日本財団 図書館


2. 音を聞くことを大切に
 耳は目とならぶ重要な働き(聴覚機能)をしています。私たちは自然に音を選び出すことをしています。そこには、自分の意志で集中力を発揮して、聞こえてくるさまざまな音の中から、自分に必要な音を選び出して“聞く”ということをしています。
 子どもは毎日の生活の中で、自分のまわりで起こっている音に気づくようになります。そして「おやっ」と音に心を傾け、よく聞くことで、その音が何の音であるかを聞き分けるようになります。この“聞き分ける力”は子どもがいろいろな音を区別し、音をまね、やがて話すことを学習していくための基礎となります。
 赤ちゃんが初めて耳にし、出会う音の多くは、自分に向かって話しかけられる愛情に満ちたお母さん・お父さんの声であり、新しい、楽しい世界をくり広げてくれるおもちゃの音です。赤ちゃんに身近な人の声や快いおもちゃを通して、まずその音に注意を向けさせることが大切です。もう少し大きくなると、自分で音を出すことを楽しみ、音の出るおもちゃへ関心を示すようになります。そして、おもちゃを操作することで、音の出ることがわかってくると、音の出ることを期待してあそぶようになります。子どもは、音を聞くという心地よい、楽しい経験を通して、この時期に大切な“聞く力”と“聞き分ける力”を育みながら、いろいろな事柄を学んでいきます。
 私たちが日々接している子どもの中には、呼んでも振りむかないために、耳が聞こえないのではと心配することがあります。しかし、子どもの行動を注意深くみていると、ある種の音には反応しているということが多く、聴力の障害を考えるより、外界への興味のうすさや反応の乏しさによるものと考えられます。
 また、子どもの中には、聴覚が鋭敏すぎるために、声や音に反応して落ち着かなかったり、大きな音や特定の音をこわがって情緒が不安定になる子どもがいます。この場合、ささやきかけるというごく弱い刺激から始めて、音を受け入れられるようにしていきましょう。
 目の不自由な子どもは、視力のハンディーを補うために、特に触ること、聞くことの感覚を育てることが、外界をとらえる力になります。
 ところで、子どもが喜ぶ・好きだからといって、ビデオ・カセットテープ・テレビなどをつけっぱなしにはしていないでしょうか。音が絶えず聞こえていて、子どもが自分の出す音に注意を向けにくい状況は好ましくありません。子ども自身が、自分の力を発揮して“聞くこと”が大切なのです。それには、まわりの大人が聞くことに注意を向けるための工夫をすることが必要です。
 ここでは、聞くことを大切にしたあそびを紹介していきます。
●お母さんの話しかけ・あやし
 お母さんの声や顔や体が、子どもが最初に出会う最高のおもちゃです。お母さんは授乳やおむつの取り替え、泣いた時や眠りにつく時など、あらゆる場面で自然に言葉かけをしたり、あやしたり、歌をうたったりしています。この時子どもに手足の動きを止める、泣きやむ、振り向く、ほほえむ、声を出すなどの反応がみられたなら、音の違いに気づき始めたと言えます。こうして子どもは音に気づき、「おやっ」と耳を傾けることを学んでいるのです。
 お母さんは、やさしい声で子どもの表情に目を向けながら、できるだけ多く話しかけたり、あやしたり、身のまわりの世話をして下さい。子どもは、身近な大人の親しみのこもった声がすると、不快をとり除いて、心地よい状態にしてくれることを学びます。
●ガラガラ(写真2-22)
<市販されているガラガラ>
 大人が音を聞かせたり、子どもに持たせることで音を出すことができます。ガラガラにまだ手を出さない子どもには特に大人がくり返し聞かせることをして下さい。また、ガラガラ類で大人が音をきかせる時には、次の点について注意して下さい。
・快い音を子どもの耳元で鳴らし、その音に気持を向けさせます。子どもが音に気づき、聞き入っているかをまず確かめましょう。
・耳元で鳴らされている音に聞き入っている様子がうかがえたら、いろいろな方向から近づけたり、音の高低、強弱、質などを変えて聞かせましょう。
 
写真2-22 市販のガラガラ(右)と手作りのガラガラ(左)
 
・子どもの表情や反応をみながら試みましょう。
 聴覚の鋭敏な子どもや反対に鈍い子ども、聞く力の弱い子どもなど、その反応はさまざまです。不快そうな表情や緊張がみられた時は、この音刺激が快い、楽しいあそびではないと判断し、あそび方(音の聞かせ方)に工夫をする必要があります。
<簡単に作れるガラガラ>
 手作りのガラガラは、一人ひとりの子どもに合わせて作れることが嬉しくもあり、楽しいものです。手にできる太さを選べること、握る力の弱い子どもには重さを調整できること、中に入れる物で聞く力だけではなく、みる力、またガラガラの持つ部分の素材を変えることで、触って感じる力も一緒に育てることができます。作り方については、後で紹介します。
●魔法使いサリーのスピカタクト(写真2-23)
 ボタンを押すことで、電子音に合わせて赤い光が点滅し、途中から音が変化するこのおもちゃは、聞く力と同時にみる力を育てることができます。大人が音をきかせることで、子どもは音の変化に気づき、そのことを楽しみ、声をたてて笑います。新しい発見を心から楽しんでいる姿がみられる魅力的なおもちゃです。また自分で持ったり押したりしない子どもには、大人が音を出し、いろいろな方向から音を聞かせることで、音に注意をむける力が育ちます。
●自分で音を出すあそび
 子どもは、いろいろな音を聞かせてもらうことと同時に、自分の動作を繰り返すことで音をひきおこし、聞いています。
 
写真2-23 スピカタクト
 
写真2-24 積木くずし
 
写真2-25 ニギニギ人形
 
写真2-26 カラコロボックス(手製)
 
<自分の体>
 自分の口や手や足などを動かすことで音を出し、そのことを楽しみます。
<ビー玉・豆類>
 お盆や空缶、太鼓の上などでビー玉や豆をころがしたり、上から落とすことでその音と動きを楽しむことができます。
<積木くずし>(写真2-24)
 子どもは、積み上げた積木を手や指でくずすことに喜々とした表情をみせます。くずれる時の音と光景にスリルがあるようです。
・木製、プラスチック製どちらの積木でも音が楽しめます。
・家の中にあるものでは紅茶の空缶、小さな空箱の中に鈴などを入れて、手製の積木が作れます。
<音のする人形>(写真2-25)
 軽く押すことで音の出るこのおもちゃは、子どもが手にしやすい大きさで、なめてあそんだりもします。洗うことができますので、お風呂の中でも、お母さんと一緒に押して音を楽しんで下さい。
<起き上がりこぼし>
 手で触れれば簡単に音がでるこのおもちゃは、どの子どもにとっても音に注意を向け、音を期待するあそびが楽しめます。また、前後左右にゆらゆら揺れてやわらかな音を出すので、子どもは目を見張り、じいっとみつめていたりします。自分から手を出さない子どもには、大人があそんでみせましょう。そして、子どもの手を持って一緒にあそぶことを繰り返して下さい。
●カラコロボックス(写真2-26)
 写真のおもちゃは手作りのものです。丸い穴の下に空缶が下げられていますが、この穴の中に物を落とすあそびです。
 このあそびは物を落とす時に感じるスリルと、落とした後どんな音がするかな?と音を期待するスリルを楽しむことができます。音の存在を意識し、自分で音を出すことを楽しむようになった子どもたちには人気のあるおもちゃです。
 家庭では、空缶や箱を利用して中にいろいろな物を落してあそぶことができます。大人の膝の上やテーブルに向って、また床にお座りをして、物を落したり、取り出したりして楽しんでみましょう。


前ページ 目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION