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(2)放射性核種の拡散予測モデル
 海中の放射性核種の挙動には、植物プランクトンをはじめとする海水中の粒子への吸着、そして海底堆積物による捕集があり、海中濃度を予測する上で重要とされている。
 海水中の粒子に吸着すると、放射性核種の下層への沈降速度が増加することになる。この挙動をモデル化したものがスキャベンジングモデルと言われている。また、海底堆積物による捕集については、海底を複数層に区分してモデル化されており、セディメントモデルと言われている。
 以下に各モデルの概要を示す。
1)スキャベンジングモデル
 1970年代以降、スキャベンジング効果を考慮したモデルは幾つか公表されている。Cleggら(1990)は、従来の研究を踏まえ、次の様なモデルを提案している。
 このモデルの概要は図1.1.7の通りであり、放射性核種が吸着する海水中の粒子を、(1)ほとんど沈降しない小粒子(粒径10μm以下)、(2)沈降速度を持つ比較的大きな大粒子、の2種に分けて考慮しており、放射性核種を溶存態としてだけでなく、それぞれの粒子に吸着しても存在するとしている。
 また、これらの粒子は、全て生物起源と考え、表層で植物プランクトンの増殖により生産され、各層で分解と小粒子から大粒子への凝集、大粒子から小粒子への崩壊を行いながら下層へ沈降すると考えられている。
 
図1.1.7 スキャベンジングモデルの概要図
 
 なお、各層における小粒子、大粒子そして溶存する放射性核種や各粒子に吸着する放射性核種の時間変化は次式で表される。
 
(1)小粒子の変化
 
 
 ここで、Ps: 小粒子濃度(g/cm3)、Pr: 生物生産による小粒子増加量(g/cm3/s)、γ: 粒子の無機化速度(/s)、r1: 小粒子の凝集速度(/s)、r-1: 大粒子の崩壊速度(/s)、Pl: 大粒子濃度(g/cm3)、Kv: 鉛直拡散係数(cm2/s)である。
 
(2)大粒子の変化量
 
 
 ここで、Pl: 大粒子濃度(g/cm3)、Ps: 小粒子濃度(g/cm3)、γ: 粒子の無機化速度(/s)、r1: 小粒子の凝集速度(/s)、r-1: 大粒子の崩壊速度(/s)、S: 大粒子沈降速度(cm/s)である。
 
(3)溶存態核種の変化量
 
 
 ここで、Cd: 溶存態放射性核種濃度(Bq/cm3)、P: 放出源からの放射性核種の放出量(Bq/cm3/s)、λ: 放射性核種の崩壊定数(/s)、k'1: 放射性核種の小粒子への吸着速度、Cs: 小粒子吸着態放射性核種濃度(Bq/cm3)、k'-1: 放射性核種の小粒子からの脱着速度、Kv: 鉛直拡散係数(cm2/s)である。
 
(4)小粒子吸着態の変化量
 
 
 ここで、Cs: 小粒子吸着態放射性核種濃度(Bq/cm3)、Cd: 溶存態放射性核種濃度(Bq/cm3)、k'1: 放射性核種の小粒子への吸着速度、Cl: 大粒子吸着態放射性核種濃度(Bq/cm3)、r-1: 大粒子の崩壊速度(/s)、λ: 放射性核種の崩壊定数(/s)、k'-1: 放射性核種の小粒子からの脱着速度、γ: 粒子の無機化速度(/s)、r1: 小粒子の凝集速度(/s)、Kv: 鉛直拡散係数(cm2/s)である。
 
(5)大粒子吸着態の変化量
 
 
 ここで、Cl: 大粒子吸着態放射性核種濃度(Bq/cm3)、Cs: 小粒子吸着態放射性核種濃度(Bq/cm3)、r1: 小粒子の凝集速度(/s)、λ: 放射性核種の崩壊定数(/s)、γ: 粒子の無機化速度(/s)、r-1: 大粒子の崩壊速度(/s)、S: 大粒子沈降速度(cm/s)である。
 
2)セディメントモデル
 セディメントモデルは幾つか公表されているが、OECD/NEA が図1.1.8に示す様に海底部を境界層、生物攪乱層、拡散層の3層に分けて開発したモデルを例として示す。
 このモデルでは、境界層をさらに海水層と粒子層の2つに分けて、各層における核種濃度の時間変化を次式で求めている。
 
(1)境界層の変化量
a. 海水層の変化量
変化量=海水中からの沈降±海水中との拡散±粒子層との吸着・脱着−崩壊量±生物攪乱層との移動
b. 粒子層の変化量
変化量=±海水層との吸着・脱着−崩壊量±生物攪乱層との移動
 
(2)生物攪乱層の変化量
変化量=±境界層(海水層, 粒子層)との移動±拡散層との拡散
 
(3)拡散層の変化量
変化量=±生物攪乱層との拡散−埋没−崩壊量
 
図1.1.8 セディメントモデルの概要図


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