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6. 小規模市町村における賦課率決定権の意義
 ドイツでは1970年代に大規模な市町村合併が全国で行われたが、その際に合併を積極的に行わなかった州(ニーダーザクセン州、ラインラントプファルツ州、シュレスヴィヒホルシュタイン州と、当時はまだドイツ連邦共和国に属していなかった旧東ドイツ諸州)には住民数1千人以下の小規模市町村が多数残されており、それらを束ねる広域自治体として市町村小連合が配置されている(表8参照)。ラインラント・プファルツ州はそうした州のひとつであり、地方自治体は基本的に、市町村(Ortsgemeinde)、市町村小連合(Verbandsgemeinde)、郡(Landkreis)の3層からなっている。例外的に、比較的大規模な市町村は、「市町村小連合独立市町村」として市町村小連合に属さず市町村小連合の機能を兼ね、さらに大規模な市町村は「郡独立市町村」として市町村小連合にも郡にも属さずこれらの機能を兼ねている。
 表9は市町村、市町村小連合、郡の歳入構成を示したものである。市町村は、ほとんどの地方基幹税たる営業税ならびに不動産税、共同税たる所得税ならびに売上税の税収を得るほか、地域諸税の一部から税収を得ている。市町村の歳入の約6割はこれらの税収によるものであり、州からの一般交付金は13%足らずを占めるに過ぎない。市町村が受け取る州からの一般交付金は、基準税率による税収見積りと人口と個別指標による財政需要見積りの差額に応じて給付額が決定される(交付金総額が先にあるので、必ずしも財源補償にはならない)。
 これに対して市町村小連合と郡は主として市町村からの分担金と州からの一般交付金を財源としている。市町村小連合と郡が受け取る州からの一般交付金は、人口と個別指標による財政需要見積りに応じて州からの交付金の配布を受ける。州からの交付金が財政需要見積もりに不足する額を、市町村から分担金として徴収する。その際、市町村間への割り振りは、基準税率による税収見積りと州から市町村への交付金を合計することによって求められる収入見積り額に応じて行う。
 
表8: 規模別にみた地方自治体の数(2003年)
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表9: ラインラント・プファルツ州における地方自治体の収入構造(2003年)
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*郡独立市、市町村連合独立市町村を除く。
*Statistisches Landesamt Rheinland-Pfalz, Hnadbuch der Finanzstatistik für Rheinland-Pfalz 2003(Bad Ems), 144〜146頁より作成。
 
 収入合計欄をみると、約17.6億ユーロで市町村が最も大きいが、市町村はこの中から約4.6億ユーロを市町村連合へ、約6.7億ユーロを郡へ分担金として支払っているので、市町村自身が任務遂行のために支出するのは63億ユーロ程度に過ぎない。市町村よりも市町村小連合や郡のほうが、圧倒的に任務執行への支出責任が大きいにも関わらず、市町村には賦課率決定権があり、市町村小連合と郡にはないのである。
 このことは、市町村小連合や郡に属する小規模市町村においては、支出責任と賦課率決定権がほとんど分離していることを意味している。支出の大部分を市町村小連合と郡が行っているということは、どのような任務をどの程度行うかという意志決定も市町村小連合と郡が行っているということを意味するが、基幹税の税率をどれだけに設定するかを決定する権限は市町村にある。市町村がどれだけ市町村小連合と郡に分担金を支払うかも賦課率の高低に依存するわけではないので、市町村は地方自治体(市町村、市町村連合、郡)が担う支出責任の大部分とは無関係に賦課率を決定していることになる。比較的小規模の市町村においては賦課率と規模の間に相関がみられず、郡独立市町村を含む大規模市町村において強い相関が見られるのは、このことに由来するものと思われる。
 
むすび
 本稿における検討では、郡や市町村小連合に属さない大現模市町村においてのみ、賦課率決定権が有効に機能していることが明らかとなった。また、地方自治体の担う支出責任の大部分は賦課率決定権とは無関係に果たされていることも明らかとなった。ドイツでは賦課率決定権は市町村に与えられた不可侵の権限であるが、こうした状況にあって、小規模市町村に賦課率決定権を与えることに果たしてどれだけの意義があるのか、今後さらに調査を進めていきたい。
 
ドイツにおける市町村税の徴税業務に関する調査結果
 ドイツ調査では、2つの市において徴税業務に関するヒヤリングを行った。特に民間委託や電子納税などの取り組みについて詳しい質問を行ったが、とりわけて参考となるような取り組みはみられなかった。以下、2市の概要である。
 
1. マインツ市(ラインラント・プファルツ州)
・地方自治体の種類:郡独立市(Kreisfreiestadt)。
・住民数:19万人(2005年)
・地方税:不動産税2,600万ユーロ、営業税5,970万ユーロ、犬税46万ユーロ、狩猟税0.2万ユーロ、遊興税694万ユーロ(2003年)。
・課税組織:租税課(Steuerabteilung)28人、出納課(Kasse)30人。
課税標準の確定は州徴税機関が行う(全国共通)。
出納課30人のうち5人が強制執行担当。
・強制執行:不動産所有が高所得者に集中しているので不動産税の滞納は多くない。
・民間委託:納税情報を秘匿する必要があるので検討していない。
ヘッセン州カッセル市では「Creditreform」という民間企業に委託している。
・納税手段:ユーロチェック(銀行小切手)での支払いは現在でも可能。
ユーロチェックカード(デビットカード)での支払いは?
クレジットカードでの支払いは検討中。
 
2. ザールブリュッケン市(ザールラント州)
・地方自治体の種類:郡所属市(Kreisangehörige Stadt)。
・住民数:18万人(2005年)
・地方税:不動産税3,100万ユーロ、営業税6,460万ユーロ、犬税40万ユーロ、遊興税105万ユーロ(2003年)。
・課税組織:租税課の税額決定・通知担当10人、異議対応担当3人。
出納課はコンピューターによる省力化と振込化が進んだのでごく少人数。
・未納問題:(1)手紙による督促、(2)その4週間後に訪問して督促、(3)強制執行、(4)裁判所の決定で納税免除となるケースも。
・民間委託:これまでにはないがあり得る。
目的市町村連合を作って対応している市町村もある。
・納税手段:(1)パイロットプロジェクトとして3地域でユーロチェックカード(デビットカード)による料金徴収を実施。利用率5%程度。
(2)駐車メータでは、ユーロチェックカードおよび携帯電話による料金徴収を実施中。
(3)クレジットカードによる支払いについては検討中。
(4)電子申告については、課税標準の確定は州の事務であるため、市町村では検討の対象となっていない。


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