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国際学術協力に係る海外派遣 派遣報告書

 事業名 国際学術協力に係わる海外派遣
 団体名 日本船舶海洋工学会 注目度注目度5


長大弾性管の渦励振(Vortex Induced Vibration)とCFDに関する研究調査
千賀 英敬
大阪大学大学院工学研究科
1. 海外派遣行き先と調査目的
 日本船舶海洋工学会の若手研究者・技術者海外派遣制度により、平成19年1月22日から2月1日までマサチューセッツ工科大学に滞在し、長大弾性管に発生する渦励振現象の何に着目した研究が近年われているかの調査を行った。
 平成18年度より、海洋開発研究機構の所有する地球深部探査船“ちきゅう”による海底の試掘削が開始された。掘削に使用されるライザーパイプやドリルパイプはその形状から弾性的な特性を持つ。このような長大弾性管は複雑な挙動を示す。中でも主として潮流により管から剥離した渦が励起する渦励振(Vortex Induced Vibration)と呼ばれる振動現象は、管に対して繰返し荷重として働くため、疲労破壊を引起す要因となり重要視されている。
 
2. 調査結果とその自己評価
 今回のコンタクトパーソンであるProf. Michael S.Triantafyllou (Fig.1)の研究室では渦励振に対して実験、数値計算の両面からの研究が行われている。Figure2に示す曳航水槽において、剛体円柱を水面と平行にバネ支持し、強制動揺させて流体力を計測する実験が行われていた。
 
Fig.1 Prof. Michael S. Triantafyllou
 
Fig.2 Towing tank and experimental setup
 
 このような剛体円柱を用いた強制動揺実験は、円柱の直径を変える、また強制動揺の周波数を変える実験はよく行われているが、この研究室では剛体円柱の断面の軌跡が“8”字型を描くように強制動揺させていた。この“8”字型の運動は、実長大弾性管においても発生しやすく、この運動時の剥離渦が弾性管におよぼす力が重要だということだ。
 実機の長大弾性管の外面には信号をやり取りするためのケーブル、そして浮力材等が取り付けられている。実験に使用されていた剛体円柱には、それら想定した模型となっており、ケーブルを保護し、なおかつ渦励振を軽減する形伏の付加物(Fig.2 右上)が取り付けられていた。
 残念ながら訪問時にはまだ実験準備段階だったが、PIV(Particle Image Velocimetry, 粒子画像速度計測法)装置を最近購入したということで、弾性管模型周りの流れの可視化も行なえるそうだ。PIV用の実験水槽は小さなもので、その上部に捩れ運動も可能な強制動揺装置が設置されていた。水槽内に弾性管模型を鉛直に垂らし、強制動揺させて発生する渦の可視化実験が行える装置となっていた。
 今回Prof. Triantafyllouの紹介で、同じくMITにてCFDを用いた長大弾性管の研究を行っているProf. George Karniadakisにお会いする予定であった。彼は実際にマンガン塊の掘削に関わったことがあるということで、その話も聞けることが非常に楽しみであった。しかし、彼は多忙で週に1日しかMITに来ていないということだった。今回の訪問期間中、残念ながらその貴重な1日も都合が付かず、お会いし、CFDに関する質問をすることは出来なかった。Prof. Karniadakisには、学会等のまた別の機会にお話を伺いたいと思う。
 Prof. Triantafyllouの部屋はBuilding 5 (Pratt School)にあり、同建物内を歩いている時にProf. J. Kim Vandiverという名前を見つけた。彼はSHEAR7という長大弾性管の渦励振予測の数値計算プログラムの開発にたずさわっている。またNorwegian Deepwater Program (NDP)という北海での実掘削にも関わっており、その論文も何篇か拝見したことがあった。彼がMITにいることを忘れており、今回の訪問ではコンタクトをとっておらず、またお会いしたこともなかったが、Prof. Karniadakisに会うことが出来ず予定外の時間が生じたこともあり、直接部屋を訪ねることにした。秘書のかたと話をし、その後Prof. Vandiverにお会いすることが出来た。残念ながらその日は忙しいということだったが、後日時間を作って頂くことが出来た(Fig.3)。
 彼が最近注目しているのは長大弾性管に発生する20〜30次という高次モードの渦励振であった。この高次の渦励振は管の全長が長くなるほど発生しやすいこと、また低次モードの渦励振とは長大弾性管において疲労破壊の発生場所が異なること等から、非常に重要な現象であるということだ。
 この高次渦励振に関する実験的研究として、彼の研究室では湖や実海域にて約30mのパイプを数本連結させたものを垂らし、潮流の影響やパイプを曳航することで発生する渦励振とパイプ周りの流れ(潮流分布)、力の計測を行っているそうだ。これらの実験においては、渦励振を軽減させるfairingやstrakeをパイプに取り付けた実験も同時に行われており、渦励振軽減装置の有無の両実験結果を見せて頂いたが、軽減装置の有効性を確認することが出来た。
 このような実海域での実験には多くの費用がかかるため、著者はまだ行ったことがなく、模型を用いて行う水槽実験と比較し、より実機に近い現象を再現出来るため、実海域実験が行えるというのはとても羨ましく思う。
 
Fig.3 Prof. J. Kim Vandiver
 
3. 本調査結果の今後の展望
 今回の訪問によって、実機の長大弾性管に発生する渦励振の中でも、特に重要視すべき現象が何であるかを知ることが出来た。特に高次モードの渦励振は“ちきゅう”が目標としている大水深海域での掘削を達成するためにはとても重要な現象の一つであり、検討課題であると考えられる。
 実機にとって重要な現象は、実際の掘削に関わった経験のある者が詳しいのは当然である。これまでは実際の掘削経験のあるアメリカや北欧が主となり長大弾性管の挙動や渦励振に関する研究が進められてきた。しかし、国内においても今後“ちきゅう”による掘削時の様々なデータが公表されていくことが期待でき、今回の訪問で得ることが出来た他研究者の着目点を検証し、また異なる視点から渦励振の問題点を検証していくことが可能である。
 
4. 後続派遣予定者へのアドバイス等
 著者の場合は、コンタクトパーソンとの予定がなかなか合わず、派遣期間の変更を認めて頂きました。それでも今回、Prof. Karniadakisに会うことが出来ませんでした。訪問先の都合もあるかとは思いますが、この海外派遣制度に応募されるかたは、より綿密な訪問計画をたてておくことをお勧めします。
 また研究者のかたは、自分が行っている研究に興味のある他研究者に対して、とても親切に対応して下さいます。訪問先としてコンタクトを取っていなくても、訪問先で名前を知っている研究者のかたを見かけたら訪ねてみてもいいのではと思います。
 最後となりましたが、このような貴重な機会を与えて頂いた日本財団と日本船舶海洋工学会の関係者各位、また多忙な時期の出張となりこ迷惑をおかけした大阪大学大学院工学研究科地球総合工学専攻船舶海洋工学部門の関係者各位に感謝の意を表します。
 
技術者海外派遣報告および評価
派遣者氏名 千賀英敬
派遣者所属 大阪大学大学院工学研究科 地球総合工学専攻
調査テーマ 長大弾性管と渦励振(Vortex Induced Vibration)とCFDに関する研究
訪問国 米国
派遣期間 2007年1月22日〜2月1日
紹介者
1. Prof. Michael S. Triantafyllou Center for Ocean Engineerin, Dept of Mechanical Engineering, Massachusetts Institute of Technology
2. 小寺山 亘 九州大学応用力学研究所
訪問先面談者 所属
a. Prof. Michael S. Triantafyllou Center for Ocean Engineerin, Dept of Mechanical Engineering, Massachusetts Institute of Technology
b. Prof. J. Kim Vandiver The Edgerton Center and Undergraduate Research Opportunities Program
調査内容(1) 長大弾性管のVIVの何に着目しているかの調査
 派遣者が行ってきた長大弾性管模型を用いた実験、及び渦励振の数値計算法に関する議論を行った。その後、CFDで計算を行う長大弾性管の条件(管の直径、レイノルズ数)等について簡単に議論を行った。現在Prof. Triantafyllouは、管の断面が“8”字型の軌跡を描くように運動している時に剥離する渦による力に着目していた。この“8”字型の軌跡を描く運動は、単純な強制往復動揺の場合と比較し、複数の渦が剥離するために剛体円柱に複雑な力が生じること、そして実際の長大弾性管にも発生しやすい運動であるために重要な現象である。
調査内容(2) 渦励振(Vortex Induced Vibration)の模型実験に関する調査
 曳航水槽内にて、剛体円柱の強制動揺実験が行われていた。このよう実験は、円柱の直径を変える、単純な剛体円柱強制往復動揺、また強制動揺周波数を変えるといった研究は他研究機関でも数多く行われているが、Prof. Triantafyllouの研究室では、管の断面が“8”字型の軌跡を描くように強制動揺させて、力の計測を行っていた。実機の長大弾性管にはケーブルや浮力材が取り付けられているが、実験に使用している剛体円柱にもそれらを模擬し、さらに渦励振を軽減させる付加物が取り付けられており、渦励振の軽減に関する研究もおこなっていた。また、今回は実験準備中であり実験結果を見ることができなかったが、PlV (Particle Image Velocimetry)装置を用いた長大弾性管模型まわりの流れの可視化を行う実験も行っている。PIV用の水槽は小さなものであったが、内部に吊り下げた弾性管模型に対して平面運動と捩運動を発生させることが可能な強制動揺装置が取り付けられていた。この平面・捩れの両運動が同時に発生している場合の渦の剥離状態は非常に興味深い。
調査内容(3) 長大弾性管のVIVの何に着目しているかの調査
 まず、1990年に行われた北海での実海域実験(Norwegian Deepwater Program)に関しての議論を行った。その後、派遣者が行ってきた長大弾性管模型を用いた実験、及び渦励振の数値計算法に関する議論を行った。派遣者はまだ水槽規模での模型実験しか行ったことがなく、より実機の現象と近い条件での模型実験を行うための議論を行い、一番重要なことはやはりレイノルズ数であるということだった。現在一番関心があるのは、渦励振の中でも特に高次モードの振動であった。この高次モードの振動は管の全長が長くなるほど発生しやすく、今後さらなる大水深海域での掘削を行うために全長を増す必要のある長大管に密接に関係したことであり、また低次モードの渦励振とは疲労破壊の発生する箇所が異なるために重要な振動である。このことは、地球深部探査船“ちきゅう”が今後目指す大水深海域での掘削に大きく関係しており、重要な検討課題である。
調査内容(4) VIVの実海域実験に関する調査
 弾性管模型を用いた実海域や湖における実験が行われていた。実験には長さ100ft管を数本連結させたものを用いている。管の下部には張力を発生させるためのおもりと流速計が、また管の深さ方向の多数の位置に計測装置が取り付けられている。この管を船で曳航する。また潮流のみの影響により発生する渦励振の計測する実験である。このような実海域で行う実験では、水槽実験と比較して長い管を用いることが可能であり、計測結果にも高次モードの渦励振が発生していた。また、これらの実験では渦励振を軽減するための装置(fairing, streak等)を管に取り付けた場合の実験も行われていた。計測結果を見せて頂き、その有効性を確認することが出来た。
 
調査の達成状況に対する自己評価
 今回の訪問目的は大きく分けて下記の3つである。
1. 長大弾性管の挙動に大きく影響を与える渦励振現象の何に注目した研究が最近行われているかの調査
2. 近年の渦励振に関する模型規模、そして実海域での実験に関する調査
3. CFDを用いた渦励振の数値計算の有効性と諸問題に関する調査
 これら3つのうち、今回の訪問では1と2を達成することが出来た。特に、長大弾性管を用いた実際の掘削に関わったことのある2人の研究者が渦励振現象の何に着目し、その研究を通じて何を明らかにするのかを直接議論し、聞けたことは非常に有意義であったと考えている。
その他調査に関連した特記事項
・上記調査の達成状況に対する自己評価の中の3. に関しては、コンタクトパーソンProf. Michael S. Triantafyllouの紹介で、同MITに所属し、実際のマンガン塊掘削にも関わったことがあり、CFDの研究を行っているProf. George Karniadakisに会い達成する予定であった。今回の訪問期間は、コンタクトパーソンとの都合が合わないことから、日本船舶海洋工学会に派遣期間の変更依頼を提出したが、それでもProf. Karnidakisとの調整がつかず、派遣期間中に面談出来なかった。この達成できなかった目標3. に関しては、論文調査や国際学会等の別の機会にProf. Karniadakisや他のCFDを用いて渦励振の研究を行っている研究者に会い達成する必要がある。
・面談者No.2のProf. J. Kim VandiverはNorwegian Deepwater Programという北海での実掘削に関わったことのある研究者である。今回の訪問に関して、派遣者は彼にコンタクトをとっていなかったが、MITにて彼の名前を見かけたので部屋を訪問し、後日研究に関して話を聞く時間を作って頂いた。
後続の申請者・派遣者へのアドバイス:
・今回コンタクトパーソンとの予定が合わず、日本船舶海洋工学会に派遣期間を一度変更させて頂いた。それでもProf. George Karniadakisと都合がつかず、会うことが出来なかった。訪問先の都合もあるとは思うが、面談者とのより綿密な計画が重要であるとあらためて感じた。
・海外の研究者は、自分が行っている研究に興味のある他研究者に対して、とても親切である。訪問先で名前を知っている研究者を見かけたらコンタクトを取っていなくても訪ねるべきだと思う。
派遣事業に対する意見・要望等
・これまでに派遣者の派遣記事は派遣報告書や「KANRIN」等で見ることが出来るが、日本船舶海洋工学会ホームページ上の「若手研究者・技術者海外派遣公募のお知らせ」にある募集要項の近辺に、過去に派遣されたかたの訪問計画や記事、写真等がリンクされていると、今後の応募者にとって計画をたてるのに参考になると思います。
・私の今回の訪問は研究機関に比較的長く滞在し、じっくりと研究の議論を行うことが目的だったが、専門分野の研究者との交流ネットワークを築くことにも貢献できた。
 
推薦委員会の評価
推薦委員会 無
国際学術協力部会の評価
 本調査は、(1)長大弾性管の挙動に大きく影響を与える渦励振現象の何に注目した研究が最近行われているかの調査、(2)近年の渦励振に関する模型規模、そして実海域での実験に関する調査、(3)CFDを用いた渦励振の数値計算の有効性と諸問題に関する調査となっている。しかしながら、本報告ではVIVに対する新たな知見は見当たらず、今回の調査が単なる興味にとどまり、今後の研究活動にどこまで生かされるか疑問である。基礎力を蓄積して研究に励まれることを望む。また、研究者の交流ネットワークの面からは、訪問先の都合により会えなかったとの事だが、事前準備を十分に行うことが望まれる。


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更新日: 2022年5月21日

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