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「日本人のちから」」Vol.40(2006年最終号)特集「日下公巻頭言集」

 事業名 基盤整備
 団体名 東京財団政策研究所


無言の伝達力
 伝達力は、“言語”にあると思っている人が多いが、やってみると言語の力には限界があることが分かる。では、どうするか。高学歴の人は言語をもっと磨けば良いと考える。単語をふやし、論理をつくせば良いと考える。
 
 そこで学校をつくり、教師を増やし、教科書をたくさん作ったが、
(一)それでも日本人は、外国との交渉に強くならない。
(二)就職しても会社に喜ばれない。
(三)本人も勉強をいやがっている。
(四)喜ぶ子供は十%くらい。
では、どうすれば良いのか。
 文部科学省が高学歴の人を審議会に集めると、“言語力”の劣化を嘆く意見ばかりがでるが、それが教育改革や教育再生論の出発点に適当かどうか。
 
 M製薬の二代目社長であった人がこんな話を教えてくれた。
 「わが社の主力製品は父が戦前に馬の小便を煮つめてつくったものだ。実際、よく効いたのでよく売れたが、戦後、厚生省が『薬は純粋物質に限る』と規制したので、研究して薬効成分を確かめ、つづいてそれを人工で合成して、今はそれを売っている。
 ところで困ったことに、昔は三万単位の服用でもよく効いたのに、今は十万単位、二十万単位の服用が必要になる。会社はたくさん売れて嬉しいが、患者さんの身体にそれでよいのか、と考えると、昔のように馬の小便を煮つめたのを健康食品か何かにして別に売ってみたいものだ。馬の小便に入っている雑成分が総合的に相乗的に効くらしいが、そこまでは科学者には分からないらしい」
 二人だけの話を公開して申し訳ないが、たいへん感心したのでお許しを願って書く。
 
 この話は大学教育によくあてはまる。
 言語と論理でつくり上げた“理論”や“学”は人工合成物である。さっぱり味がないし、面白くないが、そればかりを尊ぶところは文科省も厚生省に似ている。アカデミズム病の患者である。
 大量投与が必要だということについてM社長は患者の身体を心配していたが、教育関係者にそんな反省はない。大量投与礼賛論ばかりで、大学院をつくったり、博士をつくったり、生涯教育を推進したりしているが、社会全体の情報伝達力は低下するばかりである。
 
そこで、
(一)言語以外のものに伝達力がある。
(二)言語では伝達できないものを日本は創造し、すでに生産している。
(三)日本に生まれて育った子供達は、自然にそれを体得している。
(四)未来をつくる活動は無言の世界で、説明はあとからついてくる。
(五)体得力のある子供とない子供に分けての教育が必要である。
(六)言語以外の伝達力がある先生には人気がある。(政治家も同じ)
(七)体得による伝達力には何があるか。
 
 近頃の流行語だが、草の根の教育、野外実習、子供達の視点からの発想、自発的学習、現場実習、インターン制度、討論参加等々を一言で言えば、馬の小便をそのままのませるのが一番速い・・・になる。
 
 それを具体的に書くとこうなる。
(一)子供には家の手伝いをさせろ。
(二)父親も一緒に家のことをしろ。
(三)ベンジャミン・フランクリンの父親が子供にしたように十二歳までにいろいろな職業の現場を見学につれて歩け。
(四)書物による勉強は、それから自分でせよ。
(五)十八歳になったら徴兵して、半年か一年か短期集団生活をさせろ。
 
 これだけしたらもう子供に伝達すべきものはない。子供達も相互にコミュニケーションができるようになっている。
 結語。馬の小便で何が悪い! ノイズの中に未来情報がある。
(二〇〇六年一二月「伝達力」)
 
東京財団プロフィール
 東京財団は、日本財団及び競艇業界の総意のもと、極めて公益性の高い活動を行う財団として、1997年7月1日に設立されました。
 その役割は、四面を海に囲まれ、人や物資の移動を海上交通に依存する日本が、急速にグローバル化する今日の世界において、人類の直面する地球的諸問題を解決し、より良き国際社会を築くために、知的リーダーシップを取ることにあります。そのために、人文社会科学分野における高等教育と研究に関わる学際的、国際的活動を通して、国際性豊かな人材の育成と先駆的アイディアの創造を目的とする事業活動を実施しています。


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