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4.2. WCO税関データモデル第2版
 
4.2.1. WCOとは
 世界税関機構(条約上の名称は関税協力理事会(Customs Co-operation Council、略称CCC)であるが、現在はワーキングネームとしてWorld Customs Organization(略称WCO)を使用している)は、各国の税関手続の調和(Harmonization)・簡易化(Simplification)と税関行政の国際協力を推進する国際機関であり、1952年11月4日に設立され(本部はブリュッセル)、2007年1月現在170カ国・地域が加盟(我が国は1964年に加盟)し、加盟国全体で世界貿易の99%を取り扱っています。
 WCOは、京都規約(1974年)及び改正京都規約(2000年)の作成と導入をはじめとして、長年にわたり、税関手続の調和・簡易化に取り組んできました。9.11同時多発テロ事件以降は、WCOは、国際的なサプライチェーンのセキュリティと貿易円滑化への取り組みを強化しており、2005年6月の総会において、「グローバル貿易の安全確保及び円滑化のための基準の枠組み(以下、「基準の枠組み」)を採択しました。
 「基準の枠組み」の構築の目的は、グローバルトレードの安全確保と円滑化にあります。同枠組みは以下に述べるWCOデータモデルとともに、この目的実現のために、重要な役割を担っています。
 
 この「基準の枠組み」は、二つの側面を持っています。即ち、(1)税関相互の協力、(2)税関と民間とのパートナーシップであり、具体的にはそれぞれ以下の項目を包含しています。
(1)税関相互の協力
・統合されたサプライチェーンの管理
・貨物検査権限
・検査機器における近代的技術
・リスク管理システム
・ハイリスク貨物またはコンテナ
・事前電子情報
・絞込みとコミュニケーション
・達成度目標
・安全評価
・職員規律
・輸出安全検査
(2)税関と民間とのパートナーシップ
・パートナーシップ
・安全確保
・認定
・テクノロジー
・コミュニケーション
・円滑化
 
4.2.2. WCO税関データモデル第2版開発までの経緯
 WCOデータモデルは、1996年6月にフランス・リヨンで開催されたG7サミット会議の合意を受けて、G7各国の関税当局の専門家により標準化・統一化の作業を開始し、2002年1月にWCOに引き継がれ現在まで至っています。リヨン・サミット会議からの標準化・統一化に関する指令(Mandate)は以下の3点です。
(1)税関当局が要求する申告項目標準化・簡素化
(2)共通電子フォーマットの開発
(3)税関以外の他省庁が求める項目の標準化
 WCOではG7からの作業を引き継いだ後、G7データセット、G7 UN/EDIFACTメッセージ仕様(The G7 EDIFACT message specifications)、G7コードリストからなる所謂「WCOデータモデル第1版」を2002年6月に採択しました。引き続きWCOは、危険性の高い貨物を識別するために必要な項目を含めるために第1版を再検討し、2003年6月に第1.1版を出版しました。その後、通過情報(Transit & Transport requirements)を含めた国際標準に即した第2版の開発作業し、2005年6月の総会で採択されました。更にWCOは、国連勧告第33号で述べられている「Single Window Concept(data requirements and reducing redundancies)」を念頭にいれた第3版の開発に向けた作業を開始しています(2008年予定、以後3年ごとにWCOデータモデルは見直されることとなっています)。
 
4.2.3. WCOデータモデル(WCDM)とは?
 WCOデータモデルとは、最大限(MAXIMUM)の標準の枠組、統一化且つ標準化されたデータセットと標準的な電子メッセージを含んでいます。WCOデータモデルは、国際商取引において貨物の輸出入業者が税関当局への申告や、船社(船舶代理店)が船舶等輸送手段の入港、出港、通過そして認可の為に他の政府機関に対して提出するために使用されます。改定京都条約16では、関税法に準拠する最小限のデータを税関当局に求めています。
 
16 改定京都条約:「The Revised Kyoto Convention 2000」と呼ばれ、グローバルな通関手続きの開発と近代化の基礎となるもので、一般的な付属文書には近代的な通関行政が導入すべき以下の事柄を勧告しています。
1. 標準の導入と簡素化した手続き
2. 関税管理技術に対する絶え間ない開発と導入
3. 情報技術の最大限の利用
4. 税関と商取引の協力的なアプローチ
 
4.2.4. WCOデータモデルの内容とは?
 WCOデータモデルは、色々の部品(ブロック)から構成されています。その内容は次のWCOデータモデル第2版 ブロック構造図の通りです。
 
WCOデータモデル第2版 ブロック構造図
 
4.2.5. WCOデータのメリットとは?
 WCOデータモデルのメリットとしては、以下のようなことが考えられます。
(1)情報を早期に共有することにより政府機関のデータ交換のための共通プラットフォームを通じて安全と安心を促進
(2)早期貨物の引渡しが可能
(3)運送業者や輸入業者により提供される冗長且つ繰り返しの多いデータを削除
(4)貨物の引渡し時に提供される必要データの削減
(5)法の遵守費用の削減
(6)より幅広い関税当局の協力を促進
 
4.2.6. WCOデータモデル第2版のデータ項目
 WCOデータモデル第2版には以下のものが含まれています。
(1)改正京都条約モデル
(2)ビジネスプロセスモデル
(3)ユースケース図、アクティビティ図、シークエンス図、クラス図
(4)標準化・統一化された最大246のデータ項目
(5)標準UN/EDIFACTメッセージ
(6)UN/EDIFACTメッセージ導入手引書
(7)XMLスキーマー
 特に上記の中で特筆すべきこととして、
(1)UMM17及びUML18の採用
(2)貨物通過情報の包含
(3)船舶情報の包含
(4)UCR19
 ここでは、(6)から抽出したデータ項目を纏めたリストを資料―1として添付するとともに、WCO資料による業務別のデータエレメント数は下記の通りです。
(1)輸入申告(IM1):154データ項目
(2)輸入申告(IM12):119データ項目
(3)輸入申告(IM22):128データ項目
(4)輸出申告(EX1):135データ項目
(5)輸出申告(EX12):77データ項目
(6)輸出申告(EX22):95データ項目
(7)通過申告(TRT):68データ項目
(8)入出港手続(CONV):80データ項目
(9)輸出積荷目録(CRI):116データ項目
(10)輸入積荷目録(CRE):100データ項目
 
17 UMM: UN/CEFACT Modeling methodology(企業間電子商取引の業務プロセスを策定するための開発方法論である。UN/CEFACTが標準化を行っている)。
18 UML: Unified Modeling Language(オブジェクト指向によるモデリングを行う際に使われる標準的な表記法。業務分析やビジネスデザイン、システム設計、ソフトウェアモジュール開発などに利用される。)
19 UCR: Unique Consignment Reference(UCRは貨物(Consignment)をユニークに識別するための通関用参照番号で、最大35桁。内訳は、Last digit of Calendar + Country or Territory of Export + Company(Supplier)Id + Internally applied)
 
「業務別項目件数一覧表」
 
4.2.7. UNeDocsへの参加
 同時に、WCOはUNeDocs20プロジェクトにも積極的に参加しています。WCOが計画しているUneDocsの基本的な立場は以下の通りです。
(1)国際標準の採用:UN/CEFACTの成果物(UMM、UNTDED等)やその他国際標準
(2)サプライチェーンで必要なデータエレメント
(3)セキュリティ、国際商取引の簡素化そしてSingle windowを考慮
(4)UneDocsのサブセットとしてのWCOデータセット
(5)輸出入業者がUneDocs XMLを使用して各国税関との間で電子的申請が出来る環境の構築
 
20 UNeDocs: UN/CEFACTのTBG2で行われている作業で、国際条約で定められた国際文書(例えば、INVOICE、Waybill、Shipping Instruction、Export/Import Declaration等)を「世界電子貿易文書」として使用できる環境開発を行っている。成果物の一つとして、中小事業者が参加できるような廉価のソフト提供も揚げられている。
 
4.2.8. WCOデータセット第2版対応UN/EDIFACTメッセージ群
 WCOは、データモデル第2版開発に際しWCOデータモデル第1版で使用されている、CUSDEC(Customs Declaration Message: 輸出入貨物申告用メッセージ)、CUSCUR(Customs Cargo Report Message: 積荷目録)、CUSREP(Customs Conveyance Report Message: 入出港申告)を一部修正した新たなメッセージ群を開発しました。即ち、WCODEC(WCO Declaration Message)、WCOCUR(WCO Cargo Report message)そしてWCOREP(WCO Conveyance Report Message)の3つのメッセージです。これらメッセージ(案)は、近い将来にUN/CEFACTに提案され正式化の為の審査(Assessment)を受けることとなると思われます。
 
4.2.8.1. WCODEC
 WCODECメッセージは、UN/EDICACTディレクトリーのD.05Bをベースに開発されたメッセージ(案)です。当メッセージの機能は、CUSDECメッセージの機能同様下記の通りです。
 This Customs Declaration Message (CUSDEC) permits the transfer of data from a declarant to a customs administrator for the purpose of meeting legislative and/or operational requirements in respect of the declaration of goods for import, export or transit.
 The message may also be used for example: - to transmit data from an exporter in one country to an importer in another country; - to transmit consignment data from one customs administration to another; - to transmit data from a customs authority to other governments agencies and/or interested administrations. ― to transmit data fro declarant to the appropriate data collection agency on the movement of goods between statistical territories.
 WCOは、WCODECメッセージを利用して以下6種類のMIGs21を開発しています。
(1)IM1: 通常の輸入申告に相当
(2)IM12: 簡易申告の取引申告に相当
(3)IM22: 簡易申告の特別申告に相当
(4)EX1: 通常の輸出申告に相当
(5)EX12: 日本に該当する手続きなし
(6)EX22: 日本に該当する手続きなし
 参考までに、WCODECメッセージのboilerplateは資料―2の通りです。
 
21 MIG: Message Implementation Guidelinesの略名で、実際にUN/EDIFACTメッセージを導入する際の当事者間で合意した導入手引書のこと。現在では、当事者間で都度開発するのではなく、業界で開発したMIGsが準備されており、WCOも国際標準データモデルに準拠したMIGsを準備している。
 
4.2.8.2. WCOCAR
 WCOCARメッセージは、WCODEC同様にUN/EDICACTディレクトリーのD.05Bをベースに開発されたメッセージ(案)です。当メッセージの機能は、CUSCARメッセージの機能同様下記の通りです。船社から税関当局に提出される「積荷目録」用のメッセージで、我が国でもSea-NACCSで使用されていることご承知の通りです。
 This message permits the transfer of data from a carrier to a Customs administration for a purpose of meeting Customs cargo reporting requirements.
 参考までに、WCOCARメッセージのboilerplateは資料―3の通りです。
 
4.2.8.3. WCOREP
 WCOREPメッセージは、WCODEC/WCOCAR同様にUN/EDICACTディレクトリーのD.05Bをベースに開発されたメッセージ(案)です。当メッセージの機能は、CUSRESメッセージの機能同様下記の通りです。我が国でも船舶の入出港届に使用されています(但し、現在港湾EDIシステムでは別のメッセージを使用しています)。WCOREPを使用して船舶の入港手続き、出港手続二つのMIGが準備されています。
 This Customs Conveyance Report Message (CUSREP) permits the transfer of data from a carrier to a Customs administrator for the purpose of meeting Customs reporting requirements in respect of the means of transport on which cargo is carried.
 参考までに、WCORESメッセージのboilerplateは資料―4の通りです。
 
 以上で、輸出/輸入申告、積荷目録そして船舶の入出港の電子データ交換を行うための環境整備は出来ましたが、「通過」については、WCO内での更なる検討が必要との事で、MIGの公表を行われていません。


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