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フォーラム本編
第5回「マンガ館の教育的活用・学社融合の要、マンガ」本編
 
コーディネーター挨拶・パネリスト紹介
 
 谷川――第5回アジアMANGAサミットが、10月12日から14日まで神奈川県横浜市のパシフィコ横浜などを会場として、開催されました。かなり大々的なもので、日本の多くのマンガ家が参加し、海外からも70〜80名のマンガ家が訪れました。本日おいでいただいた倉田よしみ先生は、実行委員をしていらっしゃいました。
 
 倉田――アジアMANGAサミットには、日本、韓国、台湾、中国、香港を中心としたマンガ家が集まって、これからのマンガの進む方向、各国のマンガの成長度によって今後どのようにマンガが進化していくか、著作権問題、表現の自由の問題、などを取り上げて論議しました。来年は中国で開催されますが、それに向けた話し合いもしました。
 日本のマンガは少し沈滞ムードですが、今一番活気があるのは中国です。各国の経済状況に似ている感じもして、これからの中国のパワーに期待するとともに、日本のマンガ家として頑張らなければいけないと感じました。
 今後、マンガが色々な方面で使われることになると思いますが、それに向けてマンガ家も、マンガを描くだけではなく色々なことに参加して自分の視野を広げ、各分野と密接に結び付いて、日本から、アジア、世界へと進んでいきたいと考えています。
 
 谷川――ありがとうございました。
 さて、教育界では、学校教育と社会教育を融合させていかなければならない時代になっていると言われています。最近では、公民館、博物館、図書館など、地域の人達が生涯を通じて学べる機関がたくさんあります。今日おいでいただいている3つの機関も、大きく捉えれば生涯学習の機関として設定されていると思います。
 今年度から学校5日制が実施されて、土曜日の授業がなくなりましたが、その土曜日をどう使うかが大きい課題になっています。学校で先生が教える形もあるでしょうが、それ以上に、子供達自身が地域の機関を利用しながら視野を広げていくことが期待されています。
 今回のフォーラムは、教育という言葉を硬く捉えず、イマジネーションをふくらませること、つまり子供達が博物館などにおいてどのように自分達の世界を広げているかという関心から、3つの機関においでいただいたとお考えください。子供達の姿が見えるような、具体的なご提案をいただければありがたいと思っています。
 宮城県石巻市の石ノ森萬画館からおいでいただいた星雅俊さんは、現在は市のゴミ処理対策の仕事に移られていますが、粘り強く地道な活動をされて、昨年の萬画館オープンにこぎつけました。星さんがいなければ萬画館は出来なかったと思います。
 高知県香北町のアンパンマンミュージアムからは、事務局長の田所菜穂子さんに来ていただきました。アンパンマンは、乳幼児から小学校低学年ぐらいまでの間で圧倒的な人気を誇っていますが、子供達がどのような反応を見せるかといったことをご紹介いただけると思います。
 斎藤史郎さんは、長野県上田市の山の中にある上田市マルチメディア情報センターからおいでいただきました。同センターで展開しているマンガやアニメーションに関係する事業についてお話いただきます。
 
石ノ森萬画館(宮城県石巻市)の場合/星雅俊
 
 ――石ノ森章太郎さんは、本名小野寺章太郎、昭和13年に宮城県石巻市から北に50分ぐらい行った所にある中田町に生まれました。
 萬画館の建設は、石巻市の菅原康平市長が、平成7年に「マンガアイランド」および「石ノ森記念館」の構想を突然発表したことに始まる、トップダウンの事業でした。石巻市に日本製紙という会社がありますが、そこがマンガジャパンという団体の賛助会員になっている縁で、不況に悩む石巻市でマンガによる街づくりというのもおもしろいのではないかという話があって、菅原市長が石ノ森先生のご了解も得ずに発表したというエピソードがあります。その後、石ノ森先生にお話をしてご了解いただきました。
 平成8年、9年には、どのような萬画館にするか、どのようにマンガを生かして街づくりをするかという構想を策定しました。行政としては、地域の活性化が大きいテーマになっており、そのためには地域の個性化が必要です。個性化すれば、他地域との差別化が出来ますから、色々な人に石巻市に来てもらえるだろうし、定住人口も見込め、それが優秀な人材の誘致、育成につながる。具体的には、クリエイターの方々の誘致、育成を通じて、新しい産業活力が生まれるのではないかという考えです。
 「夢創造のまち」として、人づくり、街づくり、産業づくりなどの面でマンガの特性を生かしていきます。人づくりでは、郷土史のマンガ本化、マンガのマルチメディア創作体験、コンピュータグラフィックス研修、アニメ制作研修など、街づくりでは、マンガロード事業(駅前から萬画館までの1kmの道にモニュメント等を配置している)、みちのくマンガロード協議会(東北でマンガに関わっている、石巻市、中田町、秋田県増田町の都市間交流)、産業づくりでは、他観光資源とのネットワークがあり、まだ研究段階ですが将来的にはマルチメディアコンテンツ産業の誘致育成という大きいテーマもあります。このうち石ノ森萬画館では現在、人づくり関係と、他観光資源とのネットワークを担っています。
 こうした構想の下、主要事業としては、石ノ森萬画館建設(平成13年)、離島振興策として田代島におけるマンガアイランド(平成12年)、またソフト事業としては石巻漫画大賞が計画(平成15年度予定)されています。
 ところで、この構想が平成7年の定例市議会に提案されたときには、各会派の議員から不況の時代にマンガとは何事かと猛反発を受けました。その後、マンガの可能性を感じた市民の有志が、自発的に「マンガアイランド構想をみんなで広げる会」を発足させ(平成10年1月)、1200名の会員を集めて、啓発活動、陳情活動を繰り広げたところ、市議会は全員が賛成派に回りました。このように市民が積極的に動いて出来たところが、当萬画館の特色であると思います。
 石ノ森萬画館は、平成13年7月26日に開館しました。施設目的は「マンガによる地域文化の発信拠点、地域の活性化」で、文化面と産業面の両方があります。建物の規模は約2000m2、建設費は約20億円かかりました。石巻市が建設主体となった公共事業という位置付けですが、運営は第三セクターに委託しています。
 当館の機能は、主に4つあります。
 (1)展示機能として、常設展示(石ノ森章太郎の世界)と企画展示(常設以外の石ノ森作品、他のマンガ家の作品)があります。
 (2)普及育成機能として、ライブラリー(世界のマンガ本6000冊、専門書、映像)、マルチメディア工房(パソコンでアニメ編集、初歩的なアニメ制作体験)が設置されており、不定期ではありますが、マンガに親しむワークショップ、そこから少しステップアップしたクリエーター創出部門として、マンガ教室やコンピュータグラフィックス教室を開いています。
 (3)収蔵機能として、石ノ森プロダクションより石ノ森先生の原画約5万枚を無償で管理委託されています。今も増え続けていて、最終的には10万枚ぐらいになると考えています。
 (4)学術的調査機能として、単なるマンガの展示館ではなく、より魅力的な情報発信をするため、石ノ森作品の研究やマンガの応用に関する研究をしています。そのために学芸員資格を持つ職員を2名採用しています。例えば昨年は、石ノ森マインドに学ぶシリーズを企画して、「ホテル・プラトンから何を学べるか」という切り口で、顧客満足、CSなどの研修会を開きました。
 平成13年度の入館者は、オープンから8か月で29万4000人、うち有料者は16万2000人でした。当萬画館は3階建てのうち1階と3階は無料で入場でき、2階の常設展示、企画展示部分だけが有料となっています。平成14年度は、9月までの6か月で入館者16万6000人、有料者9万5000人でした。
 入館者を年齢別に見ると、小中学生が30%、30代・40代が40%となっていて、高校生、大学生は少ないです。地域別では、石巻市内の方が15%で、宮城県内は50%、県外は50%となっています。また、2回以上訪れた方が30%います。
 学校教育では主に総合的な学習の中で利用されており、13年度は14小学校、6中学校の1267人、14年度は6小学校、5中学校の581人が来館しています。学習のテーマは、石巻の街づくり、地域を知る、観光開発の工夫、石巻の町を学ぼう、といったものが多いようです。石巻市立住吉小学校では、平成11年度から「ぼくらのマンガランド」というテーマで総合的学習にかなりの時間を割いています。11年度は15時間でしたが、毎年時間数が増えて、14年度は70時間を使って、3年生の全生徒が萬画館を通して学んでいます。
 また、遠足、課外学習、子ども会などの体験学習として使えるワークショップのメニューが用意してあり、13年度は4団体139人、14年度は5団体162人が利用しました。その他、オープンワークショップとして毎週土曜日に創作体験メニューが用意してありますが、これまで11回開催し約360人が参加しました。
 観光施設やテーマパークに間違われて、行政がそういうものをなぜ造るのかと批判も受けました。まず文化の発信があり、その上で萬画館の集客力を生かして街の活性化を図る意図だと言っても、どうしてもお金の面だけで捉えられ、誤解を受けることが多くあります。今後の課題は、魅力的なマンガ文化の発信をし、地域の方々に利用していただくことであると考えています。
 続いて、当館の学芸員である佐久間から、ワークショップに参加した子供達の反応などについて報告いたします。
 
 佐久間――ほとんどの子供達から、「楽しかった」「よかった」という感想をもらっています。何回も参加してくれている子供もかなりいて、この子達は目に見える成長があります。子供達にとってワークショップは、技術的なものを学びに来るという目的もありますが、マンガが好き、何か作ることが好きであり、描いたり作ったりする場所を求めてきているという感じもします。これからもそのような場を提供していきたいと思います。
 ワークショップは、マンガ教室、デザイナーになりたい子供が集まりマッキントッシュでデザインする、少し専門的なワークショップ(クリエイター創出部門)と、マンガを通して何かを作ったりすることに興味をもってもらうためのワークショップの2本立てです。興味をもってもらうワークショップについては、マンガに限らず、工作をすることもあります。専門的なマンガ教室については仙台市にいるデザイナーに協力いただいていますが、興味をもってもらう方については私が一緒に学んでいく形をとっています。
 
 谷川――フロアからご質問ありますか。どうぞ。
 
 参加者1――中田町のふるさと記念館とは連携されているのですか。
 
 ――連携については、みちのくマンガロード協議会で模索しているところです。現在は、中田町の職員との情報交換、パンフレットの交換程度です。距離があって行き来が不便なので、共同でバスを走らせたらどうかという案もありますが、まだ実現していません。中田町の記念館と当萬画館は同じようなものではないかと言われることがありますが、コンセプトは違います。中田町の記念館は、石ノ森先生が生まれてから東京に出るまでを中心にした顕彰記念館です。当萬画館は、石ノ森先生がマンガに無限の可能性があるということで「萬画宣言」をされた、そのコンセプトを踏襲しています。


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