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−日中医学協会助成事業−
ラット脳梗塞モデルの脳障害に果たす活性酸素の役割
−生体イメージングによる病態解析−
研究者氏名  王 勇
中国所属機関 中国医科大学脳神経外科
日本研究機関 浜松医科大学光量子医学研究センター
指導責任者  助教授 山本清二
 
要旨
 活性酸素は、虚血性神経細胞死の病態に重要な役割を果たしていると考えられている。培養細胞では活性酸素の産生をイメージ化することは可能であるが、個体レベルでは未だ困難である。脳には神経細胞だけでなく、グリア・血管・血流が存在し、虚血性神経細胞死の病態を研究する場合、個体レベルでの検討が必要である。本研究では、生体内蛍光リアルタイムイメージング法により、ラット脳虚血時の脳内活性酸素である□O2-と□OHの産生を解析し、個体レベルで評価するシステムを構築することを目指す。
 
Key words 脳虚血 活性酸素 生体イメージング
 
緒言
【研究の背景】
 中枢における病態と活性酸素との関わりとして、酸化的ストレスをはじめ、脳出血や脳梗塞による脳浮腫、脳実質の壊死および老化などの諸問題が検討されている。特に酸化的ストレスを受けやすい病態として、虚血−再潅流障害がある。虚血−再潅流時には反応性の高い活性酸素(O2-、-OH、など)が発生して、虚血性神経細胞死の原因の一つと考えられている。活性酸素が脳梗塞の神経細胞傷害に関与するかどうかは、現在まで活性酸素消去酵素により脳梗塞巣が縮小するという間接所見に留まり、解明は未だに不十分である。さらに、活性酸素は反応性高く短命であるために、生体内での直接検出やその動態を把握することが困難であり、今までの個体レベルでの脳虚血と活性酸素の研究は極めて稀である。活性酸素はその測定が困難である上、生体内でのイメージングは未だに成功していないが、基礎から臨床へのトランスレーショナルリサーチに必要不可欠な個体レベルでの実験を行う必要がある。
 
【解決すべき点と研究目的】
 従来採用されている測定方法は、ほとんど活性酸素の過酸化反応産物による間接的な測定方法である。これらは生体で発生した活性酸素を直接測定したものではなく、そのいずれもラジカル種・発生部位の決定、定量性などに関して何らかの問題を有している。また脳組織について直接的な方法で活性醸素をin vivo測定した報告もない。
 それにより、活性酸素をターゲットにした薬剤や治療法の直接的な評価が可能になる。そこで本研究では以下を目的とする。(1)光学顕微鏡の下にラットを置いて、脳血管閉塞前後にわたり継続して観察できるラット脳梗塞モデルを作製する。(2)上記のモデルを用い、活性酸素産生の指標となる蛍光色素による生体内蛍光イメージングを行い活性酸素の産生を可視化する。(3)脳血流低下の程度、活性酸素の発生量および時間経過などを検討する。
 
研究方法
虚血モデル:Adult SD rat (300g)を全身麻酔し、自発呼吸下に、まず両側の椎骨動脈を凝固閉塞し、その後両側総頸動脈をBalloon Occluderで閉塞して、4血管閉塞による一過性前脳虚血モデルを作る(図1)。レーザードップラー法でこのモデルの脳血流変化を測定する。測定時間虚血10分間、再灌流20分間(図2)。測定部位(bregma点より後3.6mm、右よこ3.5mm)。
 
図1.  左:両側の椎骨動脈を凝固閉塞;
右:Balloon Occluderで総頚動脈を閉塞。
 
図2.  レーザードップラー法で測定した、4血管閉塞により大脳皮質の脳血流は約30%まで低下している。
 
蛍光色素の投与法:活性酸素のイメージングは5μlの活性酸素指示色素(Mito SOXTM、HPF)を立体定位脳手術式にマイクロインジェクションすることにより、ラット(8週齢以降、体重300g)の脳表(center 3.6mm caudal and 2mm lateral to the Bregma, 1.4mm depth)領域にmicroinjectionし(図3)、共焦点顕微鏡で観察しつつ、虚血前後約1時間(虚血前5分、虚血中10分、再灌流40分)にわたって蛍光強度の変化を検討する。
 
図3.  上:MCBL法投与方法;中:in vivoラット大脳皮質へのMitoSOXTM(Ex/Em 510/580nm)のロード血管の間にあるニューロンやグリアのミトコンドリアはMitoSOXTMで白く染められた。
 
 
 
観察方法:3×3mmのclosed cranial windowを作って、マルチピンホール式共焦点顕微鏡で蛍光像を観察しつつ(図4)、虚血前後約1時間(虚血前5分、虚血中10分、再灌流40分)にわたって蛍光強度の変化を検討する。
 
図4.  ラットの大脳皮質を露出するように骨窓を設け、closed cranial windowを作って観察した。
 
結果
虚血前各実験組の動脈血ガス
 
Blood gases and mean arterial blood pressure in different groups of rats before ischemia (HPF) Blood gases and mean arterial blood pressur in different groups of rats before ischemia (Mitosox)
HPF pH pCO2
(mmHg)
pO2
(mmHg)
MABP
(mmHg)
Mitosox pH pCO2
(mmHg)
pO2
(mmHg)
MABP
(mmHg)
Control
n=3
7.395
±0.010
50.2
±
0.1
79.7
±
1.8
79.3
±
3.5
Control
n=3
7.353
±
0.012
43.5
±
2.5
79.7
±
0.9
77.7
±
1.5
Ischemia
n=5
7.374
±0.020
47.1
±
0.8
72.2
±
2.27
4.6
±
3.9
Ischemia
n=4
7.375
±
0.025
47.7
±
0.9
80.0
±
3.0
80.3
±
2.3
Edaravone
n=3
7.410
±0.004
44.7
±
3.1
76.7
±
3.8
73.3
±
4.3
Edaravone
n=4
7.323
±
0.023
46.1
±
2.4
79.3
±
4.5
78.8
±
3.5
 
生体イメージングによるコントロール、虚血と虚血前edaravone投与グループの活性酸素の産生の経時測定
MitoSOXTMによるsuperoxide測定各組:再灌流により蛍光強度が虚血前より180±20%まで上昇していることから、再灌流によりsuperoxideの産生が増加していることが分った。さらに、動脈に近い部位のsuperoxideの産生はほかの部位より多いことも分かった。(図1表1)。
HPFによるhydroxl radical: 虚血と再灌流により蛍光強度が虚血前より190±20%まで上昇していることから、再灌流によりヒドロキシルラジカルhydroxyl radicalの産生が増加していることが分った。さらに、動脈に近い部位のhydroxyl radicalの産生はほかの部位より多いことも分かった(図2表2)。
 
図1表1  A虚血前 B虚血5分 C再灌流2分 D再灌流10分全視野蛍光強度上昇しており、さらに動脈に近い部位(1、2)は無血管部位(3)や静脈に近い部位(4)より蛍光強度の上昇幅は大きい(data not shown)
 
図2表2  A虚血前 B虚血7分 C再灌流6分 D再灌流13分全視野蛍光強度上昇しており、さらに動脈に近い部位(1、2)は無血管部位(3)や静脈に近い部位(4)より蛍光強度の上昇幅は大きい(data not shown)
 
結論
 生体内蛍光リアルタイムイメージング法によるフリーラジカルのイメージングを可能にした。30%程度の脳血流低下の虚血とreperfusionにより・O2-と・HOの産生が増加し、さらに、毒性の高い・HOは毒性の低い・O2-より産生の量は多く、またフリーラジカルの産生は部位選択性的であることが分かった。


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