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フォーラム本編
マンガフォーラム7「パソコンでマンガを描こう――日本の絵筆が世界標準」
〜デジタルマンガ展開の戦略〜
 
パネリスト紹介
 
 谷川――皆さん、こんにちは。マンガ制作のデジタル化は避けられない世の趨勢です。デジタル化すると、いきなり3Dになるとか、いきなり話が面白くなるということではないのですが、制作の効率がよくなるとか、データの保存がしやすいなどの事情でデジタル化が進行しています。
 日野日出志先生は、ホラーマンガ家のパイオニアで、デジタル化を非常に早い時期からやられています。モンキー・パンチ先生といえば「ルパン3世」ですが、やはり非常に早い時期からパソコンでマンガを描かれています。今日はデジタル化のパイオニアである両先生をお迎えして、デモンストレーションを含めてお話を伺いたいと思います。また、川上社長は、デジタル絵筆の開発ではトップということで、いろいろ具体的なお話を伺えると思います。
 もともとマンガというのは手で描いていくものでしたが、いろいろな国でデジタル化が進んでいて、韓国などはものすごく早い時期からデジタル化を進めているということですし、香港も多くのマンガ家がパソコンで描いているということで、大きな転換期に来ているように思います。
 今日は、日野先生から提案をいただいて、その後モンキー先生から提案をいただき、休憩をはさんで川上社長のお話を伺いたいと思います。では、日野先生、よろしくお願いします。
 
日野日出志の提案
 
 日野――僕が使っている機械はアップル社のマッキントッシュ(マック)ですが、ほとんどのマンガ家はマックとフォトショップの組み合わせで使っています。
 僕が始めてから6、7年ぐらいですか。モンキー先生から、まだパソコンを入れないのかなんてせっつかれまして。マンガはコンピュータで描くものじゃない、手で描くものだという、変なこだわりが僕の中にずっとあったのですが、実際に使ってみたら、これはすごいなと思ったんですね。
 例えば、髪の毛とか夜の闇とかを黒く塗りつぶすのをベタ塗りというんですが、あれは筆で製図用インクの黒で塗りつぶしていくので、結構手間ひまがかかるものでして、それだけでもアシスタントが一人必要になってしまうぐらいです。それがマックを使いますと、一瞬のうちに墨が入ってしまう。もうそれだけでも驚きだったわけです。
 それから、スクリーントーンは、ほとんどのマンガ家が使っていますが、1枚何百円もして、1回使ってしまうと二度と使いものにならないものもあるので、経費としてはばかにならない。カッターナイフを使って切り抜き、それを糊で圧着するわけですが、長い間には糊が黄色くなってしまい、後で始末に負えないということも起こるんです。それがコンピュータを使うと一瞬にしてできてしまう。
 パソコンを使うと、まず効率が非常に上がるということです。人件費節約には確実になります。ただ、もともとの絵だけは普通に下書きを入れて、ペンで手書きします。それをスキャナーで読み込んで、画面上でベタを塗ったりスクリーントーンの網処理をします。これは30分もあれば全部終わってしまうぐらい、ものすごいスピードでできるんです。僕の場合は、それをプリントアウトし、最後に手で描き加えて原稿として渡していました。
 ただ、それはあくまでも印刷マンガへの対応なんですね。マックを使いながら、印刷物だけじゃなくて、何かもっと違う表現方法、違う分野に使えないかなと思い始めたわけです。周りのマックを使っているマンガ家とそんな話になりまして、研究会をつくろうということで、デジタルマンガ協会を立ち上げ、モンキーさんに会長になっていただくことになりました。今まで印刷でしか見られなかったマンガというものを、デジタルの世界でどこまで表現できるか、ということです。
 CDマンガというものがいくつか出ているのですが、その最初の段階は、昔の作品をそのままページごと貼りつけているだけです。ちょっと音が入ったり、クリックするとページをめくったり、いろいろと工夫はしてあります。これは、ライブラリのように保存するにはいいかもしれませんが、作品として見る場合には、やはりちょっと違う。わざわざCDにするのもどうかな、というのがマンガ家の側にもありました。
 アニメーションは、昔はマンガ映画と言ったのですが、時間軸が映画と一緒なんですね。一方的な時間の流れですから、読み取る側にスピードを支配する権限はないんです。小説やマンガは、自分のスピードで読めるし、自分のスピードでページをめくることができる。そこで、一方的な時間軸を押しつけられるのではなくて、自分の時間軸で操作できるところまでがデジタルマンガかなと、おぼろげながら、そんな感じがしています。
 具体的にどんなことをやっていくのかというと、会員それぞれの考え方や表現方法も違いますから、皆で勉強しあいながら、新しいメディアとして立ち上げられたらいいなと夢を抱いています。
 ここで、初期のデジタルマンガの例を見ていただきたいと思います。これは、1996年に出た「マンガCD-ROMクラブ」というもので、実際に書店で売られていました。CDが中に入っています。中身をちょっと見ていただきたいと思います。
 
【デジタルマンガ映写開始】
 
 これは一応音(カラスの声など)が入っています。本と同じで、右側が前のページです。字は読まなければいけないんです。
 皆さん、どうですか、これで普通のマンガを見るように読めますか。ちょっと辛くありませんか。やはりマンガは、手に持つ感触などもすごく大事なんだと分かりますね。一時期、結構この手のものが流行りましたが、やはり商品としては伸びなかったです。
 その後、ワンランクのバージョンアップというか、工夫したものが出てきたのですが、次にそれを見てみたいと思います。今度は、「デジタルフロッピーコミック」というタイトルで、同じようにCDが入っています。先ほどのとは違って、ページをそのまま貼りつけるのではなく、1コマ1コマを取り出して一つの画面にしている。言ってみれば動かないアニメみたいなもの、紙芝居みたいなものなんですね。これもやはり音が出るようになっていて、音響だけではなくセリフも入っているんですが、これでも絵が動かない辛さはありますね。やはり商品としては、いま一つだったみたいです。
 今、僕が考えているのは、一つの物語世界を基本にして、そこからどんなアイデアを発展できるかということです。例えば、ミニゲームとか、サイトで流すミニアニメとか、あるいはフィギュアとか、いろいろなことに変化しうる、そういうアイデアの立て方をデジタルでやれば、何か楽しいことができるのではないかと。実験的に作ったものをお見せします。
 
【画像表示】
 
 ここに「ペットサウルス」と書いてあります。これはiモードの表紙です。実はこの前にサイトで流す絵本があって、あらかじめ見てもらうのですが、今日は口で説明します。ある動物学者の一家が不思議な島を見つける。そこには滅びたはずの恐竜が、その島で棲息するために体を小さくすることで生き抜いていた、という設定の物語です。この物語からどんな発展の仕方ができるかというので、iモードを利用してミニゲームができないものかなと思いました。
 いくつか項目がありまして、「ペットサウルスとは」という内容を説明するところがあり、「ペットサウルスをつかまえに行く」「図鑑を見る」というのがあります。「つかまえに行く」をクリックすると、島の中の地域が出てくるので、例えば場所は山岳、エサはミミズとか肉とか選んで組み合わせる。すると翌日メールが届いて、何かを捕獲したという情報が入るわけです。捕獲したものは自動的にその人の図鑑の中にストックされるので、それを集めるという形になっているんですね。図鑑には、名前、生息地、体の大きさなどが載るようになっています。
 場合によっては、エサをとられただけで捕獲できないこともあります。ちょっとかわいそうという気もするのですが、これぐらいの遊びはあってもいいかなと。また場所を選びエサを仕掛けておき、翌日にメールが来る。こういうミニゲームですが、100種類、雄雌で200匹ぐらい用意しておいて、全部つかまえた場合には何かプレゼントする。そういう方向で考えています。
 これはiモードを使ったミニゲームですが、サイトではミニアニメを作って流したら面白いんじゃないかなというので、ちょっと試作してみました。
 
【ミニアニメ映写】
 
 ペットサウルスの大きさがわかりづらいですが、だいたい15センチから20センチぐらいという設定です。こんなちょっとしたアニメが、フラッシュというソフトを使うと案外あっさりできてしまうんです。個人でも作れる時代になったと思います。こんなふうに、iモードやサイトで何かやったり、物語を伝える方法論、一つの方向性として、来年の春ぐらいには発表できるかもしれません。
 
 谷川――ありがとうございました。いつもお話を伺っていながら、実物を見たのは初めてでして。最後のは、マンガという枠から少し外れていく、拡大していくという感じですが、今模索されているのはそういう方向なのですか。
 
 日野――これも含めて、デジタルマンガと考えていいと思っています。
 
 谷川――そうですか。韓国でも、パソコン上にマンガが出てきて、クリックするとページをめくるというのがあって、僕も何か違和感があります。手で紙をめくっていく感触が大事だとおっしゃったのですが、そのへんのところはどんなふうにお考えですか。
 
 日野――デジタルというのは、ある意味で言うと対極のものだと思うんです。手で触れてページをめくっていく感覚を捨ててまで、読者がデジタルで見てくれるかどうかは、やはり作り方次第だと思うんです。演出とか表現方法も含めて今までのマンガにはないものを創り出していかないと、結局マンガをただデジタルに移し変えただけみたいなことになってしまうので、それは本意ではないという気がしています。まったく新しいメディアを創るというのは、難しいことなんですけれどね。
 
 谷川――そうですね。ただ、デジタル化の流れはもう止められないと思いますね。
 私は今日、韓国から帰ってきたばかりです。実は韓国の高等学校で私の学生が授業するという試みをやっていて、今回、初めて全部パワーポイントを使って授業をしたんですが、これはすごいと思います。最近学会でもパワーポイントで発表する人がとても多いですが、やはり圧倒的に違うんですね。今まで学校の授業というと黒板に書いたりしてきたけれど、パワーポイントでやるとデータも情報もきれいにできている。それを見て、時代が変わってきているんだなと強く思いました。マンガ界でもそういう動きなのかなという感じもするんですが。
 モンキー先生、日野先生のをご覧になってどうでしょう?
 
 モンキー――面白いと思いましたね。結構研究しているなという感じがしました。僕はそこまでやっていません。コンピュータを使ったきっかけが、ペンの代用として使えないかということだったので。将来的に今見たような方向に行くかどうか、まだわからないですが、そういう方向があってもいいかなという感じはします。
 
 谷川――川上さんはいかがでしょうか?
 
 川上――私の会社は、画材としてコンピュータを使おうということで、ソフトウェアの開発をやっているのですが、もう一つ、マルチメディアコンテンツの制作もやっています。その流れの中では、例えば携帯電話やPDAのメーカーさんには、次のコンテンツとしてマンガをどう乗せていくかを、非常に熱心に研究しているところもあります。
 そういう意味では、見せていただいたような試行錯誤をしながら、これだという形に落ち着いていくんだろうと思います。今はどこも試行錯誤している段階だと思います。
 
 谷川――先ごろ、「美味しんぼ」の中のある場面をどうしても見たくて、マンガ喫茶に行って全部調べたんです。僕の思い違いみたいでその場面はなかったんですが、デジタル化されると、「第何巻のどういう場面が見たい」と思ったら、ポンと押すとパッと出てくるとか、そういうふうになると、すごく意味があるような感じがしています。なかなか全巻を持って歩くことはできませんからね。
 続いてモンキー先生に、お話とデモンストレーションをお願いしたいと思います。


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