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※大気拡散状況予測結果の出力図について
 ALOHAでは、漏出源からの距離や時間の経過で風向きが変わる可能性を考え、流出時間と拡散図の規模に以下の制限が設定されている。
・10Km以上の長い拡散図を描かない(計算は10Kmで打ち切られる)
・最初の60分間の流出のみをモデル化する(流出してから60分経過後の拡散エリアを表示する。それ以上は計算できない。)
 
 今報告書の全ての大気拡散予測エリアは、閉鎖物のない平坦で広々とした地表(陸地)のもので(潮流、うねり、波浪等の海象外力は考慮されていない)、漏出源高さは0mである。また、地表の形状(地表面)については、「広々とした水域」を選択しているが、この「広々とした水域」とは、ALOHAの中で最も地表の凹凸(荒さ)要素が低いことを示す。(※地表面が荒ければ荒いほど発生する乱気流は大きくなる)つまり、潮流、うねり、波浪の全くない地表でさらに地表面の凹凸も非常に小さい土地においての大気拡散シミュレーション結果である。
 
 
 上図は、1. キシレン(流出量1KL、風速5m/s、気温20℃)の大気拡散状況予測結果出力図(付図1-2)である。この拡散図は、瞬間漏出してから60分後の、地表面での汚染物質の濃度がLOCそれ以上の濃度で危険であると一般的に考えられる空気中の汚染物質濃度のしきい値;参照)を超えると予測されるエリアを表している。
 さらに、風速や大気の安定度に依存する風向きの不確実性を考慮し、拡散エリアの両側に2本の「風向きの信頼線」が描かれる。風速が減少するにつれ、風の向きは全く一貫性がなくなる。風向きが変われば、風は汚染物質の蒸気を別の方向に押し流す。「風向きの信頼線」は、同じ状況下で20回のうち19回は汚染物質の蒸気がとどまっていると予測されるエリア(95%の信頼域)を囲む線である。また、片方の信頼線の終端(風下側)から、拡散図の先端を通り、もう片方の信頼線の終端まで線で結ばれている。この線は、風向きが変わって拡散図がどちらかの信頼線側に偏った場合の、拡散図の先端の軌跡(汚染物質がどれほど風下まで及ぶか)を表している。つまり上図においては、キシレンが1KL流出し、風速5m/s、気温20℃の状況下では、幅250mで風下側1.5Km程度まで危険範囲となる。
 風速が低ければ低いほど、風向きは頻繁に変わり、2本の信頼線は離れていく。つまり危険なエリアを限定できないという状況になる。風速が非常に低い(約1m/s以下)と、信頼線は円を描く。これは、汚染物質がどの方向にも拡散し得るということを意味している。
 
 制限事項について
 以下のような状況下では、計算はかなり不確実なものとなる場合があるので、特に注意を払う必要がある。
・非常に低い風速
・非常に安定した大気の状態
・風向きの変化や地形による影響
・漏出源付近での濃度のばらつき
 また、以下の項目について、その影響は考慮していない。
・火災や化学反応による副産物
・粒子
・混合物
・地形
・爆発による危険物の飛散
 
※LOC: level of Concern(危険レベル)について
 LOCについては、ALOHAの化学物質データベースに既に組み込まれている値を採用しているが、LOCとは、「それ以上の濃度で危険であると一般的に考えられる空気中の汚染物質濃度のしきい値」を指している。ALOHAの拡散図では、漏出開始後のある時点における、地表面での汚染物質濃度がLOCを超えると予想される範囲が示される。いくつかの化学物質について以下に示す種類のLOCが特性値として登録されている。
 
(1)AEGL: Acute Exposure Guideline Levels(急性曝露ガイドラインレベル)
 NRCCT(National Research Council's Committee on Toxicology)による設定値。
 2001年半ばに4つの化学物質に対してリリースされた。
 AEGLsは一般人にとっての閾値曝露レベル限界(曝露レベル未満では有害健康影響が起こりそうでもない)を表し、中毒作用の深刻度の違いによる3段階のレベル(AEGL-1、AEGL-2、AEGL-3)と5つの曝露時間(10分間と30分間、1時間、4時間、及び8時間)の各々について設定されている。
 ALOHAでは、3段階の危険レベルで10分間の曝露時間について設定可能である。
 
・AEGL-1: ある物質がある濃度以上で、感受性の高いヒトも含めた一般住民に著しい不快、刺激、あるいはある種の無症候性非感覚的作用が予測されるある物質の気中濃度(ppmまたはmg/m3で表した)である。しかし、これらの影響は身体の障害にはならず、一時的なもので曝露の中止と同時に回復しうるものである。
・AEGL-2: ある物質がある濃度以上で、感受性の高いヒトも含めた一般住民が不可逆的かまたは他の重篤な長期にわたる有害な健康障害、または避難能力の欠如を抱くと予測されるある物質の気中濃度(ppmまたはmg/m3で表した)である。
・AEGL-3: ある物質がある濃度以上で、感受性の高いヒトも含めた一般住民の生命が脅かされる健康影響、または死亡すると予測されるある物質の気中濃度(ppmまたはmg/m3で表した)である。
 
(2)ERPG: The Emergency Response Planning Guidelines(緊急時対応計画ガイドラインレベル)
 AIHA(American Industrial Hygiene Association)による設定値。(1)AEGLと同様に3段階のレベルがあるが、曝露時間は60分平均のみである。220物質程度が評価されている。
 
・ERPG-1: 全ての人間に対する基準。60分間の曝露で、不快感やわずかな刺激が生じない空気中の最大濃度
・ERPG-2: 60分間曝露しても、恒久的な健康影響や保護具着用などの行動能力の低下が生じない空気中の最大濃度
・ERPG-3: 60分間の曝露で致死もしくは恒久的な障害が生じない空気中の最大濃度
 
(3)IDLH: Immediately Dangerous to Life or Health(生命と健康に対する危険性)
 元々は作業所で使用するマスクを選択するため、NIOSH(National Institute for Occupational Safety and Health)が定めた制限。
 健康な成人にとって脱出が困難になったり、回復不能な健康への影響を受けたりすることなく30分間耐えられる最大濃度の推定値。
 
(4)TEEL: Temporary Emergency Exposure Limits(短時間曝露限界濃度)
 DOE(USA Department of Energy)による設定値。(1)AEGLと同様に3段階のレベルがあるが、曝露時間は15分平均のみである。2,200以上の物質が評価されている。(2002年現在)
 
・TEEL-1: 不快感やわずかな刺激が生じない空気中の最大濃度
・TEEL-2: 恒久的な健康影響や保護具着用などの行動能力の低下が生じない空気中の最大濃度
・TEEL-3: 致死もしくは恒久的な障害が生じない空気中の最大濃度
 
(5)TLV-TWA: Threshold Limit Value-Time-Weighted Average(しきい限界値−時間加重平均)
 ACGIH(American Conference of Governmental Industrial Hygienists)による設定値。
 1日8時間、週40時間労働を前提として、ほぼ全員の労働者が悪影響を受けずに無制限の期間さらされうる、有害化学物質の空気中の最大濃度


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