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質疑応答
 
 谷川――フロアの方々から、本日のゲストの方々にご意見、ご質問があれば伺いたいと思います。
 
 参加者2――矢口さんのお話は面白かったんですが、今インターネットが盛んになってきて、コンピュータのモニターの中でマンガを見る状況が生まれてきています。そこで、モニターの中でのマンガのフォーマットはどういうものが理想かと、よく考えるのです。絵の構図とは別に、言葉は横書きにするか縦書きにするか。インターネットは基本的に横書きなんですが、日本のマンガは縦書きです。その壁をどうクリアしてマンガの形式をインターネットにはめ込むのがいいのかということです。できるならそれをグローバルなもの、世界で通用するスタイルにすべきだと思いますが、そうすると言葉に関しては少なくとも縦書きはありえません。印刷物とは違う形式を作らなければいけないですね。
 
 谷川――デジタル化の問題に関しては、次回のフォーラムで取り上げる予定です。矢口先生、いかがですか。
 
 矢口――日本のマンガは、セリフが縦書きで右から左に進むためにS形に読んでいくんですが、欧米のような横書きのマンガはZ形に進むと言われます。ただ、古今東西で先ほど言ったようなことが良いとされてきたわけだし、映画やテレビでも同じ約束事で見ているわけだから、マンガが逆行するのはあまり良い方法ではないように思います。日本のマンガが世界に翻訳されていますが、最近は日本と同じように右から左に向かっていくようになっていて、セリフだけを外国語に替えています。
 アメリカで「子連れ狼」を逆プリントで発売したことがあるけれど、拝一刀はいつも左手でチャンバラをやる。それで、逆プリントで絶対にできないマンガが、野球マンガです。ヒットを打てばいつも3塁に向かって走っていくからね。
 
 参加者2――右から左のスタイルが外国で受け入れられるんですか。
 
 矢口――韓国あたりだと、これが日本のマンガだと納得して読まれています。
 
 ちば――僕の本もいくつか外国で翻訳されていて、逆版にされていますから、キャラクターが字を書くのもみんな左利きなんですね。しかし、日本のマンガはいろいろな発達をして世界中に広まっています。アニメーションも世界で見られているものの60%は日本のものであって、その元になったマンガも翻訳されていますから、たぶんこれから世界中で日本式の右から左に読むようになっていくのではないかと思います。
 
 矢口――「あしたのジョー」を逆プリントでやられたことがあるの。
 
 ちば――あります。左パンチが右パンチになってしまうので、そういうセリフを直してもらったりしましたが。
 
 矢口――(アメリカ版「コミックバンチ」を手渡されて)アメリカで発売された「コミックバンチ」は日本と同じに右から左に進むようになっていますね。絵の流れを見れば、絶対にこの方が世界の人にスムーズに受け入れられると思うな。
 
 ちば――吹き出しの文字は、日本は縦書きですが、英語でも韓国語でも横書きですから、そこのところがちょっと混乱するかも。
 
 参加者2――日本の子供は、算数の教科書は左に開いて、国語の教科書は右に開きますよね。複雑なことをやっているわけで、けっこう負担があるんじゃないかと。
 
 ちば――負担もあるかもしれないけれど、人間の頭脳改革にはいいかもしれませんね。
 
 矢口――中国は問題ないはずだよね。漢詩などは縦書きであったわけですから。
 
 谷川――ちば先生に伺いたいのですが、番組の中で、キャラクターの長所と短所を挙げるようにおっしゃっていました。敢えて短所を挙げさせたのはどういう理由がありますか。
 
 ちば――僕はいろいろな少年マンガ、少女マンガを描いてきましたが、最初の頃は、二枚目で、優等生で、スポーツ万能で、正義感が強いという主人公ばかりでした。例えば、「ちかいの魔球」の二宮光という主人公は、ピッチャーで4番を打ち、ハンサムで背も高く、正義感が強いんですが、僕はそういう人間を描いていても何か面白くないんですね。一方、その相手のキャッチャーをしている久保田吾作は、デブでおっちょこちょいで、ときどき主人公の足を引っ張るような、いわゆる三枚目ですが、そういう脇役を描いている方がとても心が和むし楽しいんです。二宮光にはどうしても自分の気持ちが入り込めないんですが、自分にないものを描いているからそうなるんでしょう。
 そこで思い切って編集者に、欠点だらけの人間を主人公にしたいと言ったんです。それが「ハリスの旋風」です。編集の人は反対しましたね。ケンカばかりしていて、勉強が嫌いな子供を主人公にしたら、PTAなどから批判されるし、読まれないだろうと言われたんですが、僕もその頃は少し人気が出ていたので強引に押し通して出しました。そうしたら、鼻歌交じりで描けるぐらい、楽しかったんですね。それ以来、僕のマンガでは欠点だらけの人間が主人公になって、優等生は敵役で出てくるようになりました。そういう主人公は、描いている僕も楽しいし、読者にもものすごく共感を持って迎えられて、間違いじゃなかったと思っています。
 
 谷川――矢口先生、三平くんは、どちらかというと優等生ですね。
 
 矢口――ちばマンガを見ていると、本当にけたくそ悪いぐらいに面白いし、活力があって、いつも感心するんだけど、残念ながら僕はああいうのは描けない。のたり松太郎というすごく破天荒な、最高のキャラクターをちばさんは生み出して、ああいう人がいたらお友達にはなりたくないなという感じを持ちますが、とても面白い。ああいうキャラクターは僕は描けないですね。僕の場合は、どんどん科学していくような、優等生的なキャラクターになってしまう。それぞれの資質の違いがこういうところに表れるんだと思います。
 
 谷川――坂上さん、今まで何本ぐらい、この番組を作りましたか。
 
 坂上――今年で5年ですから、1年に35本から40本ぐらいとして、およそ200本ぐらいになると思います。
 
 谷川――登場したのは、業種としてはどういう人が多いですか。
 
 坂上――業種としては何でもありですね。どんな人が課外授業をしても構わないと思いますし、近所のパン屋さんや魚屋さんがやってもいいと思いますが、ただし、それは学校の先生が企画してできることなので、テレビならではということ、見たこともない授業を見てみたいという番組の都合上、市井の人でない人にお願いしています。
 
 谷川――もう時間になりました。
 ちば先生と矢口先生の授業はそれぞれ個性があって、好対照といえばそうですが、その中で描かれた先生方の姿勢と子供達の反応から、僕達はいろいろなことを学ぶことが出来るという印象を持ちました。また、坂上さんの2割5分の打率というお話は、とても興味深かったです。
 どうも、ありがとうございました。
 
(了)


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