<開催主旨>
人工呼吸器装着在宅療養者は、家族介護者の介護負担が大変大きい。これを背景として、日本ALS協会が国に要望書を提出したことをきっかけに、平成15年6月「看護師等によるALS患者の在宅療養支援に関する分科会」報告書が出された。在宅ALS患者の療養環境整備課題として、(1)施策の総合的な充実、(2)訪問看護サービスの充実と質の向上、(3)医療サービスと福祉サービスの適切な連携確保、(4)在宅療養を支援する機器の開発・普及の促進、(5)家族の休息(レスパイト)の確保といった在宅療養サービスの充実が盛り込まれている。また、(1)入院から在宅への円滑な移行、(2)緊急時等の入院施設の確保といったように、入院と在宅療養を的確に組み合わせることが示されている。
たんの吸引行為に関しては、たんの吸引の安全な実施のために、(1)専門的排たん法の普及、(2)日常的なたんの吸引に関する適切な対応(プロトコール)を示すことを推進し、家族以外のものによるたんの吸引については、「一定の条件下では、当面の措置として行なうこともやむを得ない」と定める旨が提示された。さらに、厚生労働省は平成17年3月、ある一定の条件下でALS以外の在宅患者や障害者にもヘルパーによるたんの吸引を認めることを都道府県に通知した。ある一定の条件とは、医師・看護師による(1)療養環境の管理、(2)在宅患者の適切な医学的管理、(3)家族以外のものに対する吸引方法の教育・指導、(4)緊急時の連絡・支援体制の確保が十分を図られた上で、(5)文書による患者の同意を明確にして行なうことである。
しかし、ALSをはじめとする人工呼吸器装着療養者の在宅療養生活は、未だ改善されていないのが現状である。また、平成18年度は報告書の3年目の見直しの年になっている。そこで、今回この報告書の理解を深めること、この通知を受けて人工呼吸器装着療養者の療養環境整備がどのようにすすんできているのか、特に吸引問題に関連しての成果や課題を知ることを目的に本シンポジウムを開催するものです。
1 主催者挨拶
吸引問題を考えるシンポジウム実行委員会 委員長 笠 肇さん
NPO法人熊本県難病支援ネットワーク 理事長 野口 次助さん
2 来賓挨拶 熊本県健康づくり推進課 課長 東 明正さん
3 I部「吸引問題を考えるシンポジウム」
コーディネーター:
熊本県難病支援ネットワーク事務局長 中山 泰男さん
熊本大学医学部保健学科看護学専攻助手 柊中智恵子さん
シンポジスト
(1)ALSの当事者・家族からの現状報告
日本ALS協会理事・茨城県ALS協会支部事務局長 海野幸太郎さん
(2)熊本県神経難病医療の現状と課題
独立行政法人国立病院機構 熊本再春荘病院副院長 今村 重洋さん
(3)ケア提供者側の現状と課題
春風ヘルパーステーション 管理者 寺田 節子さん
(4)在宅療養を支援する機器の開発・普及の促進について
大分協和病院 副院長(診療部長)山本 真さん
II部 痰自動吸引器見学会(1時間の予定)
大分協和病院 副院長(診療部長)山本 真さん
株式会社 徳永装器研究所 徳永 修一さん
吸引問題を考えるシンポジウム実行委員長
笠 肇(りゅう はじめ)(熊本県ALS協会熊本県支部 事務局長)
本日はゴールデンウィークのまた只中にもかかわらず多くの人に参加して頂き本当にありがとうございます。
テーマは難病患者さんの喀痰吸引です。呼吸器を着けて在宅療養をしているALS患者と家族にとって吸引は以前から重要な課題でした。本日はその問題について真正面から取り組む議論が交わされることに私たち患者家族は大きな期待をもっています。
特に、大分からお越し頂いた山本先生から自動吸引器の開発に関わる話が聞けるだけでなく、実際に実演もしていただけるそうで、期待が高まっています。この器械が実用化されれば患者さんとご家族はどんなに助かるかわかりません。共同で開発に当たられた徳永装器の徳永さんにもご無理を願って来て頂いています。ほんとうにありがたいことです。
東京のALS協会本部から理事の海野さんに来て頂いています。海野さんはお父さんがALSです。茨城支部の事務局長もしておられます。今朝は茨城のご自宅を早朝に出て電車とジェット機を乗り継いで熊本に来て頂きました。ALS協会は今年設立20周年を迎えます。患者さんも高齢化しています。協会を支えるメンバーも高齢化が目立ちます。海野さんはその中で、今最も期待されている若手のホープです。
病院の先生方や看護師さんヘルパーさん専門職の方々も多数参加していただいています。先月、熊本でも嬉しいことがありました。本日お話し頂く再春荘病院の今村先生と熊本南病院の植川先生のご協力で、痰吸引の実技講習会が二度に渡って行われました。ヘルパーさんが多数参加されました。在宅患者の療養環境が大きく前進するものと期待されています。
行政改革の下で難病をとりまく医療・福祉はいっそう厳しくなってきています。関係者の皆様のより一層のご支援とご尽力を切にお願いする次第です。本日は本当にありがとうございました。
特定非営利活動法人 熊本県難病支援ネットワーク
理事長 野口次助
私たちNPOは難病当事者及び家族への支援並びに社会啓発を目的に、昨年春、個人、患者団体代表、有識者を交えて設立された団体です。また、昨年6月10日には熊本県より委託を受けた熊本県難病相談・支援センターをオープンさせ、活動の輪を更に広げているところです。
さて、最近では介護保険施設である療養病床の削減や慢性期疾患の入院日数の減など新聞を賑わす話題ばかりです。これは医療費の抑制策の一つだと思っています。では、国がこれだけ在宅化を推し進める中、受け皿となる支援体制はどれほど進んだでしょうか?患者・家族が安心して暮らせる状況あるのでしょうか?難病それぞれに多くの問題を抱えていますが、命にかかわる問題に“待った”はききません。今回、吸引問題を取り上げたのは、多くの方々に実情を知っていただいて、これから何ができるのか、皆様と考えて行きたいと思ったからです。本日のシンポジウムをかわきりに、熊本らしさが良い方向で動きだすことを期待して、ご挨拶といたします。本日はありがとうございました。
<ご挨拶>
熊本県知事 潮谷 義子
本日は、NPOの皆様方と、活動を支えておられるたくさんの方々のお力でシンポジウムが開催されることになり、関係者の皆様のご尽力に心からお礼を申し上げます。
また、難病患者の皆様やそのご家族におかれましては、治療や療養に努められ、あるいは看護や介護に取り組まれ、なかでも人工呼吸器を使用され在宅で療養されている患者やご家族の方々のご苦労はいかばかりかとお察し申し上げます。
県では人工呼吸器を使用されている在宅療養の難病患者の皆様に対する支援としまして、医療費の助成や訪問看護の費用を助成する事業等を実施しておりますが、患者の皆様のQOLの向上及び家族の皆様の負担の軽減を図るためには、在宅療養環境の更なる向上が求められております。特に本日のテーマであります「吸引問題」については、訪問看護サービスの充実が必要不可欠でありますが、地域においては訪問看護師の不足等もあり、マンパワーの確保が必要となっています。県としましても、平成15年6月に、ホームヘルパー等ご家族以外の方にたん吸引が認められたことを受け、昨年度、県内2カ所でホームヘルパーの皆様方への実技研修を実施したところでございます。研修会場では参加された皆様が非常に熱心に受講されたと聞いております。
本県では、年齢や性差、障害の有無等に関係なく、すべての人が生活しやすい社会を創造するという「ユニバーサルデザイン」の考え方を県政運営の基本理念としており、行政だけでなく、企業、団体、NPOやボランティアなど様々な主体とのパートナーシップのもと、そうした社会の実現を目指しております。
今日のシンポジウムでは、関係者の皆様からの貴重な発表をもとに、患者の皆様の現状を知り、各界からのご意見をいただきながら、行政や医療、福祉関係者、そして患者の皆様御自身が、それぞれの立場からこの問題について「何処が問題か」「何ができるか」を深く考える機会としていただき、大いに、活発な議論がなされますことを期待しております。
最後になりましたが、本シンポジウムのご盛会、並びにこの取り組みの輪が益々広がっていきますことを祈念いたしましてご挨拶とさせていただきます。
平成18年5月6日
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