日本財団 図書館


【質疑応答】
 参加者3――浜松の鈴木と申します。今、高校で取り組んでいるというお話ですが、義務教育の小中学校での取り組みについて、図書館にマンガの本を入れるとか、授業にマンガを使うとか、知事が指示を出すようなことを何かお考えでしょうか。
 
 梶原――できることなら明日にでも指示を出したいところですが、独立性を持った教育委員会が決めることです。教育委員は、議会の承認を得て知事が任命しますが、我々は教育委員を通じてしか、教育に関与することはできません。
 しかし、指示や命令はできませんが、誘導はできると思います。幸い2校でよいモデルを作っていただいたので、その実績を参考にして誘導策を考えていきたいと思います。問題は、児童や生徒よりも、先生方にその気になってもらえるかどうかです。全体として、マンガは素晴らしいものだ、マンガが分からないのは21世紀型の人間ではないという常識を広めていかなければならないと思います。
 
 参加者4――マンガ立県ということですが、マンガを具体的な産業に結び付ける道筋はどのようにお考えですか。教育現場だけではなかなかお金には結び付きませんし、立県まではいかないと思いますが。
 
 梶原――マンガ、アニメを産業・経済に結び付けるのは、まず直接的にマンガ、アニメ産業を育てるということがあると思います。しかし、残念ながら東京にプロダクションが集中しているという実態があります。これはIT全般についても同じことで、渋谷のビットバレーのように、一極集中という現状があります。それをどう乗り越えるか。篠田先生にもお願いして、次世代アニメ研究会を作って、将来を見越して今から種を蒔いていこうと。コンピュータグラフィックスもバーチャルリアリティの技術も、どんどん進展しているので、そうした新しい技術を使って次世代アニメを作っていきたい。幸い、岐阜県下で人材が育ってきているので、マーケット立地型ではないけれど、人材立地型の産業を興せるのではないかというのが私の仮説です。そういう計画が軌道に乗れば、それが吸引力になっていきます。
 すでにソフトピアジャパンでは、素晴らしい技術を持ったベンチャーが育っています。その中には、アメリカのハリウッドで賞を受けたとか、「学校の怪談」や、NHKのテレビ番組「海」の映像を作っている人もいます。まだ規模は小さいし、草創期ですが、その気になってやっていけば、産業に結び付けられると思います。その前に産業を支える人づくりです。IAMAS(国際情報科学芸術アカデミー)もありますし、今後、高校、中学、小学校でも取り組んで人材を輩出すれば、産業・経済に結び付けられると思います。
 
 谷川――梶原知事のお話を伺って、さすがに噂どおりの柔軟な発想と実行力をお持ちの方だと思いました。あと、30分ほどですが、フロアからご意見、ご質問をいただきたいと思います。はい、どうぞ。
 
 参加者5――岐阜から参りました、下請企業の社長で、五嶋と申します。先ほど、産業とどう結び付けるかというご質問がありましたが、私はマンガくらい企業経営と結び付けて効果のあるものはないと思っています。ちょっとした会社では、社内報というものがあります。社内報をマンガでやりますと、社長方針の徹底が、非常にいいのです。思想統一はマンガに限ると思うくらいです。うちも社内報を出していますが、文章とマンガを併用しておりまして、非常にいいです。
 それから、先ほどから情報伝達といったことに限られたような発言が多いですが、科学で1番先端的なものがマンガだと思っています。ちょっと古い話ですが、第2次大戦中にP-38という双胴の戦闘機が出たことがあります。あれを最初に描いたのはマンガ家でした。
 
 谷川――社内報などではそういう人が必要なのかもしれませんね。大学にはそういう人がいませんから、みんなつまらない文章でやるのですが、少しでもイラストが入っていれば捨てないで読むと思います。もったいないですね。
 他に、どんなご意見でも結構です。はい、どうぞ。
 
 参加者6――大垣女子短期大学の篠田です。知事のお話の補足として、産学でどういうことをやっているか、私の学校の例をご紹介します。
 小中学校はどうかというご質問がありましたが、岐阜羽島の小学校に学生2人を派遣して夏休みマンガ教室を開いたことがありますし、中学校には私たち教師が出前講義をすることもあります。そうした種まきのようなことはしています。高校については、多治見西高校と土岐紅陵高校にうかがって、アドバイスしたり、こちらとしても情報をいただくなど、協力できるところはしていきたいと思っています。
 学生はマンガを技術的に身に付けても、必ずしも全員がプロになるとは限りません。それでも非常に上手い学生もいます。うちは女子短大ですから、可愛い娘を恐い東京なんかに出してなるものかという親御さんもいらっしゃいますので、卒業後の受け皿として学校にマンガ工房を作りまして、スタッフには卒業生、研究生、また在学生も含めて、主に行政の仕事をいただいてやっています。最近では、今年3月ごろ、県が実施したマンガ意識調査の報告書がありました。一般的なグラフや文章ばかりで最後まで読むのは辛いものがありましたが、それをマンガで表現したらどうかということで、70〜80ページの冊子に仕立てて、かなりよい評価を得ました。また、豊明市で市史の付録として、今川義元の側から見た桶狭間の戦いを描いたこともあります。
 つい昨日は、地元でレジャー用品を作っている業者が夏向けの浮き輪のデザインがほしいというので、マンガ、イラスト、グラフィックデザインの学生たちで140〜150点作って納品しました。これはあまりお金にはなりませんでしたが、画材を提供していただきましたし、業者の方でこれは使えるというものがあれば製品化して、それをデザインした学生にはいくらか奨学金として払う約束になっています。このように、地道に1つの形を作っていきつつあるということです。
 
 谷川――ありがとうございました。どうぞ。
 
 参加者1――高知の佐竹です。マンガによる町おこし、立県ということが話題になっていますので、私の知っていることをご報告させていただきます。横山隆一記念まんが館はフランスのアングレーム市にある国立漫画映像センターと提携しています。アングレームは、ボルドーに近いところにある、人口5万人足らずの小さい町で、今から29年前に町おこしをしようと地元のマンガ家が漫画フェスティバルを始め、1990年にミッテランさんが国立漫画映像センターを建てて、さらに発展をしてきました。今年1月、私は高知市長や議長とともに、提携の協議のために行ってきましたが、4日間の国際漫画フェスティバルでは20万人のお客さんを集めています。町をあげての取り組みで、世界的にも成功している例だと思います。
 また、我が高知県では、やなせたかしさんのアンパンマンミュージアムがあります。高知市から1時間ぐらいかかるド田舎にありますが、平均して1年間で24万人ぐらいのお客を集めていて、これもかなり成功している方だと思います。経営的にも黒字だそうです。他にもありますが、私のまんが館ももっと欲張って幅広いマンガ事業をやっています。
 手塚治虫記念館も、今から8、9年前にできましたが、立地のよいところなので当初は大変成功しましたし、石ノ森萬画館も石巻市がやっています。
 直接的に産業と結び付く成果が上がっているのはそのくらいでしょうか。他はあまり聞きませんね。
 
 谷川――ありがとうございました。土佐は本当にたくさんのマンガ家が出ているところです。
 こちらから指名させていただきたいと思います。今日、たくさんの生徒さんを連れてきていただいた先生だと思いますが、加藤先生に現場の立場からの意見を拝聴したいと思います。
 
 参加者7――うちの学校は八潮南高校といいまして、埼玉県でも東京都葛飾区に近いところにあります。普通科、商業科、情報処理科の三つの学科があるので、総合学科の高校を作るには1番近いところにあると思います。今日はマンガ研究会のメンバーと一緒に参りました。うちの学校は、図書館の司書の先生が着任して2年間で大量のマンガを購入しました。校長が図書室へ行ってマンガの多さに驚く。中学生が学校見学に来ると、やはりびっくりするという状況です。私の授業の最中も、耳では授業を聞きながら、目は図書室から借りてきたマンガを見ているという生徒もいます。まさにマンガには授業に勝る魅力があるのだと思います。マンガ研究会では、今年もまんが甲子園に挑戦しましたが落選しました。また、意欲をもってやっていきたいと思います。私は今、教務主任をしていますが、学校案内の漫画バージョンも作ってみたいと思っています。おそらく中学生にしても、写真版のきれいなものを配られるのでは、どこも大差はないだろうと思います。そこで、高校の1年間、あるいは高校生の1日を追ってみるような、ストーリーのあるものを作ってみたい。
 来年20周年の記念式典がありますので、これから徐々に貯めていきたいと思います。記念誌を作るのは大変お金がかかりますが、その割には誰も見てくれないので、あれをやめてCD-ROMで作ろうという方向に動いています。ただ、記念式典の当日来てくれた人に銀色の円盤が渡されてもどうにもならないので、式典の間、耳で祝辞などを聞きながら見るような、生徒たちが作ったマンガによる20年の歩みを作りたいと思っています。まだ、それほど歴史のある学校ではありませんが、色々なことに挑戦してみたいと思います。
 
 谷川――ありがとうございます。先ほど男子生徒に話を聞きましたので、女子生徒に今日の感想を言ってほしいのですが、加藤先生から誰か指名してくださいませんか。どんなことでもいいですから自由にしゃべってください。
 
 生徒2――今日は話を聞く事ができて本当に参考になりました。本来ですと、もう少し人数を増やしてきたかったのですが、あいにく就職や進路のことなどで3年生が忙しいので、来られる人だけで来させていただきました。知事さんの話を聞いて、マンガでこれほどまで影響を受けた人がいてくれたというのは、本当にうれしく思っています。これからも学校行事を通して、マンガを役立てて学校を盛り立てていくように頑張りたいと思います。今日は、ありがとうございました。
 
 谷川――いま2年生ですか。大変に素晴らしい、校長先生のようなお話でした。
 そろそろ時間が少なくなりましたので、3校の先生方から、今日のフォーラムについての感想、あるいは言い残したことなど、何でもいいですからお願いします。
 
 ――本日は、本校の発表はあまり役に立たなかったのではないかと思っておりますが、本校の実情は分かっていただけたと思います。梶原知事がいらして、今後大いに支援をしていきたいというお話をいただきましたので、私学はどうしても自主運営をしなければなりませんので、その関係で経済的なバックボーンが非常に大切になってきます。我々としては、せっかく始めたマンガですので、今後より発展的な形で進めていければと思います。
 
 纐纈――何か皆さんのお役に立てばと思ってきましたが、逆に自分の方が勉強させていただいたと思っております。特に、岐阜県知事から、数学、英語、地理などの教科書をマンガで表現させたらどうかというお話がありました。私は英語を教えていますが、よく生徒に、この1ページあるいはこの場面を目をつぶって頭に描いてみなさいと言います。その場面が鮮明に描けたら、間違いなく理解しているのです。そういうことと繋がりがあると思います。学校に帰りましたら、英語の教員にはこれをやらせようと思います。
 また、生徒もマンガを描くことによって、本当の自分を見つけられる場面に当たるのではないかと思います。作品に出てくる人物あるいはその行動を通して、自分自身を肯定したり否定したりすることを、自分の中でやっていくのだと思います。そして、マンガを通じて、正しい生き方、在り方についても勉強できると思います。さらにそう確信をしました。
 3つ目に、私事で恐縮ですが、私の娘は今年大学に入学しました。日本史が苦手だったのですが、マンガで日本史を描いたものを読ませてみたら、なんとかセンター試験である程度点数が取れるくらいになりました。知事もおっしゃいましたが、イメージによる理解が頭に残っていく。それで大要をつかむ力をつけていくと、けっこう役に立つのではないかと思いました。
 
 佐藤――世界的に文化として認められてきたマンガですが、まだ教育に取り入れていくのは大変難しいことだと思います。ですから、うちの学校で頑張って結果を出して、認められるように頑張っていきたいと思います。
 
 黒田――今回、マンガについて色々と考えるきっかけを作っていただいて、ありがとうございました。すでに40年以上前の小学校当時、文学をマンガで描いたシリーズがありましたが、私は『にんじん』というフランスの小説や『坊ちゃん』などを最初にマンガで読みまして、その後文字で読んだことを思い出しました。マンガというものは、随分前から、親しみやすく、分かりやすく、馴染みやすいものとしてあったはずですし、現在もそうであるはずです。では、なぜ主役になれないのか。何か添え物というイメージがあります。
 特に教育界、PTAなど、正面きってマンガを受け入れるようにならないのは何故なのか、今考えていたところです。例えば、あまりにも性的な表現をマンガで描くような雑誌も現実にあります。そこで、悪書=そうしたマンガである、だからマンガは文化的には低級なものと思われる。もちろん、文字でもそれに似たものはありますが、その辺のところが課題ではないかという意味があります。
 もう1つは、映像をあまりにも主にしてしまうと、かえってイマジネーションが衰退するのではないかと思います。その辺の議論もまだ残っているという気がします。私は、人間は、生まれてから育つ過程で、まず目で見て、耳で聞いて、物事を捉えていく、それから文字だと思います。だから最初に目で見たもののイメージから文字へ、それがまたイメージにつながるという、相関関係の中でイマジネーションがふくらむのだと思います。その辺がなくてイメージだけを強調すると、はたしてイマジネーションは育たないのか検討する必要があると思います。
 
 末房――今日参加させていただいて、大変勉強になりました。教育の場にとどまらず、行政から、産業から、あらゆる分野にマンガの影響力があることを知り、大変おもしろく思いました。私は専門は日本画です。日本画には、絵巻物という時間を表わす方法があります。マンガはまさに現代の絵巻物だと思います。絵が時間を持っていて、物語を語れるのは本当に素晴らしい事です。近代の絵はとかく造形性云々ということで、物語性を忘れてきてしまった。古い絵にはたくさんそういうものがあります。今の若い人たちがマンガが好きだというのは、おそらく絵でお話ができるという新しい可能性があって、未来が広いことを実感しているのではないかと思います。パソコンなどは、年寄りはとっつきにくいですが、若い人は何も言わなくても興味を持って、抵抗なく入っていきます。マンガを求めるのも、若い人には可能性に対する嗅覚が働くのではないかと思いました。これからもマンガについて考えていくと同時に、若い人たちによってマンガの世界の新しい可能性が開かれるとおもしろいと思います。
 
 谷川――最後にコーディネーターとしての意見と感想を述べたいと思います。
 今日、梶原知事のお話の中で、1番衝撃的だったのは、地理も数学も英語もマンガで描けという発想です。これまで私もいろいろ考えてきましたが、そういう発想は全く出ませんでした。それが何故すごいかというと、マンガで描くにはその内容を理解しなければ描けないからです。生徒はマンガを描くためには、英語や数学を勉強しなければならないのです。要するに、マンガはマンガだけで存在するのではないと思います。マンガには様々な学問、科学などが入りこんでくる世界だと捉えると、知識教育とイメージ教育は決して対立する訳ではない。
 マンガがすべて良いとは思いません。悪いマンガもたくさんあります。しかし、悪い小説もたくさんありますし、悪い大学教授もたくさんいます。どこでも悪いとか良いという判断はあります。その判断を、日本の文化では国家や権力によって決めない。読者が自分たちで判断していくところから、マンガ文化が日本でこれだけ広がったのです。我々が良識を結集して、どういうマンガが良いのか、どういうアニメが良いのかということを、互いに言い合っていくことが文化を作る根源だと思います。
 梶原知事もイメージ教育とおっしゃいましたが、人間にとって文字とビジュアルとがどう関わるかということを、学生や講演などでもよく聞くのです。第1回で、マンガが障害者の問題にも関わりがあるということを話ました。我々は年をとれば、耳が聞こえなくなる、目が見えなくなる、話せなくなるなど、必ずどこかに障害が出てきます。そこで皆さんにちょっと聞いてみたいと思います。
 自分が障害を持つようになったとして、耳が聞こえなくなくなることが嫌だという人は手を挙げてください。ゼロですね。目が見えなくなるのが嫌だという人は。全員ですね。90数パーセント以上の人は、目が見えなくなる方が嫌なのです。
 何故なら、目からの情報の方がはるかに多いからです。もし、この会場にどのような人がいるかを文字で表わしたら何万字書いても書き尽くせませんが、目で見れば1発で分かります。そのビジュアルを活かしたものが絵であり、マンガなのです。文字と絵とは機能が違うのです。それほど人間にとっては不可欠なものであることが分かります。その辺を基本において、マンガを論じてみたいと思います。
 本日はありがとうございました。


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