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国際学術協力に係る海外派遣 派遣報告書

 事業名 国際学術協力に係わる海外派遣
 団体名 日本船舶海洋工学会 注目度注目度5


船舶復原性に関する最新研究の調査
―船舶復原性分野へのCFD適用および艦艇の安全性評価手法について―
橋本 博公
大阪大学大学院工学研究科
1. はじめに
 日本船舶海洋工学会の「若手研究者・技術者活性化事業に係わる海外派遣制度」により、2006年9月22日から10月4日まで期間、船舶復原性に関する最新の研究動向について調査を実施したのでここに報告する。
 
2. IIHR
 米国アイオワ大学の水力学研究所であるIIHRは、船体周りの流れだけでなく、CFDを用いた船体運動予測にも実績のある研究所であり、今回訪問したHydraulic Dynamics Lab.のFredrick Stem教授(写真1)はCFD研究の先駆者のひとりである。初めに建物の地下にある曳航水槽とアイオワ川を挟んで対岸にある風洞を見学させてもらった。プランジャー型造波機を有する曳航水槽は、長さ100mに対して横幅が3mと低速船の実験には不向きなように感じたが、艦艇の実験が大半であるそうなので、特に問題ないのかもしれない(写真2)。
 IIHRで開発が進められているCFDSHIP-IOWAコードについで説明を受けた後、パラメトリック横揺れやブローチングといった具体的な復原性問題へのCFD導入について議論を行った。まず筆者は転覆のような非線形現象に特有の初期値依存性や長期転覆確率を取り扱うには、1回の時間領域シミュレーションに膨大な時間を要するCFDは不向きであることを述べた。そして現状で考えられる最良の方法は数学モデルを基礎とした従来の数値シミュレーション手法にCDFを用いた数値試験結果を援用することであると述べた。つまり、線形理論で得ることのできない非線形・高次影響のみCFDで求めるということである。パラメトリック横揺れの予測には横揺れ減衰力と波浪中での復原力変動の推定が不可欠であるが、前進速度が有る場合でも横揺れ減衰力を推定することは比較的容易であり、上下揺れ・縦揺れを自由とした復原力変動計測のための半拘束模型試験そのものをCFD計算で代替することは可能であろうとのことであった。但し、横傾斜があるとfull domainで取り扱う必要があること、また大波高中や大傾斜を伴う場合には甲板への海水打込みや滞留水を取り扱う必要があるので、デッキ上までグリッドを貼る必要があり、当然ながらこうした計算には膨大なグリッド数と計算時間が必要とのことであった。またブローチング現象については高速曳航模型試験を模したCFD計算はこれまでの経験から自信を持っているが、大波高中での計算となると実際に計算してみないと分からないとのことであった。
 
写真1 Fredrick Stem教授(左から2番目)
 
写真2 PMM & PIV装置
 
3. STAB2006
 IIHR訪問後、ブラジルのリオデジャネイロにて開催されたSTAB2006(9th International Conference on Stability of Ships and Ocean Vehicles)に参加した。今回の会議では、前回まで最重要トピックであった損傷時復原性が多少影を潜め、パラメトリック横揺れや確率論的アプローチに関する発表が盛んであった。また開催国がブラジルということもあってOffshore Floating UnitやFPSOに関する講演も数多く聞かれた。パラメトリック横揺れのセッションは丸一日を費やして開催され、規則波中だけでなく不規則波中での模型実験結果やシミュレーション結果が数多く発表され、実際に海上でパラメトリック横揺れを経験した自動車運搬船のタイムレコーダ記録も紹介された。会議ではアテネ工科大学のDimitris Spanos博士とパラメトリック横揺れについて、実験・計算ともにwater on deckの問題をどのように取り扱えばよいか議論を交わした。(写真3)
 基調講演ではRandolph Paulling先生の講演を拝聴することができた。Paulling先生はサンフランシスコ湾で初めて転覆模型実験を行ったことで有名な研究者であり、早くから6自由度船体運動モデルの構築に取り組まれた方である。Paulling先生はオフィシャルディナーの場でも挨拶をされたが、その中で共にSTABを立ち上げられた大阪大学の名誉教授である浜本剛美先生との親交とその業績について述べられた。(写真4)浜本先生は筆者が在籍している研究室の前教授であり、前々教授である野本謙作先生ともども偉大な先生方が築いてこられた研究室で助手を務めさせてもらっていることを誇らしく感じると同時に大変身が引き締まる思いであった。
 
写真3 筆者の講演
 
写真4 左:Vassalos教授 右:Paulling先生
 
4. David Taylor Model Basin
 続いて米国ワシントンDCに移り、NAVSEAのArthor Reed博士にNaval Surface Warfare Center・Carderock Division Headquatersにある実験施設を案内していただいた。David Taylor Model Basin (DTMB)と呼ばれることも多いのだが、これは研究施設の総称ではなくあくまで長水槽の名前であるとのことであった。見学に際して全てのコンピュータとカメラが持込み禁止であったため、写真5はパンフレットからの抜粋である。初めに角水槽に案内してもらったが、巨大な建物には2つの水槽があって、1つは直径80m、深さ6mのCMT専用の円形水槽で、水槽中心の回転軸を中心に電車が円形のレールを走るという構造になっていた。その隣には長さ110m、幅70m、深さ10mほどの更に巨大な角水槽があり、実際に角水槽で自由航走模型実験を行う予定の最新駆逐艦の模型船と搭載機器を見せてもらうことができた。筆者もこれまで数多く自由航走模型実験に参加してきたが、2軸2舵というシステムは初めてである。なお、この角水槽はsurface shipだけでなく、昼夜交代でSubmarinの実験も行われているとのことであり、水深が深いのはこのためだと思われる。
 次に長さが900mもある David Taylor Model Basinを見学させてもらった。驚いたのはこの建物には2本の長水槽が平行に走っており、曳航台車も通常速度の曳航台車、50knot曳航台車、そして専用の抵抗低減レールを引いた100knot曳航台車を備えていたことだ。この水槽の建造年は1940年とかなり古いため、レールの精度やメンテナンス費用などが気にはなったが、同じ建物内にある回流水槽は1941年、上述した円形水槽は1944年に建造されており、神風特攻を唱えていた当時の日本の状況を考えると、戦争に敗れたのも納得という感じがした。
 実験施設見学後に米国海軍艦艇の安全性評価手法について説明があったが、自由航走模型実験に加えてMARINが提供している6自由度船本運動シミュレーションコード(FREDYN)を用いて評価をしているそうである。しかしながら次世代駆逐艦に採用される耐波性とステルス性を両立させたtumblehome船型では、FREDYNを用いても自由航走模型実験結果を満足に再現できないという問題があるとのことであった。
 
写真5 DTMB
 
写真6 ホワイトハウス
 
5. おわりに
 今回、船舶復原性に関する最新研究の調査を行ったわけであるが、特にCFDを援用した復原性問題へのアプローチは今後大きな研究テーマになることが予想され、筆者もこの分野で大いに貢献していきたいと考えている。また、今後は商船だけでなく艦艇を対象とした復原性研究が重要になると思われるので、近い将来にその主導的な役割を担えるように今後の研究生活に一層打ち込んでいきたいと思う。
 最後にこのような貴重な機会を与えていただいた日本財団ならびに日本船舶海洋工学会の関係各位、およびIIHR滞在中にお世話になった坂本信晶氏に心からの謝意を表し、海外派遣報告の締めくくりとしたい。
 
技術者海外派遣報告および評価
派遣者氏名 橋本博公
派遣者所属 大阪大学大学院工学研究科地球総合工学専攻
調査テーマ 船舶復原性に関する最新研究の調査
訪問国 米国、ブラジル
派遣期間 2006年9月22日〜10月4日
紹介者
1. Prof. Frederick Stern The University of Iowa
2. Prof. Marcelo Santos Neves University of Rio de Janeiro
3. Dr. Patrick Purtell Office of Naval Research
訪問先面談者 所属
a. Prof. Frederick Stern The University of Iowa
b. Prof. Malrcelo Santos Neves University of Rio de Janeiro
c. Dr. Arthur Reed US Naval Suface Warfare Center
調査内容(1) 船舶復原性研究へのCFD技術導入に関する研究の現状と展望の調査
・曳航試験水槽および風洞試験水槽の見学
・可視化および実験データの解析手法についての調査
・CFDSHIP-IOWAコードを用いた最新プロジェクトおよび各計算結果の調査
・CFDSHIP-IOWAコードを用いた波浪中復原力変動予測についての調査
・CFDSHIP-IOWAコードを用いた斜波中波浪強制力推定についての調査
・CFDSHIP-IOWAコードを援用した波浪中船体運動予測法構築についての調査
調査内容(2) 国際会議における船舶復原性の最新研究動向の調査
・コンテナ船のパラメトリック横揺れ発生限界および最大振幅推定に関する調査
・パラメトリック横揺れ再現のための実験法に関する調査
・デッドシップ状態下での転覆確率推定に関する調査
・ブローチング推定に関する調査
・CFDを用いた船舶復原性評価についての動向調査
・漁船の安全性評価手法についての調査
調査内容(3) 米国海軍の実験施設の調査、艦艇の安会性評価手法の調査
・巨大曳航水槽および巨大角水槽の見学
・艦艇の自由航走模型実験の使用機器やシステムの調査
・自由航走模型実験結果の評価手法についての調査
・艦艇の安全性評価手法に関する調査
・最新駆逐艦の波浪中復原性評価についての調査
 
調査の達成状況に対する自己評価
 Over set grid法を用いた最新のCFDSHIP-IOWAコードを用いて、波浪中での復原力変動や波浪強制力の推定が可能であることを確認することができた。またアメリカ海軍研究所における艦艇の安全性評価手法や実験手法について詳細な討論ができた。船舶復原性研究はIMOでもその重要性が再認識されており、今回の派遣調査でCFD技術を船舶復原性分野の最新トピックであるパラメトリック横揺れやブローチングの予測および艦艇の安全性評価に導入する道を開いたことは、今後の復原性研究分野の発展に貢献できるものと考える。
その他調査に関連した特記事項
 CFDSHIP-IOWAコードは、特に改良を要することなく、大波高中を高速航行させた場合でも破綻せずに計算が可能であったことが特筆される。但し、精度については保証の限りではなく、今後模型実験結果と比較して検証する必要がある。また、米国海軍研究所で行われている艦艇の安全性評価手法は模型実験手法、数値計算手法ともに、特に目新しい点は見られなかったが、一部の復原性能推定にCFDを取り入れ出していることから、今後この種の研究の需要が高まる可能性がある。
後続の申請者・派遣者へのアドバイス
 実験施設を詳細に見学したり、研究内容について有意義な討論をするためには、1日では不十分であると思われるので、ひとつの研究所・施設に数日をかけた方が良い。また、相手方の対応に依存する部分も大きいので、事前のコンタクト・コミュニケーションが重要である。
派遣事業に対する意見・要望等
 自分で派遣先・コンタクトパーソンを選定し、連絡をやり取りして訪問することは非常に貴重な経験であり、英語のコミュニケーション能力も磨かれるので、派遣応募の条件に最低3箇所以上の訪問先を選定することを加えてはいかがでしょうか。
 
推薦委員会の評価
推薦委員会 IMO復原性基準の機能要件化のための転覆リスク評価研究委員会
 第4回S1委員会において、橋本委員より派遣調査の報告がなされたが、船舶復原性分野へのCFD導入の可能性について、波浪中船体運動の具体的な計算例を示したうえで、数学モデルに基づく従来の船体運動シミュレーションとCFD技術を組み合わせることにより、拘束模型実験を必要としない復原性能評価の可能性を確認したことは、当委員会の目標である転覆リスク評価法の改良にとっても大きな成果であったといえる。また、STAB2006にて復原性に関する最新の研究動向を調査して当委員会に報告したことは当委員会としての国際戦略を考えるうえで参考となった。さらに、当委員会の研究活動の一環でもある、自身の不規則波中でのパラメトリック横揺れに関する研究成果を発表し、参加者から大きな反響を得たことは、当委員会からの貴重な情報発信のひとつとなった。デービッドテーラー試験水槽では巨大試験水槽および実験システムを見学し、これまであまり知られていなかった米国艦艇の復原性に関する研究手法・動向を明らかにしたことも貴重な情報収集であった。これらの調査報告は今後の当委員会および本学会の復原性研究を戦略的に進めることに大きく貢献したものと信じる。さらに今回の派遣は橋本委員自身にとっても極めて貴重な経験であったことは間違いなく、今後ますますの活躍を期待したい。
国際学術協力部会の評価
 本派遣により、自身の船舶の復原性に関する調査・研究の目的は達成され、さらには帰国後に所属の委員会等への派遣の成果を報告されたことから、この学問分野への研究の貢献も十分なされたと考える。
 今回のように調査を目的とする場合には、短期に多くを廻られることも得策なケースであるとも考えられるが、派遣の目的をさらに今後の海外からの情報収集や新しいネットワークの構築として推進して行くためには、今回の派遣だけに限らずさらに継続的に相手方と交流をして行くことも必要と考える。


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