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「社会貢献者表彰」選考を終えて
 
 社会貢献支援財団の評議員として、初めて「社会貢献者表彰」の最終審議に臨んだのは2000年のことである。私は今でもよく覚えている。非常に緊張していた。それを聞いた友人たちは、せせら笑ったものだ。
 「相撲協会にガンガンとモノを言うあなたが、何の緊張よ。よく言うわよ」
 だが、私は前もって送られてきた受賞候補者の資料を読んだだけで圧倒されており、最終審議の場に出る前から土俵際まで押されていた。その資料は、受賞候補者たちの記録で、選考委員が最終審議まで残したものである。いずれも「人間はここまで他者のために力を尽くせるものなのか」と、本当に声もなかった。時間的にも経済的にも負担があるにもかかわらず活動を続け、中には他者を救うために、妻子を残して命を失った人さえいる。全員が受賞して当然なのに、「審議・選考」するという役目は荷が重く、緊張は大きかった。
 その後、初めて出席した表彰式で、曽野綾子選考委員長(当時)のご挨拶は衝撃的だった。ああ、何とすてきなスピーチかと胸をうたれた。それは次の部分である。
 「実は昨年も申し上げたことなのですが、副賞の百万円については、長年、人のためにお尽くしくださった皆さま方のことですから、このお金も有意義に、他人のために使おうなどとお思いかもしれません。しかし、どうぞそんなに堅くお考えにならず、長年のお働きに対して、気楽にお使いになって頂きたいと願っております。
 百万円ありますと、お子さまとご一緒のハワイ旅行、お宅のお風呂場やお台所が古くなっておられましたら最低限の修理、かなり状態のいい軽自動車の中古車の購入ぐらいでしたら可能でございます。父上を失われたお子さま方が、将来、上級学校へ進まれる時には、父上が密かに残された親心として入学金の一部にでもして頂けましたら、どんなに嬉しいでしょう」
 私は賞金の出る受賞式で、こういうスピーチは聴いたことがないし、想像さえできなかった。まして「社会貢献」の賞金ともなると、世間の目とてうるさいだろう。そうでなくても受賞者は「賞金は自分だけがもらったものではない」と思いがちだし、社会に還元しようと考えるだろう。自宅の風呂場や台所の修理にあてたくても、やってはならぬと思うはずだ。
 そんな中で、選考委員長は世間と受賞者に対し、毅然と、しかし笑顔で先手を打たれた。何という鮮やかさと愛情だろう。私は受賞者達の負担や努力が少しは報われる気がして正直なところ安堵したし、嬉しかった。
 本年の受賞者の皆々様も、黙々と社会や他者に尽くされたり、我を忘れて危険な中に飛び込んで行かれたりという方々ばかりである。現在私は選考委員も拝命しており、評議員の頃から数えると今回で七回目の選考、表彰式になるが、こればかりは「慣れる」ということがない。毎年毎年、候補者の資料を読んでは圧倒され、土俵際に立つのは同じである。
 せめて、皆々様がこれからも行動を続けていく活力になりますようにと願いをこめ、私が衝撃を受けたスピーチをご紹介させて頂いた。なお、曽野委員長は2005年に退任されるまで、毎年、ご挨拶の中でこの部分を繰り返しておられた。
選考委員 内館牧子
 
「こども読書推進賞」選考を終えて
 
 今年はいじめ事件が大問題になっている。こどもが自殺した学校の校長先生が当惑しきった表情で、言い訳じみた記者会見をしている。本質的な問題解決は、今後もないだろうと感じてしまう。
 私が毎日新聞東京本社の社会部長をしていた12年前、やはりいじめ事件が連日のように報道された。「いじめられている子の味方をする子がいない」「下手にかばったら自分がいじめられてしまう」「教師までがいじめに加担していた」など、今いわれていることは当時すでに指摘されていた。しかも現在のいじめは12年前よりさらに深刻化している。
 これはどういうことなのか?反省は何も生かされていない。周期的に騒がれ、また12年後に更なる惨状をさらけ出すのだろうか。「いじめるこどもを出席停止にする」といった対処療法では問題は解決しない。数十年かかって悪化したことは直すのに数十年かかるのだ。
 ところでいじめが教育現場での暗とすれば、こども読書運動は明であろう。さまざまな人々の努力が長期的に継続し、こども達が以前よりずっと本に親しむようになったのだ。
 読書活動で非行が減ったというレポートを見たことがあるが、読書が盛んな学校では、いじめも少ないのではなかろうか。いじめをなくすにはこども読書の推進のような地道な長い活動しかないと、私は思っている。
 今回の「こども読書推進賞」受賞者の活動はどれもこども達の自主性を大切にし、こども達同士のコミュニケーションや情操を豊かにするものだった。
 過疎地に廃バスを利用して作られた「大欠なかよしバス図書館」の運営はこども達が主体。こども達の墓地清掃のお駄賃などが図書購入費だ。「伊豆味小中学校」は中学生が小学生に読み聞かせを行う。生徒会を中心としたアルミ缶回収が本の購入費になり、こども達が本を選択する。「中切小学校」も購入図書選定は児童が中心だ。
 受賞者に共通するキーワードは「自発」。お仕着せの読書でなく、自分たちが何を読みたいか考え、図書購入にも貢献する。低学年の小さい子のために本を読んであげることにより、1人っ子も弟や妹が出来たようなものだ。
 今回も甲乙つけがたい30件の候補が最終選考に残った。その中で受賞3件はこども達の「自発」「自主」を大事にしているのが評価されたと思う。奨励賞の「九段幼稚園・小学校」も幼稚園児を小学生が世話する仕組みが目立った。「醇風小学校」は海外との交流がユニークだった。
 そしてどの読書活動も長年に亘って続けられている。とくに教育の世界では一朝一夕に出来ることは少ない。いじめ事件が大騒ぎされているのを見るにつけ、こどもの読書離れに危機感を持った親や学校が始めた今回の受賞者のような「こども読書推進活動」に学ぶべきだと思っている。
選考委員 中島 健一郎


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