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−日中医学協会助成事業−
自己抗原La(SS-B)はGranzymre Bによるアポトーシスの中で特異的に切断されて細胞核から細胞質に移動する
研究者氏名  黄 明国
中国所属機関 牡丹江市疾病予防コントロールセンター
日本研究機関 長崎大学付属病院第一内科
指導者氏名  教授 江口 勝美
共同研究者名 井田弘明、有馬和彦
 
要旨
 私たちは近頃一部のシェーグレン症候群患者の血清中には、La(SS-B)自己抗原がグランザイムBによって特異的に切断されて新しい自己抗体を産生していることを報告している。でも、グランザイムBによる細胞核内のLa(SS-B)の変化については詳細は不明な点が多い。今回我々はグランザイムBによるアポトーシスの中で自己抗原La(SS-B)の変化を明らかにすることを目的にした。まず、pAcGFPl-c2ベクターを利用してGFP-LaとGFP-LaΔ220(グランザイムBによって特異的に切断されるN末端部分)融合蛋白を作成した。また、その融合蛋白を発現するA293T細胞を細胞障害性細胞(CTL細胞)と混合培養し、免疫染色、免疫ブロット法で切断されたGFP-La融合蛋白を確認した。同様の方法で、唾液腺細胞株HSG細胞を使って細胞核内のLa(SS-B)の変化を確認した。A293T細胞内で、GFP-Laは核内に局在し、GFP-LaΔ220は細胞質内に存在していた。CTL細胞のグランザイムB刺激で、A293T細胞内のGFP-Laは切断されて細胞質に移動していた。HSG細胞を使った実験でも同様の結果が認められた。このような結果は、シェーグレン症候群ではグランザイムBが引き起こすアポトーシスによって細胞核内のLa(SS-B)自己抗原が特異的に切断されて細胞質に移動し、結果的に新しいエピトプに対する自己抗体が産生する可能性が示唆された。
 
Key words グランザイムB、La(SS-B)自己抗原、アポトーシス、自己抗体、シェーグレン症候群
 
緒言
 La(SS-B)分子は主にほとんどの真核細胞核内に存在し、ポリメラーゼIIIに結合し、その転写に重要な働きをしている(1)。抗−La(SS-B)自己抗体はシェーグレン症候群、ルプスなど自己免疫疾患に現れて、新生児心ブロックなどに関わっている(2、3)。
 グランザイムBは主にNK細胞、細胞障害性細胞(CTL細胞)などの顆粒内に存在し、標的細胞内のプロカスパーゼをカスパーゼに活性化させて、感染免疫、癌免疫において重要な役割を果たす(4)。また、グランザイムBは直接標的細胞内の重要な蛋白を切断する(4-6)。我々は一部のシェーグレン症候群患者血清中にはグランザイムBによって特異的に切断されるN末端La(SS-B)フラグメントに対する新しい自己抗体が存在することを報告した(7)。これらの結果は、NK細胞、CTL細胞によるアポトーシスは自己抗体の産生に何らかの関わりがあることを示唆している。今回はグランザイムBが引き起こすアポトーシスの中でLa(SS-B)分子の細胞内の変化を明らかにすることを目的にした。
 今回の研究で我々はpAcGFP1-c2ベクターを利用して、GFP-LaとGFP-LaΔ220(グランザイムBによって切断されるN末端フラグメント)融合蛋白を作成した。その融合蛋白を発現しているA293T細胞をCTL細胞株YT細胞と混合培養し、蛍光顕微鏡でLa(SS-B)の変化を確認した。また、ウェスタンブロット法でグランザイムBによって切断されたLa(SS-B)分子の細胞核と細胞質での発現を比較した。この一連の実験で、La(SS-B)分子がグランザイムBによって引き起こされるアポトーシスの中で、特異的に切断されて細胞核から細胞質に移動することが確認された。これによって、NK、CTL細胞による唾液腺細胞のアポトーシスがシェーグレン症候群の自己抗体の産生に関連していることが示唆された。
 
材料と方法
細胞と培養
 6ウェル細胞培養器具にて、A293T細胞(ATCC)は10%FCSを含むDMEM(ドイツ)で、HSG細胞(Yoshio Hayashi先生、徳島大学歯学部)は10%FCSを含むRPMIで培養した。YT細胞(ATCC)は10%FCSを含むRPMIを使用して、浮遊系細胞培養器具で培養した。
GFP-LaとGFP-LaΔ220融合蛋白の発現
 La(SS-B)cDNA(Dr. Walther Van Venrooij、University of Ni jmegen、Nijmegen、Netherlands)の全長またはN末端から660bpの部分にPCRをかけて増幅した。このPCR産物をGFXTMDNA精製キット(Amersham)を利用して精製し、ゲル電気泳動で確認した。また、その塩基配列をシーケンサで確認し、pAcGFPl-c2ベクターのEcoR1とBamH1サイトにサブクローニングした。A293T細胞を6ウェルプレートに培養し、5×104/ウェルになった時3μl DNA/ウェルの比率で、リポフェクタミン2000(Invityrogen)を使用して遺伝子導入してGFP-La, GFP=LaΔ220を発現させた。
細胞障害性実験
 YT細胞による細胞障害性実験は以前に発表した(7)ように、1×105YT細胞と接着系細胞HSG細胞またはA293T細胞を同じ細胞数比率で共培養した。反応3h、6h、12h、24h後、浮遊系のYT細胞は捨て、プレートは1×PBSで2回洗った。これを用いてウェスタンブロット又は細胞染色を行った。
ウェスタンブロット法
 サンプルを12.5%SDS-PAGE(ATTO, Japan)にアプライする。電気泳動後、ニトロセルロス膜に転写し、5%スキムミルクPBSでブロッキングした。その膜を抗−La(SS-B)MAb SW5、抗−PARP MAb c-2-10(MBL)、抗−DFF MAb(MBL)、抗−GFP MAb JL-8(Clontech)など一次抗体で1h反応させた。10分間×3回 0.5% Tween PBSで洗い、HRP-ラベルした抗−マウス抗体(MBL)で反応後、ECLプラス(Amersham)で増幅し、フィルムに感光させた。
免疫沈降
 GFP-La, GFP-LaΔ220形質転換A293T細胞の無細胞系をセイズ真核細胞免疫沈降キット(PIRCE)を使用して抗−La MAb SW5で免疫沈降し、沈降産物を抗−GFP MAb JL-8と反応させた。
免疫染色
 HSG細胞をスライドグラスが入っている24-ウェルプレットに培養する。HSG細胞を70%エタノールで15分間固定し、BSAが入っているPBSで15分間浸す。これを室温で1h抗−La MAb SW5で反応させた後、FITC-ラベルした抗−マウスIgGと反応させ、蛍光顕微鏡で槻察した。
 
結果
1)GFP-LaとGFP-LaΔ220融合蛋白はA293T細胞で異なるパタンを示した。
 La(SS-B)はグランザイムBによってAsp-220のサイトで特異的に切断されて27 KDaのフラグメントが産生した(4、5、7)。細胞核内のLa(SS-B)分子の変化を明らかにするために、我々はpAcGFP1-c2-LaとpAcGFp1-c2-LaΔ220サブクローニングベクタを構築した。制限酵素EcoR1とBamH1で処理すると1227bpのLa cDNAのORFと660bpのN末端フラグメントが出現した(Fig. 1B レン3、4)。また、それぞれサブクローニングしたベクターを形質転換させたA293T細胞の無細胞系を抗−GFP MAb J1-8で反応させた。結果、75 KDa GFP-La融合蛋白(レン6、9)、53KDa GFP-LaΔ220融合蛋白(レン7、10)、28KDa GFP蛋白が確認された。これはGFP融合蛋白がA293T細胞内で機能的に発現していることを表している。蛍光顕微鏡で確認したところ、GFP-La融合蛋白は細胞核内に、GFP-LaΔ220融合蛋白は細胞質内に、GFP蛋白は細胞内で均一な分布を示していた。
2)GFP-LaはグランザイムB特異的に切断されて細胞核から細胞質に移動した。
 GFP-La融合蛋白を恒常的に発現しているA293T細胞とCTL細胞株YT細胞を時間依存的に共培養し、ウェスタンブロット法と蛍光顕微鏡でGFP-La融合蛋白の局在を確認した。ウェスタンブロット法ではグランザイムB処理したA293T無細胞系と同じサイズのGFP-Laフラグメントが抗−La MAb SW5で確認された。同時に、細胞核と細胞質分画をSW5で反応させた結果、そのフラグメントは細胞質内で確認された。蛍光顕微鏡法でも反応時間につれて、蛍光蛋白の細胞質への移動が確認された。(Fig. 2)。
3)HSG細胞とYT細胞の共培養においてもグランザイムB特異的に切断された27KDaフラグメントが細胞質に移動した。
 より明確な証拠を得るために、唾液腺細胞株HSG細胞をYT細胞と共培養し、La蛋白の変化を確認した。グランザイムβ特異的な27KDaフラグメントは抗−La MAb SW5によって確認された(Fig. 3a)。同様に、YT細胞と反応させた後、HSG細胞を抗−La MAb SW5で反応し、またFITCラベルした抗−マウスIgG二次抗体で反応し、蛍光顕微鏡で観察した。27KDa Laフラグメントが時間依存的に細胞質に移動していることが確認された(Fig. 3b)。
 
考察
 今回の研究で我々は細胞核内のLa(SS-B)分子がグランザイムB特異的に切断されて、その27KDaN末端フラグメントは細胞質に再分布していることを明らかにした。我々は以前の研究で一部のシェーグレン症候群患者血清を使って、グランザイムB特異的に切断される27KDa Laフラグメントに新しいエピトプが産生することを報告した(7)。しかし、このような新しい自己抗体の産生メカニズムに関してはよく分からないところが多い。今回の研究で示したように、La(SS-B)蛋白がグランザイムB特異的に切断されて細胞核から細胞質に移動する現象は、27KDaフラグメントに対する新しい自己抗体の産生に関与しているかもしれない。
 
参考文献
[1] R. J. Maraia, and R. V. Intine. Mol. Cell. Biol. 21 (2001) 367-379.
[2] C. Vital, HM. Moutsopoulos, S. Bombardieri. Ann Rheum Dis. 53 (1994) 637-647.
[3] P. Gordon, MA. Khamashta, E. Rosenthal, JM. Simpson, G. Sharland, A. Brucato, et al. J. Rheumatol. 31 (2004) 2480-2487.
[4] PJ. Utz, TJ. Gensler, P. Anderson. Arthritis Res. 2 (2001) 101-114.
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[6] F. Andrade, S. Roy, D. Nicholson, et al. Immunity. 8 (1998) 451-460.
[7] M. Huang, H. Ida, M. Kamachi, N. Iwanaga, Y. Izumi, F. Tanaka, K. Aratake, K. Arima, M. Tamai, A. Hida, H. Nakamura, T. Origuchi, A. Kawakami, N. Ogawa, S. Sugai, P.J. Utz, and K. Eguchi. Clin. Exp Immunol. 142 (2005) 148-154.
[9] J.M. Ger, R.L. Pruijn, W.J. Van venrooij. Nucleic Acids Res. 19 (1991) 5173-5180.
[10] SJ. Martin, GP. DD. Newmeyer, S. Mathias et al. EMBO. J. 14 (1995) 5190-5200.
 
注:本研究は2006年4月23日「第50回日本リウマチ学会総会・学術集会」にて口演発表、[FEBS LETTERS]に投稿中
 
作成日:2007年3月10日


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