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在留中国人研究者助成 10件
王 敏  愛媛大学医学部
張 影  群馬大学大学院医学系研究科
姜 晶  名古屋市立大学医学研究科
瀋 継偉  新潟大学医歯学総合研究科
黄 明国  長崎大学大学院医歯薬学総合研究科
閔 莉娟  愛媛大学大学院医学系研究科
米熱古麗買買提  旭川医科大学
王 勇  浜松医科大学
鄭 偉  札幌医科大学
李 雪飛  徳島大学大学院歯学研究科
 
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−日中医学協会助成事業−
二分脊椎モデルにおける運動神経細胞の分化異常の解明
研究者氏名 王 敏
中国所属機関 泰山医学院
日本研究機関 愛媛大学医学部解剖学発生学分野
指導責任者 教授 松田正司
共同研究者 樅木勝巳、藤原隆、絹谷政江
 
Abstract
 Spina bifida aperta (SBA) is a congenital malformation of spinal cord with complications such as spinal ataxia and bowel and bladder dysfunctions. Our group has developed a post-hatching chick model with surgical-induced SBA showing spinal ataxia. In this model motor neurons in the neural tube were observed by immunohistochemical staining with the monoclonal antibody against Islet-1 as a marker of motor neurons. In this study the delay in migration and maturation of motor neurons were observed in SBA. Although the final numbers of Islet-1 positive neurons in these two groups were not different the defect in the production and elimination of excess motor neurons in these early developmental stages may be due to the pathological mechanism of the motor complications in this disease.
 
Key word spina bifida aperta, chick, motor neuron, Islet-1, motor complication
 
緒言
 二分脊椎症は、ヒトでは発生約第4週における神経管の閉鎖不全によって生じる非致死性脊髄先天性奇形の一つである(Copp et al 1990)。二分脊椎症では、脊髄奇形以外にも下肢の麻痺や変形を原因とする歩行障害やその他の身体障害が出生後に顕在化することが知られている。特に、歩行は通常の社会生活を送る上で重要な機能の一つであるが、二分脊椎症患者ではその歩行機能を維持するためだけでも、出生後成人するまでの間に数回の外科的処置を施す必要がある為、二分脊椎症患者の負担となっている。Adzickらによって胎児の奇形脊髄の整復により二分脊椎症に関連した運動機能障害が改善される可能性がヒツジモデル動物を用いた実験で示され、1990年の後半から米国において二分脊椎症の胎児に対して子宮内整復術が行われ始めた。近年になってその手術による効果の検証が始まったが(Bannister, 2000)、この手術が必ずしも当初想定していた「身体障害の顕在化を抑制する」という効果をもたらさないことが次第に明らかにされつつある。これらの事実経過から推測できるように、二分脊椎症に併発する身体障害の病態は十分に解明されているとは言い難い。
 これまでに二分脊椎症の病態解析のために多くのモデル動物が作られているが、これらのモデルではヒト二分脊椎症患者と異なり致死的な経過をたどることが多くの例で見られる。さらに生存した場合であっても、異常を示さない場合もあるという。近年、Mominokiらは、二足歩行という特性をもつ鳥類胚を用いて歩行障害を示すモデル動物を作成し、このモデル動物の解析結果に加え、「二分脊椎症の胎児では脊髄発生の初期に神経管閉鎖不全が見られること」及び「閉鎖した神経管内で形成される分泌型シグナルタンパク質の濃度勾配が脊髄神経細胞の分化に必須である」ことから、身体障害を引き起こす原因となる神経発生異常が脊髄の初期発生期に二分脊椎胎児で起こっている、との仮説を提示した。そこで、この研究グループの一員である私はこの仮説、すなわち二分脊椎の神経発生異常はすでに初期発生時から起こっていることを明らかにするために、このニワトリモデルにおける奇形領域の運動神経細胞の発生機序を運動神経マーカーであり、ホメオボックス転写調節因子であるIslet-1抗体を用いて明らかにし、二分脊椎症の脊髄における運動神経細胞の発生動態を考察した。
 
対象と方法
二分脊椎胚の作成:白色レグホンの有精卵を39.5度で約72時間インキュベートして得たHamburger and Hamilton(1992)のstage18-19に相当するニワトリ胚に以下の樅木らの方法に従い外科的処置を施し二分脊椎ニワトリ胚を作製した。実体顕微鏡下に卵殻と羊膜を開け、自作のナイフを使用して脊髄背側の蓋板を第6胸椎から尾側に向かい7体節分切開した。
免疫組織化学と細胞数の解析:各ステージに達したニワトリ胚の第2-4腰椎を切り出し4%パラフォルムアルデヒドと0.2%グルタルアルデヒドを含む0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4)を用い固定、15μmの凍結切片を作成し免疫染色を行った。1次抗体には抗Islet-1抗体を用い、2次抗体にはビオチン化抗マウス抗体を用いABCキット(ベクタスラインABC、ベクタ)を用いジアミノベンチジンにより呈色を行いメチル緑により核染色を行った。Islet-1陽性細胞数を第3腰髄節相当の領域の切片3枚毎に数えた。データは平均値±標準誤差で示し、群間差は分散分析の後にBonferroniの多重比較法を用いた。
 
結果
 運動神経の発生状態により各ステージを5日まで、6日まで、及び7日以降の3時期に分けて記載するとともに、全時期のIslet-1陽性ニューロン数の変化を検討した。
 運動神経の発生初期(4、5日齢胚):この時期までに正常群の脊髄では上衣層と外套層の境界が明瞭となり、両層とも紡錘形をした細胞が密となって存在する。一方、二分脊椎群では、上衣層と外套層の境界は正常群と同様、明瞭であり、両層には紡錘形の細胞が多数存在するが、外套層では細胞間隙が大きく脊髄全体が比較的幼弱な印象を受ける(Fig. 2c、d)。後根神経節は二分脊髄群でも正常群のそれと遜色なく発生するが脊髄の変形に伴って脊髄前角よりもさらに腹側に位置している(Fig.2c、g)。両群ともに前角と後根神経節にはIslet-1陽性細胞が多く見られるが、後角や中間帯には陽性反応が無い。前角の位置は両群とも腹外側部にあるが正常群の前角は境界が明瞭であるが(Fig.2b、f)二分脊椎群では変形し、その境界も明瞭でない(Fig.2d、h)。上衣層から前角領域に移動中のIslet-1陽性細胞は4日齢胚で両群とも神経管側に多数認められる(Fig.2b、f)。5日になると正常群の上衣層と前角領域間の陽性細胞数は減少する(Fig.2f)が、二分脊椎群では神経管付近からの遊走が続く(Fig.2h)。その結果、正常では前角領域のIslet-1陽性細胞は比較的均一な染色像を示し整然と並んでいる(Fig.2f)が二分脊椎群では前角領域の細胞シグナルの濃さも不均一で細胞の方向も不規則な状態を示すことになる(Fig.2h)。
 運動神経の発生中期(5.5、6日):5.5日には正常群では上衣層と前角間の移動細胞はかなり少数となる(Fig.3b)が二分脊椎ではより多くの細胞移動が続く(Fig.3d)。この時期二分脊椎では個体により像が多少異なるが、前角は二種類の細胞集団に区分されることが多い。すなわち外側に強いシグナルを示すIslet-1陽性細胞が、内側には比較的弱いシグナルを示す細胞が位置している(Fig.3d)。一方6日になると両群ともに移動細胞は少なくなり、同じような像を呈する。そして両群とも前角の運動神経は外側のIslet-1陰性ニューロンと内側のIslet-1陽性ニューロンとに分かれ、その境界は明瞭である(Fig.3f、h)。
 運動神経の発生後期(7、 8、 9日):7日になると前角が発達し正常では外側に(Fig.4a、 b)、二分脊椎では腹側に前角が張り出してくる(Fig. 4c、d)。前角の内部も内側にIslet-1陽性細胞が集合し、正常ではその外側に(Fig. 4b)、二分脊椎では腹側にIslet-1陰性細胞が集合する(Fig. 4d)。
 9日になると、正常ではIslet-1陽性細胞はほとんど見られなくなり(Fig.4f)、二分脊椎では背側に少数のIslet-1陽性細胞が認められるのみとなる(Fig.4h)。その代わりに細胞質がIslet-1弱陽性である運動ニューロンが前角を占めるようになる。同時に9日以降の運動ニューロンはIslet-1では追跡出来ないことも判明した。
 全時期のIslet-1陽性ニューロン数の変化:正常ではIslet-1陽性ニューロンは初期に増加し5日にピークに達し、その後減少する(Melttling et al 1993)。一方、二分脊椎ではこのようなピークは認められず、緩やかな減少を続けていく(Fig.5)。発生初期と8日を見ると両群にはほとんど違いが無いように見えるが、5日前後における正常脊髄での急激なIslet-1陽性ニューロンの増減は重要な所見である(Fig.5)。
 
考察
 本研究において正常群のIslet-1陽性細胞数は一過性に増加し、その後、徐々に減少していったが、二分脊椎群ではこのような一過性の細胞数の増加が見られずに減少していった。通常、正常発生胚の神経系の発生では細胞の過剰増殖とそれに続くアポトーシスによって標的を支配できない細胞が排除されることが知られている。このような発生過程がどの程度神経回路網の構築に寄与しているかは、不明な点が多い。しかし、本研究で明らかになった正常群と二分脊椎群との間でみられた神経細胞動態の違いは、Mominokiら(2006)が提示している二分脊椎症状態を呈する脊髄領域において神経細胞の初期発生異常が起こり、これが歩行障害の原因となるという仮説を支持している結果であると思われる。
 近年、脊髄神経細胞、特に運動神経細胞に関する神経細胞種の決定化プロセスについて数多くの知見が蓄積されつつある。その一つにLimホメオボックス遺伝子群を中心に運動神経細胞の特性獲得や特異的な軸索伸張過程等のプロセスが明らかにされ、現在では、これらの遺伝子発現産物を追跡することにより運動神経細胞における特定の細胞集団そのものの同定やその分化プロセスを把握することが可能となっている。すなわち、ニワトリ胚の腰髄の運動紳経細胞は、体幹骨格筋群を支配する運動神経細胞で構成された内側運動神経柱(MMC)と四肢の骨格筋を支配する運動神経細胞で構成された外側運動神経柱(LMC)に区分される。さらにLCMは背側の骨格筋を支配する神経細胞で構成された外側LMC(LMC1)と腹側の骨格筋を支配する神経細胞で構成された内側LMC(LMCm)に区分される。これらはLimホメオボックス遺伝子産物を追跡することによって区分できる。
 これまでに、正常発生したニワトリ胚の腰髄部での運動神経細胞数の変化について詳細に報告されている。腰部脊髄の神経前駆細胞は本研究で手術を行ったSt18-19に作られ、約95%以上の運動神経前駆細胞がSt25(E4.5)までに作られる。一方、細胞排除機構であるアポトーシスはSt25-27(E5-5.5)頃から腰部脊髄領域で始まり、St29-30(E6)でピークを迎え、St38(E12)までに終息するという。したがって、正常発生胚の腰髄の運動神経細胞はE5.5-E6まで細胞数が増加し、細胞数のピークを迎え、その後、減少に転じ、E12以降定数を維持することが報告されている。
 今後、本研究で用いた二分脊椎症モデル動物における脊髄神経細胞、特に運動神経細胞の正確な動態を数種類のLimホメオボックス転写調節因子を組み合わせて追跡し、二分脊椎症に関連した各種身体障害の発生メカニズムを解明する研究を行いたいと考えている。
 
文献
1. Copp AJ, Brook FA, Estibeiro JP et al: The embryonic development of mammalian neuraltube defects. Prog Neurobiol 1990; 35: 363-403
2. Adzick NS, Sutton LN, Crombleholme TM et al: Successful fetal surgery for spina bifida. Lancet 1998; 352: 1675-6
3. Bannister CM: The case for and against intrauterine surgery for myelomeningoceles. Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol 2000; 92: 109-13
4. Mominoki K, Kinutani M, Wakisaka H et al: Leg dysfunctions in a hatched chick model of spina bifida aperta. Expe Neurol 2006; 197: 133-42
5. Kinutani M, Coltey M, Le Douarin NM: Postnatal development of a demyelinating disease in avian spinal cord chimeras. Cell 1986; 45: 307-14
6. Melttling C, Camu W, Henderson CE: Embryonic wing and leg motoneurons have intrinsically different survival properties. Development 1993; 118: 1149-56


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