平成18年度『海洋教室』を終えて
呉竹原地区小型船安全協会指導員 呉ヨット連盟理事長 藤井 健
1. はじめに
呉市は風光明媚で自然豊かな瀬戸内海に面した中核都市で、旧海軍時代から現在に至るまで『海』をキーワードに『海』と共に発展してきました。また、平成8年の第51回国民体育大会では、夏季大会のヨット競技の開催を引受け、阿賀マリノポリス内の仮設マリーナを使って大成功のうちに終了しました。
学校週5日制が始まり、子供達に土曜日をいかに有効に活用させるかは、地域住民の責任でもあり、学校サイドも勉学の補いをはじめ、人間成長に繋がる活動に活用することを期待しています。また、新学習指導要領の小学校の「体育」や中学校・高等学校「保健体育」には、「水辺活動(すいへんかつどう)」という言葉が新たに加わりました。これは子供達が自然の中での遊びなどの体験活動が不足している現状から、たくましく生きるための体力と豊かな人間性の育成のためには、体育と自然体験活動が課題解決の一つに挙げられているためです。
海洋教室の理念は、「海に親しみ海を楽しみ海で遊ぶ」とし、『海』を舞台にした様々な野外活動を通して、子供達に自主性、創造性、公正さ、独立心や思いやりの心を培って欲しいと願っています。私達はヨットを通して自然の中でスポーツ活動を続けてきましたが、ヨット関係者の立場からだけではなく小型船安全協会会員の立場からも、子供達に大自然である『海』の面白さ、豊かさ、厳しさを野外活動を通して体験し、海事思想の普及に繋がるよう海洋教室を企画しました。
2. 参加者と指導者
呉市内の中学生、小学5、6年生を対象にして先着20名の予定で、呉市の「市政だより」に募集案内を掲載して頂いたところ、最終的には5年生11名、6年生4名、中学1年生3名、2年生1名、合計19名が申込みしました。これ以外にも小学生低・中学年の参加問い合わせが多数ありましたが、海の上での活動が多いため高学年以上にしていることを説明して納得して頂きました。
主催は呉竹原地区小型船安全協会(庭田雄二会長)で、呉ヨット連盟(川田欣佑会長)と西内海支部呉フリート(永沼勝也キャプテン)の運営協力があり、後援団体には広報のために呉市教育委員会、海上の安全確保のために呉海上保安部、ヨットの借用やディンギー・セーリング会場の確保のために海上保安大学校になって頂きました。
最も肝心なのは現場における指導者でしたが、呉ヨット連盟の構成団体である海上保安大学校ヨット部、呉宮原高校ヨット部、市立呉高校ヨット部、夕凪会(呉宮原高校ヨット部OB会)、西内海支部呉フリート所属会員および呉ヨット連盟役員が分担して当たりました。
3. 活動報告
参加者の感想文は活動内容をよく表しているし、内容の評価にもつながるために、これらを紹介しながら報告したいと思います。
1)小型ヨット体験〔7月8日(日)、海上保安大学校〕
梅雨の真っ只中、雨が心配された曇り空の中でスナイプクラスとFJクラスを使って小型ヨット体験を実施しました。陸上でヨットの艤装を手伝い、全員で協力してヨットを抱えてスロープから海に浮かべ乗り込みました。途中で小雨になったため、少し早めに終了しました。
呉海上保安大学校、呉高校のヨット部の人達と一緒に小型ヨットに乗って、自分で操縦しながら自由に広い海でセーリングしました。風も3〜4mで快適なセーリングを体験し、呉湾、吉浦湾や海上保安大学校沖などをセーリングしました。
以下に参加者の感想文を掲載しますが、原稿通りひらがなのままで紹介します。
「僕が一番心にのこったことは、小型ヨットです。自分でそうじゅうでき、右へかじをやれば、左に動くし、左へかじをやれば、右にうごく、それがけっこう楽しかったです。こうたいのときは、ボートにのりこみ、そうかいに楽しみました。けれども、ちょうどその日はてんこうがわるく、みじかい時間だけしかできませんでした。このつぎはちゃんとのってやろうと思いました。だから来年もやりたいです。ありがとうございます。」(小5)
「ヨットのそうじゅうを海上保安大学の方々が優しく教えて下さったので、すぐにマスターしました。何回も、船よいしたのですが、小型ヨットのそうじゅうという、いい体験ができて良かったです。僕は来年も応ぼしようと思っています。とても心に残る、いい経験になりました。そして、海が大好きになりました。ありがとうございました。」(小5)
2)巡視船「みささ」体験航海〔7月26日(水)・呉海上保安部、宝町ふ頭〕
呉海上保安部に集合し、保安部の方から海の安全についての話を聞き、救命具の付け方を教えて頂きました。巡視船パレードに参加する小型船安全協会所属の2隻のパトロールボートに乗り込み、呉湾を一周して潜水艦基地、造船所や製鉄所を海上から見学しました。パトロールボートから中央桟橋に上陸し、宝町ふ頭に横付けしている「みささ」に乗り込みました。「みささ」には各地の子供会や、ボーイスカウト、海洋少年団など多くの団体や家族連れが乗り込み、担当の保安部の方から巡視船や保安部の仕事についてくわしく説明を聞き、巡視船、ヘリコプター、高速艇、パトロールボートによるパレードも体験しました。
「今回、海洋教室に参加して一番心に残ったのは、巡視船「みささ」の体験航海でした。「みささ」の高い所から、呉市内や倉橋島を眺めるのは最高でした。又、操舵室に入ると、僕達の知らない、色々な機械があってびっくりしました。ソナーやレーダー等の画面を見ていると、面白くてあきませんでした。一方みささのしたじきに、機銃がついていたり、マラッカ海峡まで行ったりと、大変な職業なんだなと思いました。もしかしたら死んでしまうかも知れないのに、それを覚悟で、この職業についた人達は、とてもすごい人達だなと思いました。」(中2)
「当日は呉の海上保安部集合だったので、そこから乗るんだと思っていたら、呉港から乗ることを知った。その後、巡視船に乗ると、すごく大きな船だなと思いました。出航してしばらくすると、後ろに小さな巡視船やヘリコプターが船をぬかして行ったが、その時すごい風で、荷物が飛ばされるかと思った。大きい船なので、波が来ても余りゆれないのは、小さい舟とはちがうと思った。そして呉港に到着すると、ゆっくり桟橋に着いた。その後よく考えると、あんな所に船が入れるのはすごいと思った。」(中1)
「ぼくはこの海洋教室に2回しか参加できなかったけど、この2回がとっても楽しかったです。1回目は船にのってヘリコプターや、いろいろな船が見れて良かったです。それにあんなにすごい船にのったこともなかったので、船のすごいところや、運転をとても近くで見ることができたのも、とってもおもしろくて、よかったと思います。」(小5)
3)バーベキューといかだ作り〔8月20日(日)、かるが浜〕
参加者の親睦を深める意味で、5・6人のグループに分かれてバーベキューをしました。主催者側が全員の食材を準備すると、雨天時の行事中止の場合の食材の処理が難しくなるため、食材は1,000円以内で自分が準備してくる計画としました。着火剤を準備していましたが、炭に火を付けて熾すことが結構難しく、指導者は炭の積み方やうちわの使い方など年相応の知恵を見せてくれました。炭熾しも、子供達には難しいが面白い良い体験になったのではないでしょうか。
昼食後はいかだ作りをしました。いかだの材料は竹とフロートと竹を井桁型に組むためのポリプロピレンロープ及びコンパネです。直径15cm、長さ16m位の6・7本の竹は、江田島から海上を船で運び、海から直接海岸に荷揚げしました。竹は2.5m前後に切りますが、ノコギリを使ったことのない子供も多く、太さの割に中空の竹は意外と簡単に切れるのに驚いている様子でした。
フロートに使う発泡スチロールは、使い古して廃棄されたオイルフェンス用のもので、数年前から使い回ししているものを利用しました。
竹を井桁型に組んでロープで結びますが、結び方が悪いと浮かべている最中にいかだがバラバラに分解してしまいますが、今年は2台とも何とか持ちこたえました。以下は参加者の感想です。
「今までで、一番楽しかった体験は、バーベキューとイカダ作りです。バーベキューはウインナーやキャベツを持ってきていたけれど、お肉しか食べることができませんでした。イカダを作る前の休み時間に、長いローラースライダーに乗りました。そのローラースライダーに行くには、すごく時間がかかりました。しかしクモのすがあったり、ローラーがまわらなかったりしたので、こまりました。
竹とロープで土台を作ったとき、だいじょうぶかなと思ったけど、ぼくのチームのイカダはこわれていませんでした。ほかのチームはこわれていました。また、こういう海よう教しつがあったら、また行って、みんなとシーカヤックをしたいです。」(小6)
「海洋教室のみんなと仲よくバーベキューができました。とてもおもしろい話やおもしろいことをしてくれました。イカダ作りでは、みんなと協力してイカダを作ることができました。海の上ではなかなかすすまないので、みんながおりて、けったりひっぱったりしてすすませたり、イカダが岸につくと泳いだりしました。私にとっては初体験の海洋教室だったけど、みんながやさしく話しかけてくれたりしてとっても楽しかったです。もし来年もあるのであったら行きたいと思います。」(小5)
「ぼくが、一番楽しかったことは、8月20日にあった、バーベキューとイカダを作って遊んだことです。なぜかというと、子どもだけで、バーベキューをするのははじめてだったし、初めてイカダを作って遊んだり、初めてのことばっかりだったからです。
イカダ作りは、ぼくの想像していたのと少しちがいました。イカダを作るのは、けっこうむつかしいということがよくわかりました。イカダを作るのはむつかしかったけど、進めるのはもっとむつかしかったです。けって進めないといけなかったからです。楽しみにしていたシーカヤックができなくてざんねんだったけど、他の行事はとても楽しい思い出になりました。」(小5)
「二つ目に楽しかったのはイカダ作りとバーベキューでした。最初にしたバーベキューは、肉がくっついてうまくやけなかったけどおいしかったです。昼からやったイカダ作りは、作るのにとても苦労しました。だけど、みんなで、海を泳ぎながらイカダを楽しんでのることができました。またこのようなきかいがあれば参加してみたいです。」(小5)
4)大型ヨット体験〔10月1日(日)・クレイトンベイホテル専用桟橋〕
これまで使わせて頂いていた川原石桟橋は、大きさは良いのですが船の波が来るため、クルーザーを着艇する際若干気になるとのことでした。そのため今年はクレイトンベイホテルの専用桟橋を使わせて頂けないかとお願いに行ったところ、その場で大変快く了解して頂きました。更に10月1日はホテルでは大きなイベントが予定されており、駐車場は無理だろうと思いながらお願いした所、2台なら立体駐車場を使わせて頂けることになりました。実際には直ぐ隣の有料市営駐車場を使うことが出来ました。
当日は朝から小雨模様で、大型艇のオーナーさん出航して頂くのが心苦しかったのですが、今年は雨や台風で行事を2回も延期しているので強行することにしました。11時半には呉フリーと所属の「卑弥呼」「オーバス」、「美住」、「フローラ」の4艇が、既に桟橋に待機していました。
参加者は運動会などで子供が11名と少なかったので、親御さんにも声を掛けたところ8名の申込みがあり、記録撮影をする呉海上保安部の2名と合計21名が4艇に分乗させて頂きました。最初は機走でやがてセーリングで呉湾内のクルージングを楽しみました。これらのヨットの中には食事を作るキッチン、水洗トイレ、ベッドもあり、シャワーのついているものもあり、このようなヨットは太平洋を横断することもできますし、一人で世界一周している人もいることを聞いて感動しました。
親御さんから頂いたお礼を掲載します。
「海洋教室では、様々な経験をさせて頂き、有り難うございました。親では経験させることの出来ない行事ばかりで子供はこの上ない宝物を貰ったようです。
今日は母まで大型ヨットに乗船させていただき、またとない優雅な経験に大変感謝しております。子供はまた来年も参加したいと申しておりました。多々ご迷惑をかけたのではないかと思います。お詫びと重ねて礼を申し上げます。お世話になり有り難うございました。」(保護者)
「この度は色々とお世話になりおつかれさまでした。今回初めてこのような企画を知り、本当にめずらしい色々なことを体験させて頂いて、本当にありがとうございました。親子ともども、それぞれ感激させていただきました。お世話は、本当に大変だったでしょうが、とても感謝しております。ありがとうございました。」(保護者)
5)あとがき
この海洋教室は呉竹原地区小型船安全協会が中心となって企画し、呉海上保安部と呉ヨット連盟がサポートをする形で行ってきました。
ヨッティングだけに限らないで、幅広い海での野外体験型活動を通した海事思想の普及を目的にした内容で実施しましたが、一番の成功はメンバーの多くが目を輝かして体験し楽しんだことでしょう。このことは参加者の感想文によく現れており、来年も教室があれば参加したいという声が多く聞かれ、今年の海洋教室も成功だったと考えています。
終わりに予算措置をして頂いた瀬戸内海小型船安全協会に心からお礼を申し上げます。また、特に小型ヨットの貸し出し、指導、場所の提供をして頂いた海上保安大学校、事務方を勤めて頂いた呉海上保安部及び参加者募集に有効だった呉市教育委員会のご後援に対して深謝します。
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