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3-4 波の理解が我が身を守る(参考文献11)
 波の種類は多様で、磯波、さざ波、風浪、ウネリなど総称して波といっている。鏡のような海面に風が吹き渡ると、海上では風のエネルギーにより波の形を作り始める。そして風の吹いている時間が長いほど波形が大きく成長していくが、風の強さによってその大きさが異なる。また、広い海面と湾内のように狭い海域とでも波の成長が変わってくる。このような条件が磯波となり風浪となるのだが、一度波が発生すると、地球の重力や水の表面張力の働きで元の水面に戻ろうとする運動がある。しかし、前述の波を作る原因のすべてが満たされていると、波は動きだし前進を始める。これが波動で周辺に伝搬してゆくのである。
 波の構造は極めて複雑で、実際の海上では時間的にも不規則に昇降して、進行方向もそれぞれ異なっているものである。このように、見掛けの波を、世界の海洋学者がそれぞれの学説を立て研究を重ねているのだが、すべての理論をここに掲載することは極めて困難である。しかし、多くの学説と理論を基に、気象庁では波浪用語の約束を作り数値的予報を発表している。そこで波浪用語の一部を説明しよう。
 波浪の成因については既に述べたが、複雑な波浪構成を考えるため、すべての波浪は一方向から伝搬してくるものとすれば理解し易い。次から次へと伝搬してくる波を、高さと周期を観測して合計平均すると、ある程度の波高と周期が理解できるが、この数値は実際には利用できない。そこで利用したり研究調査したりするため、数値の約束を作ることになる。これが有義波高であり最高波高や最大波高と言われるものである。そこで約束された波浪の表現内容を説明しよう。
 私たちが海上を眺めて、今日は波が高いとか、穏やかだと言葉で表わされている波浪は、専門用語で有義波高と言っている。そこで有義波高の成り立ちを簡単に述べれば理解できる。
 次から次へとくる波の高さを100個観測しよう。そして、波の高いものから3割取り出すと、数にすれば33個となるが、この33個の波すべての高さを合計し33で割り算してみると、ここに平均された波の高さが数字で出てくることになる。この平均された波浪の高さを有義波高と名付け、調査や研究に使用されている。
 この有義波高が一般に眺めてみたときの波高となっている。しかし、実際海上に出て感ずることは、この有義波高の中には危険を伴う波高が数多く含まれていることを経験されていることと思う。そこで今度は100個観測した波浪のうち1割の10個だけ取出し平均してみると、有義波高より高い波を表現することができる。この1割の波高を最高波高として気象庁では波浪予報や波浪注意報として数値予報の言葉となって発表されているものである。
 気象庁では昭和47年(1972年)1月から日本付近の波浪天気図を作り放送している。現実の海面では無数の波の干渉・合成が繰り返されており、波はそれぞれ位相が異なり、干渉した際に静止水面からの変位が相殺されて、波があまり高くならない場合もあるが、しかし、複数の大波がたまたま位相が合致してぶつかると、思いがけない大波が出現する。「三角波」「一発大波」などと呼ばれる巨大波はそういった波と思われ、確率としては数千波に1波、数万波に1波の現象としても、時化が長びけばそれだけ巨大波出現の危険性も増す。
 数多く発生している波の中には、たった一発だけの大波があることを常に考えておく必要がある。この一発の最大波高を受け昭和44年(1969年)1月5日、日本の遥か東の太平洋上で鉱石運搬船ぼりばあ丸5万トンが遭難し、31名の船員が行方不明となっている記録も残っているので、波浪の高いときは、それだけ危険も潜むことを記憶しておくことが必要である。
 大洋の中では、一般に風速が10mになると高さ5mの波が立ち、風速20mになると波高12m、風連30mだと20mの高波が発生していると言われている。
 図3-8は、波高に対する波の周期を表したものだが、風が強くなり長い時間吹けば吹くほど、周期(秒)が長くなることを示している。風速はノットで計算してあるが、数字を半分にすれば、日本で一般に使用されている秒速になる。30ノットなら15mの風だと考えればよい。
 
図3-8 波高に対する周期
 
 例えば50ノット(25m)の風が6時間吹けば周期が1秒、18時間吹き続いたと考えれば斜線の吹続時間18時間で50ノットの線の結ばれた左の方向を見ると14秒となる。長時間の風が吹き続けば続くほど、波の周期が長くなることを示している。図3-9は、実際に役立つグラフだから十分理解して利用して頂きたいと思う。
 縦の線は、風速の線を示している。各縦線の上下に数字の10、20、30、40と記してあるがノットで表しているため半分にすると秒速となる。次に横線を見よう。左右に入っている数字は最高波高で、気象庁で発表している波高(m)となっている。また、表の中の曲線は、風の吹続時間を記入している。曲線の中に示している数字2、4、6は風の吹続時間であるが、曲線と曲線の中間は案分して吹続時間を割り出して使用する。
 
図3-9 波浪の性質とその予報
 
 例えば縦の線の風速50ノット(25m)のところを23時間の吹続時間までたどり、それから左右の数字を見ると2m50センチの最高波高を知ることかできる。更に50ノット(25m)の風が8時間吹続したと考えれば、曲線の吹続8時間のところで左右の数字を見ると、最高波高が7m示してくれる。即ち風連と風の吹き続いた時間が分かると、最高の波を知ることができる。このグラフはある程度広い湾内(東京湾・駿河湾)や日本近海で使用可能なため利用度が高い。
*三原山の噴煙が山をなでると大時化が来る
*夏は南の強風が続くと大波が来る
*大きいウネリは台風接近
*風が止んでも沖は大波残る
*沖が高鳴りするときは海荒れあり
 ことわざの中でも、風の強くなることを伝えているものは、波浪の高くなる原因にもなっているので、これらを総合して考えれば利用度も高くなるだろう。
 前述のように、波浪が大きく成長するためには、風の強さ、吹いている時間及び面積などすべてを総合して考えなければならない。これを専門用語でフェッチと言っているが、このフェッチが大きければ大きいほど波浪が大きくなることを理解することが、我が身を守り家族の悲涙を無くすことになる。
 
[豆知識] 風向の順転と逆転(参考文献12)
 風向は瞬間毎に変化しているが、長い時間に亘って注意すると、風向がゆっくり、東→南→西というように時計の針の方向に変化することがあり、この場合を「風向の順転」と言う。これは、風に関連する低気圧が観測者の北側を通過しようとしていることを示している。
 この反対に西→南→東と時計の針と反対方向に変化する場合を「風向の逆転」と言い、風に関連する低気圧が観測者の南側を通過しようとしている。
 もし、このような風向の変転が起こらず、気圧が次第に下がり、風が強まってくるならば、低気圧は真っ直ぐに、観測者方向に近づいていることを示す。
 


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