという感じがあります。要するに軽症が増えてきている。そこに患者さんの数が増えたという事と合わせて特定疾患制度を維持せんと、要するに5万人を超えたら希少難病はなくなります。そういうところの意図が働いていたのかもしれません。
(スライド)
 内視鏡でみるとこういう赤いのがあります。
(スライド)
 どんな合併症がありますか?クローン病より少ないですけど。たまに狭窄と言って狭くなる事があります。出血がなかなか止まらない。あともう一つは10年以上に渡って症状が悪化し続けていて、しかも全大腸炎型、ないしは左側大腸炎といっても広い範囲に渡って炎症を持続する場合に癌の問題が出てくる。後、時にポンと穿孔してしまったり、中毒性巨大結腸症といって非常に大きく腸が麻痺してしまってその為に電解質のバランスに異常がきて不幸な転帰をとるということもあるわけです。
(スライド)
 後もう一つは、いわゆる全身性症状、腸以外にも起きる病気があります。特にこれは壊疽性膿皮症というものでありますが、大腸型のクローン病と潰瘍性大腸炎の両方に出来ます。これは腸の粘膜の状態が良くなると消えます。最近LキャップとかGキャップという白血球除去療法を週に3回くらい頻発でやるとこういう状況も非常に良くなってしまうという報告例が、上尾中央病院の大森先生からたくさん出ています。そういう意味でこういう合併症が出たときに白血球除去療法を考えてもいいと思います。あといくつかのものがありますが潰瘍性大腸炎だけではなくクローン病もでますけど、診てもらっていますか?診察受けていますか?内視鏡は診察じゃないですよ・・・あれは検査です。診察とは身体的所見を取ることを言うんです。お話を聞きながら、口の中を診て、皮膚を診て、打聴診をして、胸腹部をして・・・特にクローン病の患者さんはお腹を触らない医者はやめて下さい。クローン病のインデックスがあるんですが、良い悪いの中にお腹の腫瘤が触れるか触れないかというのが一つありますからお腹を触ってもらわないなら代わってもらってもいいです。潰瘍性大腸炎の方は脈を必ず脈を取ってくれ、熱も必ず測る、37.2度以上か。「脈を取る」「腹を触る」「熱を測る」この3つをやってもらわないと診察したことにならないですよ。検査は診察ではないと覚えていて下さい。
 大腸がんのリスクというのは10年以上経つと上がると言われているので、頭に置いて下さい。どうやって防いだらいいか、予防因子、一つはメサラジン、やはり飲んでいた方がいいでしょう。もう一つは葉酸、これビタミンなんです。こういうのを沢山とって欲しい。ペンタサとかをきちんと飲んでいる方が発ガン率は下がる。もう一つが定期的な受診といわれています。サボらずに!年に4回以下の人は特定疾患から外してもいいと思っています。処方が60日までしかないので6回は受診することになる。6ヶ月も受診しない人は状態がいいと思うので、返上してもいいですね。
(スライド)
 クローン病とか潰瘍性大腸炎の治療薬、開発薬のことで、一般的に診断がついたばかりの頃メサラジンやペンタサなどを使いますよね。潰瘍性大腸炎はひどければステロイド使ったりしてます。クローンは栄養状態が悪いと成分栄養を使いましょうといいますが、潰瘍性大腸炎の場合重症だったらシクロスポン、サイクロスポン使いましょうと、重症になる前に使えばものすごくいいです。年をとって潰瘍性大腸炎になった人は最初の1、2年頑張っていると良くなってしまいます。免疫抑制剤のほうを使います。
(スライド)
 潰瘍性大腸炎の治療シーンですがシクロスポリンの位置づけがはっきりしてきました。
(スライド)
 一般的に炎症性腸疾患に対する治療法は免疫因子の除去、増悪因子の除去、食事を気をつけましょうとか栄養療法やりましょうとか場合によっては抗生剤を使いましょうとか、対処療法は下痢止め、ドペミンとかタンナルミン使いましょうとかです。実際には、免疫機構の調節に入りましょう」いうことです。これアミノサルチル酸、サロピリンとかペンタサを使いましょう。これステロイドですからプレドニンとか使いましょう。これ免疫抑制剤ですからサイクロスポリンとかFK50これタクロリンムス、これ日本で開発したんですがなかなか許可にならない。外国では許可されているのに日本では許可になってないんです。それから白血球顆粒急除去療法、これは白血球除去療法、抗サイントカイン療法、抗TNF-α抗体を使った治療法があります。実はこれはクローン病にも潰瘍性大腸炎にも使える。
(スライド)
 潰瘍性大腸炎にペンタサはよく効くようです。ペンタサの注腸とペンタサの経口が無難な治療としてはっきりしてきました。ステロイドなどホルモン系の薬は急性期の時に使うのはいいんですがたいていはダラダラ使ってしまうだからステロイドの副作用が出る。
(スライド)
 白血球除去療法で悪い白血球を悪いのだけ取り除いてしまうというやり方。これはどこの施設でも出来るはずなんですが、少し高い。1回は14万5千円で保険上は10回まで認められているので145万円。クローン病の時に使うレミケイドは体重で違うけど3回打ったら120万くらい。潰瘍性大腸炎の人でも145万、クローン病の人は高くて120万〜130万注射です。いずれにしても白血球除去療法は薬と違ってやったあと副作用がない。
(スライド)
 プレドニンと白血球除去療法との比較というので、明らかに白血球除去療法の方が改善率がいい。
(スライド)
(スライド)
 潰瘍性大腸炎の治療指針ではステロイドは悪いという事になってしまって、ステロイドが効かないときはサイクロスポリンとか白血球除去療法をやろうという事になってきています。それ以外に免疫抑制剤アザチオプリンとか使う方法も考えられています。特にクローン病での使われ方に主な目的になったし、サイクロスポリンとかタクロリムスとか潰瘍性大腸炎に使われるようになりました。


前ページ 目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION