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−日中医学協会助成事業−
唾液腺AQP5発現の神経系による調節
研究者氏名 李雪飛
中国所属機関 大連医科大学付属第二病院外科
日本研究機関 日本徳島大学HBS研究部口腔分子生理学
指導責任者 教授 細井 和雄
共同研究者名 カラバシル ミレーバ、プルワンティ ヌヌク、姚陳娟、
赤松徹也、金森憲雄
要旨
【目的】本研究はラット顎下腺における水チャネル、アクアポリン(AQPs)の自律神経系による調節機構を明らかにする目的で行った。【方法】7週齢雄性のSDラットを用い、顎下腺を支配する自律神経である交感神経または副交感神経切除を上頚神経及び鼓索神経を切断することにより行った(それぞれCSTD、CTDとする)。術後15日目から塩酸セビメリン(CM、10mg/kg体重)、ピロカルピン(PC、0.3mg/kg体重)クロロキン(CQ、50mg/kg体重)を連続7日間経口投与した。AQP5とAQP1の蛋白質レベルをウェスタンブロッテイングで、又mRNAレベルをノーザンブロッテイングとRT-PCR、リアルタイムPCRにより解析した。【結果】CSTDはAQp5及びAQP1蛋白質レベルに大きな影響を与えなかった。CTDはラット顎下腺の重量とAQP5蛋白質レベルを減少させたが、AQP5 mRNAレベルには顕著な影響を与えなかった。CTDラットに対するムスカリンM3アゴニスト、塩酸セビメリンの投与は、低下したAQP5蛋白質含有量を著明に回復させ、AQP1含有量を増加させたが、ピロカルピン投与はこれらに影響を与えなかった。塩酸セビメリン投与はAQP5及びAQP1 mRNAレベルに顕著な影響を示さなかった。CTDはリソゾーム酵素カテプシンB、D、Eの活性を上昇させ、塩酸セビメリンはこの上昇を抑制した。カテプシンB、D、EのmRNAレベルもCTDにより上昇したが、塩酸セビメリンはこの上昇を抑制しなかった。リソゾーム変性剤であるクロロキンの投与によりリソゾームを変性させ、その機能を抑制すると、副交感神経切除により減少したAQP5の発現は回復した。【結論】副交感神経によるAQP5発現レベルの調節は転写レベルによるのではなく、リソゾーム酵素系により制御されていると考えられた。
Key Words: アクアポリン、自律神経切除、塩酸セビメリン、カテプシン
緒言
アクアポリン(AQP)は微生物から動植物まで広く分布する水チャネルで、これにより生体膜を隔てた水移動が浸透圧勾配依存的に行われる。水チャネルAQPsはファミリーを構成し、現在までに13種類のメンバーが存在することが知られている。AQPsは細胞膜に存在し、選択的に水、あるいは水とグリセロールや尿素などの小分子を輸送する。AQPsは細胞膜を6回貫通しているセルペンチン型膜蛋白質で、分子内のループBとループEにファミリー間で良く保存されたNPAモチーフがそれぞれ1ヵ所ずつ存在する。これらはヘミチャネルを形成し、水はこの部位を通過することが明らかにされている。AQPsの発現・機能のホルモンによる調節については比較的よく研究されている。一方、AQPsの発現に対する自律神経系による調節についてはこれまでほとんど研究されていない。唾液腺は交感神経と副交感神経によって二重支配されている。唾液腺AQPの発現や細胞内輸送が神経系・神経伝達物質により調節されている可能性が考えられ、これを検証する目的で、本研究に着手した。
対象と方法
動物と処置:実験には7週齢のSDラットを用い、上頸神経節(交感神経)切断、または鼓索神経(副交感神経)切断を行った。切断術は実験により、片側または両側に行った。一部の実験では、ピロカルピン(PC、0.3mg/kg体重)および塩酸セビメリン(CM、10mg/kg体重)、あるいはクロロキン(CQ、50mg/kg体重)を術後15日目から7日間、1日に一回経口投与した。
Fig.1
AQPs発現の解析:AQP1、AQP5蛋白質発現は当教室の方法により行った。即ち膜分画を調製した後、蛋白定量をBradfordの方法により、またAQPsは教室作成の特異抗体を用いたWestern blot法により行った。AQPs mRNAの定量はディゴキシゲニン標識したプローブをPCRにより作成し、Northern blot法、リアルタイムPCRにより行った。
蛋白分解活性の測定:市販の消光性蛍光基質を使って、正常群、対照群、投与群それぞれのリソゾーム、プロテアソームの酵素活性を測定した。
Fig. 2
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