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[フォローアップ資料2]
ペアレント・メンターにおける電話相談
井上雅彦
(兵庫教育大学)
1. 電話相談の特性
1)匿名性がある
 相談者が自分の名前を名乗らなくてもよい、誰でもどこからでも相談することができる。名前、年齢、性別、職業、顔の表情、態度、状況等が不明確。
2)声のみを手がかりにした推量が要求される
 視覚による接触がないため言葉と矛盾する表情やボディランゲージなどの補助的な手がかりが読み取れないことから相談者の話を信じ込みやすい。
3)相談員の共感的態度も伝わりにくいことを意識する。
 
2. 相談員(メンターの場合)の姿勢
・相談者の人権、秘密を守ること
・相談者のペースに合わせて傾聴を心がけること
・相談員は相談者の声の調子、話し方、内容等に注意を払い、柔軟な対応を心がけること
・具体的な解決方法が得たいのか、情報が知りたいのか、話を聞いて欲しいのか、相談者の言葉や流れに注意を向けながら、客観的にみられる目も重要
・わからない質問にはわからないといえることが大切、「少しずれるかもしれませんが」といって自分の体験を話すのも良い
・自分の体験を話す場合、押しつけにならないよう注意する
・必要があれば関係機関を紹介することを相談者に伝え、了解を得られれば適切な機関を紹介する
・解決を焦らない。特に電話だけで解決しようとしないこと、可能であれば定例の交流会などにさそうとよい
・困った場合に相談できる専門家を見つけておく。
 
3. 電話相談の基本技能
1)環境管理
相談中に雑音が多いと相談者がやる気をなくしてしまうことがある。生活音や雑音をできるだけ少なくするよう配慮すること。周囲の人に対して電話中は重要だと思えることがあっても、話し掛けてはならないことを理解してもらう。
・事務所などで行う場合2人が勤務するようにするとよい。相互支援ができる上、一貫した綿密な電話相談の提供という精神的重圧も共有できる。
・メンターが家庭で行う場合、家族が相談内容を聞いてしまう可能性がある場合、周囲の人から離れた場所を確保する。相談内容については守秘義務を遵守し、家族にも話さない。
・1回のセッションで自分がどのくらい疲労し消耗し得るかの認識は大切である。相談員は次のセッションの前に散歩や何らかのデブリーフィング(自分たちの体験をグループで各人の感情を表出し、話し合うこと)、休憩を取ることが重要である。定期的に発達障害者支援センターの専門職員など専門機関のバイズが入ることが望ましい。
・家庭で行う場合、指定された時間でもハプニングなどで相談の継続ができない場合がある。その場合は無理をせず、親という立場で電話相談を行っていることを説明し、再度かけ直してもらうよう依頼する。
 
2)時間の管理
・相談の最初にどれくらいの時間うけることができるのかを告げておくことが必要である
・始まり方、終わり方の練習はロールプレイをして学習しておく。
 
3)重要な第一声(質、調子、言葉遣い、速さ等)
・受話器を取る前に、2〜3回のコールを聞いてから取るようにすると、双方の心の準備ができる。
・初めてかかってきた電話に出た相談員の声質、または適切な場合の留守番電話のメッセージの声の調子や早さ、相談員の癖や言葉遣いから相談者はなんらかの印象を持つ。
・挨拶の言葉は短く、はっきりと言う。
・電話をかけてくれたことに対して歓迎の意を表すために、温かい親しみやすい言葉がけは重要である。
・電話ではある程度の活気や生気が大事である。
・初めの言葉をあらかじめ決めておき十分に練習しておくこと。
 
4)相談途中の対応
・話し始めには、相談者が自由に話せるような自由回答の質問あいづち等を繰り返し、リラックスした雰囲気をつくる。
・相談内容が混乱してきたら、相談員の言葉で、言い換えや要約を使って、明確化をする。
・沈黙が続いた時は「今までのお話からは、私は○○○のように感じたのですが、それでよろしいでしょうか」等で返す。
沈黙についての相談員の対応は原則として、相談者が話し始めるのを待つ
・相談者が感情的になった場合、感情の流れを遮断しない。
 
5)傾聴と対応の技法
・電話相談に要求される傾聴と対応は、普通の電話での会話よりもはるかに難しい。
・カウンセリングを多角的に見た場合、その最重要事項の一つに語られない言葉がある。したがって電話では明確に表現されない事柄に気をつけることも傾聴に含まれる。
 
6)記録やメモ
 相談中にメモをとることによって、状況を明確化したり、聞き落としを防ぐことができる。また相談の記録を残すことで次回以降継続する場合に役立つ。しかしながらメモを取る音に対しても過敏な相談者もいることに留意すること。記録の管理をきちんと行うことなどが必要である。
 
7)感情の認識と応答
・ため息、間合い、ためらい、話題の変更、または歯切れが悪くなるタイミングを注意して聴き取る。これらが苦しみや感情を知る手がかりとなる。
・相談者がその状況を一人称ではなく三人称で話すことがある。その言葉を自分の「もの」とするように求めることで、その経験や問題にまつわる感情に相談者がもっと寄り添えるようになる。
・涙と同様に、感情は表現してもかまわないこと、感情が収まるまで相談員は待つことを伝え、安心させることが大切。
・相談者が怒りと涙の間を行ったり来たりすることもある。相談員は相談者と共に移動できなければならない。
 
8)沈黙の理解
 電話では自然な中断が意味のある沈黙となる時期や、沈黙の意味にしてもわかりにくい。
・10秒の沈黙は30秒に、30秒の沈黙は数分にも感じられる。3秒であっても言葉のやり取りや視覚的な情報がないと長く感じられる。
・相談員が沈黙を破るまでにどのくらい待つべきかについて厳格な規定はない。それぞれの相談者にとっての自然さ、相談員の流儀、そのカウンセリング関係がどのくらいしっかり確立されているかに左右される。
 
9)終了時の留意点
・相談者が同じことを繰り返したり、時間が長引いた場合など、相談員は今までの話から要約したことを相談者に伝える。
・相談員の要約によって、反応した相談員の考えや思いを確認して相談を終了する。
 
10)危機状況の対応(自殺念慮、虐待等)
・相談者が電話をかけてきたことを評価する(よく電話してくれました)。
・かなり差し迫った場合でも落ち着いて対応する。そして、相談者の状況を確認する。
・具体的行動を起こしていないのなら、慌てず落ち着いて対応し、傾聴する。
・相談者が「死ぬ」と言ってもそれは「助けてほしい」というSOSのメッセージである。
・自殺の防止の基本は傾聴である。
・自殺の危険性が高いと感じたら相談者のプライバシーに配慮しながらもある程度指示的に質問もする。
・子育てに対する不安の相談であっても、虐待へ発展する可能性もあるので、慎重に対応する。
・母親が虐待を認め、それでもやめられない場合は専門機関を紹介する。


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