日本財団 図書館


賃金の値下げ その七
 我が競走会では、売上げ不振の結果、会長以下全従業員の給与の引下げを断行せざるを得ない破目に立至った。丁度昭和二十九年坪内会長の終末期で、一日平均売上げ二百万円を下回るという不況振りで、加えて当時は二百万円余の赤字を抱えており、その対策について数次の役員会や総会にも図り、又施行者との委任契約の是正に努める等、百方手を尽したが及ばず、会は秋風落莫実に心細い運営であったのである。そこでこの打開策として行なわれたのが売上げ不振に関する懇談会で、全連より笹川会長(当時副会長)原田競技部長、青木次長、長崎海運局春山船舶課長、施行者側より大村市長、川崎助役、事業課長、競走会全役員が出席して慎重なる協議を行ない、当面の漸定法として全執務員の給与引下げが発議され、その後七月十七日の役員会で、別記の如き引下げ基準を決定発表となったのである。世は挙げて待遇改善やべースアップに明け暮れておる折柄独り競走会では、困窮の極み、ついに来るべき処に来たのである。一方将来の光明を待望して、全国での最低給与に甘んじて来た職員や従業員は全く寝耳に水の大問題であり種々話合いが行なわれ、特に従業員組合では実状が会の経営困難である事と、担当役員が率先範を示した事等、円満裡に話が進められ、別示の如く無事妥結を見たものである。この事たるや真に労資協調の現われであり当時の役職員、従業員の心構えには深甚なる敬意と感謝の意を表するものである。
 当時の担当役員は
会長 坪内 八郎
専務理事 荒木 徳五郎
常務理事 金富 文太郎
常任監事 万谷 秀男
 昭和二十九年七月十七日役員会で、売上げ不振に基づく会長以下常務役員の報酬引下げを、次の通り決定した。
一 会長、副会長 無報酬
会長に対しては従来の支給額を勘案して東京に於ける滞在費、交通費、交際費等適正額を支出、副会長には定額の交際費を支給する。
二 専務、常任監事は五割に切下げる。
三 常務は二割を切下げ選手監督を兼任させる。
四 一般執務員二割減、一日二百円以上のアルバイトも二割減とし、アルバイトの最高給与は四百五十円に止め特に之以上支出の要ある者に対しては、役員会の承認を要する。
 
給与引下げの対照
引下げ前の給与 引下げ後の給与
会長 月酬二万円 交際費 二万円 無報酬
但し会要務の交際費、通信費等
副会長 〃五千円 〃  五千円  〃
限度の交際費を認める
専務理事 三万円 五割減
常務理事 二万五千円 二割減
レース中、選手監督兼任
常任監事 二万円 五割減
 
 外に専務理事常務理事に対し必要なる交際費を認める。
審判員より給与改訂に関する申出
審判員 岩永 要
〃 辻 実
〃 井上 武治
会長 坪内八郎宛
七月二十一日付、金富常務理事より口頭で通達しました給与改訂につきましては、其後綿密に協議致しました処競走会の窮状も常々耳に致しており、今回の減額の処置に対しましては会長以下率先垂範された事に就きましては、私達は唯敬服致すものであり、会の方針ともあれば当然之に協調相和して行くべきものと思いますが、次の様な理由によりまして更に之を再検討されて然可く善処されるよう御願い致します。
理由
(一)登録審判員は他競走場の審判員との均衡上創設当初より選手の一ヵ月最低収入を確保する様に全連に於ても指示されたものでありまして、私達も職業として一見易き様に見へて其の実至難な業務に服しておるものであります。
(二)競走会の危急存亡の時なれば当然減員出来るものは減員して競走の運営面に直接タッチしている者を真に安心して業務に服せしむることこそ、競走の根本である公正安全なるものと深い関連を有するものと思います。
(三)将来競走会の発展も役員のみにて出来るものでなく審判部も競技部も皆一丸となって始めてその成果を挙げ得る事は申すまでもありません。現在選手の育成其他技術の再教育に対しましても、あらゆる面に於て選手と競走会は不可分の関係にありますので、他レース場に於て実施しております前記の教育や、法規の解釈競走技術の練磨等も平素より審判部に於て実施致したく、七月二十一日金富常務より口達されました、職員として常時出て選手と会い、及び一般ファンとの中間にあって連絡等の業務を担当させ、私達を有効に活用していただき度いと思います。
以上の理由から結論を申上げますと、此様に絶えず不安定な気持ちでは落着いて服務する事もできず公正安全なるレースの構成も出来なくなるおそれもありますので少くとも最低生活の保証だけはやらしていただいて安心して服務出来る様御高配賜らん事を御願い致します。
なお此の減額改訂につきまして収拾の方途がないということになれば当方と致しましても真に死活問題となりますので、先般全連考査室から通達も出ておる事でありますので、後刻改めまして理由を具し、他方競走会にある身分の転籍方を請願致したいと存じます。
従業員日当減額について回答
昭和二十九年七月二十三日
長崎県モーターボート競走会大村競技場
従業員組合長 富島東二
坪内会長宛
七月二十一日貴会金富常務理事殿より従業員日当減額の御通達により当組合としては本件に対し慎重協議の結果次の結論を得ましたので御回答致します。
 日当二割減、最高四百五十円を支給の限度とするの件はこれを白紙還元され、改めて貴会と当組合との協議方を要望する。
理由
吾等従業員の組合結成は、去る五月貴会の昭和二十九年度通常総会前、既に関係当局に届け済みで御承知の事と存じます。当組合は貴説の通り諸費節減の線に協力するには決して吝かでなく寧ろ進んで協力する用意と意志を持っているのでありますが、現日本の民主主義的立場及び労働基準法等の根拠的解釈からして双方が会合、相互間忌憚なき意見の交換をし、理解の上に決定せられるを妥当と考へるからであります。
附記
1 本協議には貴会側より専務、常務の両理事並に開催各役員の御出席を希望します。
2 協議会の日時、場所等について貴会に一任致しますが可及的速かに開催方を願います。
 以上附記した各要望書に基づいて双方間に数度の折衝と検討の末次表の如き結論に到達、円満決定に至ったものである。
 
開催執務員減給表(昭和29・12現在)
区別 員数 給料 開催日数 一日平均 減給
執務役員 3 18,000 12 1,500 5,800
審判員 3 40,950 12 3,400 1,900
従業員 44 49,345 12 12,400 8,130
208,295 17,300 15,900


前ページ 目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION