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市場から見たマンガ産業論・まとめ
 敗戦によって価値基準が変化したことも重要なファクターとして考えるべきだと思います。それまで扱わなかったような紙芝居の作家を大手の小学館が使ったり、赤本マンガや貸本マンガの描き手を雑誌が受け入れる素地として、それまでの価値観が一度崩れたことがあったのではないでしょうか。
 もう一つは、子どもの社会性の急激な変化です。高度成長で子どもの小遣いが増える。親が子どもをそばにいるよりも自由に育てる。鍵っ子とか、あるいは塾へ行く子が増えます。そうすると、子どもたちが自分の時間を持てるわけです。それによって子どもが消費をリードするようになっていきます。
 読者と購買者が一致することで、マンガは、それまでの世代の壁を超える。それまでのマンガが扱うことのなかったジャンルを扱うことになりました。例えば、思春期の読者に向けたメッセージを発するようになった。日本のマンガが世界から注目されている理由のひとつはその点にあります。ドイツで日本の少女マンガがヒットしているのは、思春期の少女たちが共感できる児童書が、それまでは無かったからだといわれています。ほかの国でも主人公や、登場人物の精神的な成長に共鳴したい少年少女読者が多くいるのに、彼らが共感できる児童書が、多くは存在していないといわれます。「海外にもオタクがいますよ」、みたいな話が取り上げられるのだけれども、海外のオタクの方たちよりも、市場を支えているのはむしろ「犬夜叉」に共鳴するとか、「悟空」に共鳴するという子どもたちであります。ドラえもんとのび太の世界に共鳴するという小さい子たちなのです。日本のオタク文化が世界に受け入れられているという部分をあまり気にしすぎると、むしろ海外においては一過性のブームになるのではないかと思われます。
 最後にこれからの大きな問題に触れておきます。団塊の世代たちが、上へ上へどんどん年齢層を広げることによって、子どもから大人まで、マンガの読者の幅が広がっていった。600万部達成のときの「少年ジャンプ」の読者の上限というのは40代でした。今度は団塊さんたちが定年を迎えたときに、このまま読者の年齢の上限を引っ張ることは出来るのだろうか。読者の年齢が上に上がることによって、市場拡大を維持することは限界ではないだろうかということがいえるわけです。ビッグコミックオリジナルという雑誌は、100万部出ていますけれども、読者の分布でいきますと、一番多いのが35〜39歳のグループで、これが4分の1ぐらい。次が40〜44歳のグループが23%ぐらいです。そして50歳以上が7%くらいで、下があまりいない。もし、「60になったから、そろそろ読むのをやめよう」なんていうことをいうと困るわけです。無事に定年過ぎてもちゃんと「私はマンガを読むよ」と言ってくれればいいのですが・・・
 
 
 逓信総合博物館主催の松本零士コレクションでつづる「漫画誕生から黄金バットの時代」展の同時イベントとして、以下のとおり、成果発表会を開催しました。
 
「フォーラム〜地球を動かすマンガの感性!〜」
 マンガを学術的に研究には多様な視点が必要です。縄文文明、平安絵巻、江戸の庶民文化、戦前戦後のストーリーマンガ、更には脳生理学からのアプローチ、外国文化との擦り合わせ、20世紀の主流科学との衝突等、これまで討議されてきた内容の報告をし、その後パネリストよるディスカッションを行います。
 
モデレーター:谷川彰英(国立大学法人筑波大学理事)
パーソナリティ:タケカワユキヒデ(音楽家、マンガ収集家)
パネリスト:斉藤環(佐々木病院診療部長、神経科医)
高橋秀元(編集工学研究所、主任研究員)
高松巌(元東京都産業労働局 観光振興部部長)
中野晴行(マンガ編集者、ジャーナリスト)
布施英利(東京藝術大学助教授、美術評論家)
総合司会:野崎裕司(東京財団情報交流部部長)
 
開催日時:2006年1月22日(日曜日)14:30〜16:30
場所:逓信総合博物館 地下2階ホール
 
 


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