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まえがき
 この報告書は、当協会が日本財団の助成金及び日本海事財団の補助金を受け、平成18年度に実施した「HNS海上災害対策のための新技術等の研究・開発事業」のうち、「HNS海中拡散予測モデル開発のための研究」の結果について取りまとめたものである。
 HNS輸送中の海上流出事故時の対応策に関しては、輸送されているHNSの種類及び特性が多種多様であることから、世界的にも防除手法が確立されておらず、また、緊急時の対応策を支援するための関係情報の整備も十分になされていないのが現状である。
 こうした中、当協会では、海面及び大気中に拡散する特性を持つHNSの防除手法等の確立に資するため、HNS海面・大気拡散予測モデルの開発を進めてきた。
 一方、沈降性のHNSを回収する際、または、沈没した船舶からその後流出するHNSに対して防除作業を実施する際にも、その海中拡散状況を予測するためのモデルが必要不可欠である。しかしながら、係る予測モデルは世界的にも未開発である。
 本研究では、HNS海中拡散予測モデルの新たな開発を目指し、本年度はその第一段階として、当該モデルの数値解析方法の特定等の基礎調査を行うことを目的に実施した。
 
平成19年3月
社団法人 日本海難防止協会
 
序章 調査概要
【調査目的】
 2000年3月、OPRC条約HNS議定書が採択され、従来、油の海上流出事故への準備及び対応を内容としていた同条約は、有害・危険物(以下、「HNS」と呼ぶ)の流出事故も対象とすることとなった。
 しかしながら、HNS輸送中の海上流出事故時の対応策に関しては、輸送されているHNSの種類および特性が多種多様であることなどから、世界的にも確立した手法が存在しないのが現状である。また、緊急時の対応策を支援するための関係情報の整備も十分になされていない。
 特に沈降性のHNSを回収する際、または、沈没した船舶からその後流出するHNSに対して防除作業を実施する際には、その海中拡散状況を予測するためのモデルが必要不可欠である。しかしながら、係る予測モデルは世界的にも未開発である。
 本調査は、HNS海中拡散予測モデルの新たな開発を目指し、本年度はその第一段階として、当該モデルの数値解析方法の特定等、以下の基礎調査を行うことを内容とする。
 
【調査内容】
既存の海中拡散予測モデルの調査
 国内外の他分野における海中拡散予測に係る既存のモデルを収集・解析し、数値解析方法等そのメカニズムについて整理するとともに、HNSの海中拡散予測への適用如何について考察を行う。
 
HNS海中拡散に係る数値解析方法等の考察
 上記調査を踏まえ、出来る限り簡易性に優れ、かつ、汎用性に富んだHNS海中拡散予測に係る数値解析方法等について考察を行う。
 
数値解析方法等の検証
 既存実験事例等をもとに、上記考察結果の妥当性を検証する。
 
課題の整理等
 今後の課題等を抽出・整理するとともに、今後のHNS海中拡散予測モデルの開発計画案を示す。
 
第1章 既存の海中拡散予測モデルの調査
 HNSおよび、その他物質も含めて国内外の海中拡散予測に係る既存のモデルを収集・解析し、数値解析方法等そのメカニズムについて整理する。また、整理結果より、HNSの海中拡散予測への適用についての考察も行う。
 
1.1 海中拡散予測に係る既存モデル
 海水中のHNS等の物質は、その場の流れ(流動)に乗っての移動や、濃度差等のアンバランスを平衡状態に近づけようとする拡散により拡がる。さらに、物質によっては、海水中を拡がる際にその物質特有の変化を伴うこともある。
 そこで、はじめに海洋の流動を表現するモデルについて整理した上で、HNS等を対象にした海中拡散予測に係る既存モデルについてとりまとめる。
 
1.1.1 海洋流動モデル
 海洋の流動を求める事を目的としたモデルを流動モデルと言い、その構造により幾つかに分類できる。以下に代表的な3種類のモデルの特徴を述べる。
 
【代表的な流動モデル】
(1)平面2次元モデル
(2)準3次元モデル
(3)3次元モデル
 
(1)平面2次元モデル
 本モデルは、海域を水平方向にメッシュ分割し、各格子の水柱の流動を求めるモデルである。計算は、3次元の運動方程式を水面から海底まで積分し、水平方向に2次元の浅海長波方程式を用いている。
 座標系は、図1.1.1に示す様に水平方向にx、y軸をとり、各メッシュ点において流速、線流量、水位上昇、水深等の値を持つ。
 
図1.1.1 平面2次元モデルの座標概念図
 
1)運動方程式(海域の流動)
 
 
2)運動方程式(河川水による流動)
 
 
3)連続式
 
 
 ここで、M,N: 線流量のx,y方向成分であり、次式で表される。
 
M=Us(ζ+Hw)α
N=Vs(ζ+Hw)α
 
 また、Us、Vs: 海面でのx,y方向流速成分、ζ: 水位、Hw: 河川水厚さ、g: 重力加速度、f: コリオリ力、Ah: 水平渦動粘性係数、τsx,τsy: 海表面の摩擦応力、τbx,τby: 海底面の摩擦応力、α: 鉛直分布定数、Kh: 水平渦動拡散係数、ρ: 海水の密度、U,V: x,y方向の沿岸流速成分である。


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