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3 危険範囲設定のためのテーブルの作成作業
 有害液体物質毎に流出量、風速、気温等の各条件下における大気拡散状況の推定を行い、各物質毎・条件毎の危険範囲設定のためのテーブルを作成した。テーブル作成の対象とした化学物質を表III-1に、化学物質の流出量および気象条件を表III-2に示す。
 選定した物質は、比重1.0以下で海面上に浮く比較的海上輸送量の多い上位31物質とした。流出量については、1KL、200KL、1,000KLの3パターンとし、小規模流出(1KL)、大規模流出(200KL)、非常に大きな流出(1,000KL)を想定した。風速については、ほぼ無風(0.62m/s)、通常(5m/s)、風が強い状況(10m/s)の3パターンとした。気温は20℃で一定とした。
 
表III-1 テーブル作成の対象化学物質一覧
項番 化学物質名 蒸気圧*(mmHg)
1 キシレン 4.83
2 ベンゼン 95.18
3 スチレン 4.5
4 メチルアルコール(易溶) 100
5 トルエン 24.3
6 シクロヘキサン 121.6
7 アクリロニトリル(可溶) 137
8 エチルアルコール(可溶) 44
9 ブチルアルコール(可溶) 5.5
10 アセトン(易溶) 181.7
11 メタクリル酸メチル(微溶) 31
12 メチルエチルケトン(易溶) 71.2
13 酢酸ビニルモノマー(可溶) 83
14 プロピルベンゼン 0.02
15 オクタノール 0.2
16 シクロヘキサノール(可溶) 10
17 アクリル酸ブチル(微溶) 3.2
18 酢酸エチル(可溶) 100
19 ノルマルヘキサン 155
20 1-オクテン 15
21 デカン 1.275
22 メシチレン 0.1以下
23 アニリン(可溶) 0.3
24 ノネン 5.34
25 ブチレングリコール(易溶) 0.06
26 ジイソプロピルベンゼン 0.39
27 アクリル酸2エチルヘキシル 0.1
28 アセトンシアノヒドリン(易溶) 0.8
29 1-プロパノール(易溶) 20
30 エチルベンゼン 7
31 ジイソブチレン 103
 
表III-2 化学物質の流出量および気象条件
化学物質の流出量(KL) 風速(m/s) 気温(℃)
1 0.62 20
200 5
1,000 10
 
3.1 「ALOHA」化学物質データベースの登録
 表III-1に示した対象化学物質について、「ALOHA」化学物質データベースの登録内容と対象化学物質の照合を行い、以下の方針をもとに、化学物質データベースの修正を行った。
 
・データベースに存在する場合・・・
内容確認の上、正しければ既存データを採用。異常値がある場合、物質名を変更せず内容修正
・データベースに存在しない場合・・・
別データベース・既往資料より引用し、新規データを追加
 
 表III-3に整理した対象化学物質の登録内容を示す。
 
3.2 「ALOHA」ロケーション情報の登録
 「ALOHA」では、別ソフトウェア「MARPLOT*」と連携し、大気拡散推定結果を地図上に重ねて表示することが可能である。「MARPLOT」を活用するには、対象地域の地図データを整備する必要があるが(標準ではソフトウェアに米国の地図が添付されている)、本業務では海上での利用を想定しており地域特性と予測結果を重ねて検討する必要性が少ないことから、「MARPLOT」への日本の地図データ整備およびソフトウェア日本語化は行わないこととした。
 但し、「ALOHA」では、予測計算時に必ず地理的な位置情報を設定する必要があるため、今回は「ALOHA」ロケーションデータベースへ固定的な位置情報の登録を行った。
 表III-4に「ALOHA」ロケーションデータベースへの登録内容を示す。
 
*) MARPLOT:
 地理情報管理ソフトウェア。
米国海洋大気庁(NOAA: National Oceanic & Atmospheric Administration)、米国環境保護庁(EPA:U.S.Environmental Protection Agency)、およびU.S.国勢調査局商業部門(Bureau of the Census, U.S.Department of Commerce)の共同開発
 
表III-3 対象化学物質の「ALOHA」化学物質データベースへの登録内容
項番 化学物質名 登録内容 備考
1 キシレン 既存データを採用 m-キシレン
2 ベンゼン
3 スチレン
4 メチルアルコール
5 トルエン
6 シクロヘキサン
7 アクリロニトリル
8 エチルアルコール
9 ブチルアルコール n-ブチルアルコール
10 アセトン
11 メタクリル酸メチル
12 メチルエチルケトン
13 酢酸ビニルモノマー
14 プロピルベンゼン
15 オクタノール 新規登録 ※1
16 シクロヘキサノール 既存データを採用
17 アクリル酸ブチル
18 酢酸エチル
19 ノルマルヘキサン
20 1-オクテン
21 デカン
22 メシチレン
23 アニリン
24 ノネン n-ノネン
25 ブチレングリコール 新規登録 ※1
26 ジイソプロピルベンゼン 既存データを修正 ・LEL、LEUを修正
・沸点、臨界圧力、臨界温度をDIPPR※2より引用
27 アクリル酸2エチルヘキシル 新規登録 ※1
28 アセトンシアノヒドリン 既存データを採用
29 1-プロパノール n-プロパノール
30 エチルベンゼン
31 ジイソブチレン 既存データを修正 ・臨界圧力、臨界温度をCHRIS※3より引用
1):DIPPR※2より分子量、沸点、融点、臨界圧力、臨界温度を引用。危険レベルとして、TEEL値※4 (Temporary Emergency Exposure Limits)を引用。
2):the DIPPR 801 Database (2006)。AIChe(the American Institute of Chemical Engineers)。
3):CHRIS(Chemical Hazards Response Information System)。U.S.Coast Guard。
4):DOE(USA Department of Energy)による非常時の露出限界評価値。(1999/4/1)
 
表III-4 「ALOHA」ロケーションデータベースへの登録内容
位置名 地域名 経度 緯度 備考
日本 日本 E 139°41.5′ N 35°41.4′ 東京都の位置を仮設定
 
3.3 危険範囲設定のためのテーブルの作成
 表III-2に示した化学物質、流出量および気象条件毎に、「ALOHA」での大気拡散状況推定のための入力条件ファイルの作成を行った。
 作成したファイルは、化学物質が31種類、流出量を3段階、風速を3段階の各条件を組み合わせたもの、合計279ファイルである。これらを用いた大気拡散予測計算結果を3.4 推定結果出力図として示した。
 また、「ALOHA」では、現場状況を詳細に設定し、より実地に即した予測計算を行うことが可能である。本業務で作成したテーブルの設定条件を表III-5に、概念図を図III-2に示す。なお、これら諸条件はテーブル設定初期値と異なる箇所について、取扱マニュアルを参照しソフトウェアを操作することで簡単に変更することができる。
 
表III-5 「ALOHA」テーブル設定条件
大項目 No 項目 設定内容 備考
場所/時間 1 場所 日本 予測計算とは直接関係しない
2 建物の種類 閉め切ったオフィスビル 屋内と屋外の濃度予測に使用
3 日時 コンピュータ時刻 気象計測装置からリアルタイム受信しない場合は重要ではない
漏出化学物質 4 化学物質種類 (物質毎、31種) 一覧にない物質は追加が可能
大気の条件 5 風速 以下の3種類毎
弱:0.62(m/s)
中:5(m/s)
強:10(m/s)
設定できる最小風速は、0.62m/s
6 風向き 0(度) ※真北 地図重ね合わせ時に設定が有効
7 気象計測地上高 3(m) 高度方向の拡散予測に影響
8 地表の形状 広々とした水域 海上での拡散を想定
9 雲量 やや曇り 快晴と曇りの中間
10 気温 20(度)
11 大気安定度 (自動設定) 通常は変更する必要無し
12 逆転層の有無 逆転層なし ありの場合は逆転層高度を指定
13 湿度 50(%)
漏出源状況 14 漏出源形状 直接入力 4種類の形状のうち、最も簡素かつ汎用的に設定可能な形状
15 流出量 以下の3種類毎
小規模:1(KL)
中規模:200(KL)
大規模:1,000(KL)
16 流出の継続性 瞬間的な流出 継続的な流出(時・分・秒毎の流出量)の設定も可能
17 漏出源の高さ 0(m)
18 物質保存状態 液体 気体、液体から選択
19 物質保存温度 20(度) 「外気温と同じ」に設定
 
図III-2 「ALOHA」テーブル設定条件概念図
(拡大画面:159KB)
 
3.4 推定結果出力図の作成
 3.3 危険範囲設定のためのテーブルの作成で作成した各入力条件でのテーブルをもとに、「ALOHA」上で大気拡散状況推定の計算を実施し、計算結果である危険化学物質拡散範囲の予測図を取りまとめた。
 これら出力図は本報告書の付録に収録した。


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