蛋白質代謝レベルに対する自律神経切断及びムスカリンアゴニスト投与の影響:以上により副交感神経/M3アゴニストによるAQP5蛋白質レベルの変化は転写調節によるものではなく翻訳又は蛋白質代謝レベルによって調節されている可能性が示唆された。そこで蛋白質分解系の酵素に注目し、その活性変化を調べたところ、リソゾーム分解酵素カテプシンD/Eの活性が副交感神経切断によって上昇し、この上昇は塩酸セビメリン投与によって抑制された(Fig.6b)。これらの処置はプロテアソームの酵素活性には顕著な影響を与えなかった(Fig.6d)。顎下腺は主として腺房細胞と導管細胞から構成され、AQP5は腺房細胞に局在する。副交感神経切除および術後塩酸セビメリンを投与したラット顎下腺よりPercoll密度勾配遠心法により導管細胞から腺房細胞を分離し(Fig.7)、得られた腺房細胞を用いてカテプシン活性を測定した結果、前述の組織サンプルでの測定結果と同様の傾向が認められた(Table 1)。これらの実験からAQP蛋白質レベルはリソゾーム系蛋白質代謝酵素によって調節されている可能性が強く示された。この可能性を検証するために、リソゾームを変性させる作用を有すると報告されているクロロキンを投与して、AQPs蛋白レベルを調べたところ、クロロキンは塩酸セビメリンと同様にAQP5蛋白質レベルを上昇させた(Fig.8)。即ちリソゾームの変性によりAQP5分解が抑制され、AQP5レベルが上昇したものと考えられた。
Fig.6
Fig.7 
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Phase contrast microscopic pictures of rat SMG duct and acinious cells. The SMG was digested by 0.1% collagenase and washed. a: Duct and acini before seperation. b: Acini separated by 65% Percoll. c: Duct separated by 65% Percoll.
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Fig.8
Table 1 
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Table 1 Effects of the chorda tympani denervation and SNI-2011 administration on the cathepsin activities of isolated rat acinious cells
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Cathepsin activities (mU/mg protein) |
D+E(%)a |
E(%)b |
D(%)c |
B(%) |
Normal |
3.58±0.37
(100±10.33) |
0.1336±0.0142
(100±10.63) |
3.44±0.36
(100±10.47) |
0.0159±0.0024
(100±15.09) |
CTD |
4.61±0.20
(128.77±5.59)* |
0.0705±0.0094
(52.77±7.04) |
4.51±0.17
(131.10±4.94)* |
0.0139±0.0029
(87.42±18.24) |
CTD+SNI-2011 |
2.74±0.31
(76.54±8.66)** |
0.0435±0.0064
(32.56±4.79) |
2.69±0.30
(78.20±8.72)** |
0.0211±0.0058
(132.70±3.65) |
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*p<0.05, significantly different from the normal group.** p<0.01, significantly different from the CTD group. c: Calculated by sub-tracting the value in "b" from those in "a".
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結論
顎下腺にあるAQPsの発現レベルに対する副交感神経切除および塩酸セビメリン投与の影響は、mRNAの転写調節によるものではなく、リソゾーム酵素、主にカテプシンDの活性調節によって制御されている可能性が強いと考えられた。
参考文献
1. Agre P: Molecular physiology of water transport: aquaporin nomenclature workshop: Mammalian aquaporin. Biol Cell 89, 225-257 (1997)(等48件文献を引用しましたが、ページ数のために省略させていただきます)
注:本研究は2006年9月22日「第48回歯科基礎医学会学術大会並びに総会、鶴見」にてポスター発表、2006年10月22日「The 3rd International Sympasium on Salivary Gland in Honor of Niels Stensen, Okazaki, Japan」にて口演発表、2007年3月2日「The 1st International Symposium and Workshop "The Future Direction of Oral Sciences in the 21st Century", Awaji, Japan」にてポスター発表、四国歯学会雑誌第20巻、第1号(2007,印刷中)に掲載。
作成日:2007年3月7日
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