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5-1-3 ナノテク商品化の現状
 ナノテクの応用範囲は幅広い。しかし、これまで述べたように、その多くが政府の研究機関又は大学の研究室で実験を重ねている段階というのが実情である。これまで市場に出回っているナノテクの多くは、日常生活品に限られている。
 例えば、ウィルソン社が開発したテニスボール技術「ウィルソン・ダブル・コア」には、インマット(InMat)ナノ粒子(ブチルゴム重合体)が組み込まれている。これにより、従来のテニスボールに比べて寿命が2倍になっている。また、テニスラケット・メーカーのバボラト(Babolat)は、ラケットのヘッドとシャフトにナノレッジ(Nanoledge)と共同開発したカーボン・ナノチューブを採用することで、ねじれに対する強度を20%向上させたほか、安定性を向上させている。(表15参照)
 一方、MEMS(MicroElectro Mechanical Systems)機器やナノ素材を開発する企業にとっても、当面はスポーツ関連グッズ市場が期待できるという(EmTech Research調べ)。例えば、レディングトン(Redington)製でチタンを使った釣竿のロッド、アウトドア向けにサントー(Suunto)が作ったセンサー付きリスト・コンピュータ等がその一例である。それでも、スポーツグッズ向けのMEMSセンサーやナノ素材から得られる売上げは2009年までに1億ドル程度までしか伸びないため、他の市場開拓は必要になってくる。
 市場の規模からすると、実用化されている製品が未だごくわずかであることがわかる。しかも、米国以外、欧州におけるナノテク商品を含めても数が少ない。全世界に1,200社のナノテク関連企業が、そしてその半分が米国に存在するが、ほとんどの企業の技術が開発段階にあり、実用化の段階にまで至っていない現状がうかがえる。
 こうした市場背景を踏まえて、市場アナリストのジャック・ウルドリック氏(「The Next Big Thing Is Really Small」の著者)は、製品を作り出していないナノテク企業への投資を控えるよう警告している。
 2005年において、およそ130億ドル相当の商品がナノテクを採用すると見積もられている。しかし、その規模は世界経済からすればごくわずかである。ラックス・リサーチによると、2010年までにはその規模が2,920億ドルに達する見通しだ。
 
表15: ナノテクを使った一般商品
商品項目 商品 製造元 技術の開発元 備考
ディスプレイ イージーシェア
(デジカメ)
イーストマン
コダック
デュポン OLEDディスプレイに炭素粒子を混入させることで、電力消費の効率を高めた。
流し、トイレ ワンダーグリス
(Wonder Gliss)
独デュラビット
(Duravit)
独ナノゲート 水を水滴としてはじく特殊コーティングを施したセラミックスを開発。いつまでも輝きを失わない
サングラス 各種サングラス製品 マウイ・ジム
(Maui Jim)
ナノフィルム
(Nano Film)
疎水性ナノ物質によるコーティングで光の反射をさえぎると同時に、汚れなどが付着しにくくなっている
自動車 GMCサファリ GM バセル(Basell)サザン・クレイ・プロダクツ(Southern Clay Products) オレフィン系樹脂(TPO)ナノコンポジットを使ったボディパーツを導入。今後はロッカーパネルなどにも導入する。傷などにも強い
自転車部品 フロントガラス Windshield Welding Systems 豪ナノテクPTY 20nmのコーティングによって、防水、防塵効果を高めている
家庭用
空気洗浄機
ナノブリーズ NanoTwin Technologies NanoTwin Technologies 40nmの二酸化チタンを使用し、有機ガスを吸収する
テニスボール ウィルソン・ダブル・コア ウィルソン インマット
(InMat)
インマットが開発するコーティング技術は、ゴムの重合体を利用することで、空気の出入りを遮断する
テニスラケット VSNCTドライブ バボラト
(Babolat)
仏ナノレッジ
(Nanoledge)
カーボンナノチューブを利用することで軽く、ねじれなどに強いラケットを製造
ゴルフボール NDLiNX、NDMX ナノダイナミクス
(NanoDynamics)
ナノダイナミクス 通常のゴルフボールが5ドルなのに対して7〜8ドルと高め
ゴルフシャフト エボルーション
(Evolution)
アキュフレクス
(AccuFlex Golf)
アキュフレクス 独自に開発したナノコンポジットを利用することで表面積を増加。通常のグラファイトに比ベてより密な構造をもち、材質がさらに軽くなった
ゴルフ
ドライバ
ウイルソン・スタッフドライバ ウィルソン ウィルソン カーボンナノコンポジットを使用することで、チタン製ヘッドの代わりにする
野球バット イーストン・スティルス
(Easton Stealth)
イーストン イーストン、ザイベックス(Zyvex) 飛距離が伸びるカーボンナノチューブを金属バットに混入
スキーワックス セラクス・ナノワクス
(Cerax Nanowax)
ホルメンコル
(Holmenkol)
独ナノゲート
(Nanogtate Coating Systems)
温度が下がることによって硬度が高くなる。これによって、スキー板と雪の結晶に順応する
ボーリングボール ナノデス 日本エボナイト、アメリカンボウリング 日本エボナイト、アメリカンボウリング フラーレンを混入。硬度が増し、空すべりを防ぐ。ボールの一部が欠けるのも防ぐ
防水パンツ ナノケア・カーキー エディバウア ナノテクス
(Nanotex)
ギャップ、LLビーン、ボスなど大手服飾メーカー各社も採用している
繊維 E47コットン ARCアウトドア ナノホライゾンズ (NanoHorizons) 金および銀のナノ粒子を混入することで消臭および殺菌効果などを持つ
バンドエイド ガード・シルバー バイアーズドルフ
(Beiersdorf)
バイアーズドルフ (Beiersdorf) 銀のナノ粒子を混入することで殺菌効果などを持つ
自転車部品 自転車のハンドル部分 イーストン・スポーツ
(Easton Sports)
ザイベックス
(Zyvex)
カーボンナノチューブを導入することで強度を高める
日焼け止め
クリーム
Olay Complete UV Protective Mositure Lotion P&G P&G 酸化亜鉛粒子を混入することでクリームを透明にした
日焼け止め
クリーム
SunSense
SPF30
NuCelle BASF 酸化亜鉛のナノ結晶を利用することで幅広い紫外線を遮断する
 
5-2 民間企業のイニシアチブとその位置づけ
 ナノテクに関する研究開発を事業化させるには、産学民の協力もさながら、一般市民や政府への周知普及活動や、ビジネスチャンスを提供する「場」が設定されなければならない。そこで、こうした派生事業を担うのが、いわゆる業界団体である。ナノテク市場でもすでにいくつかの業界団体が発足され、フォーラムの開催や今後、企業が直面する課題等を検討していくためのディスカッション、そして製品見本市等の開催を担っている。
 
(1)ナノビジネス・アライアンス(NanoBusiness Alliance: NBA)
住所:1335 W.Randolph、Chicago、IL 60607
プロフィール:
 ナノテクノロジー及びマイクロシステムに関する事業を促進するために発足された米国最初の関連民間団体である。業界の動向を調査し、協養企業に提供するほか、一般市民や政府への周知普及活動、ロビー活動、フォーラムの開催等を行う。同団体は、業界のオピニオン・リーダー的な存在でもある。設立は2001年10月。現在、同団体には、およそ300社が会員として名を連ねている。その中には、米国企業だけに限らず、日本等からも多くの企業が参加している。同団体の局長ショーン・マードック(Sean Murdock)氏は、市場がグローバル化する中、米国企業と外国企業を分け隔てて考える必要はなく、むしろ、様々なアライアンスを通じて、ビジネスの幅を広げるのが重要だと考えている。そして、NBAはこうしたナノテク国際開発の架け橋として機能していきたい考えである。
 
(2)国際ナノテクノロジー協会
(International Association of Nanotechnology: IANT)
住所:2386 Fair Oaks Boulevard、Sacramento、CA 95825
プロフィール:
 ナノテクノロジーの研究開発をビジネスに結びつけるのを目的に運営されている。その一方で未知の物質に対する監視機構の構築等にも力を入れている。IANTは複数の小委員会を有する。主な小委員会は以下のとおり。
(a)Nomenclature & Terminology(定義や呼称等を審議)
(b)Nanomaterial Safety Subcommittee(ナノ材料の安全対策)
(c)Standard Steering Subcommittee(関連規格の標準策定)
(d)Intellectual Property & Tech Transfer Subcommittee(技術特許と技術移転)
(e)Regulatory Affairs Subcommittee(法規制への対応)
(f)Ethics Environmental and Scietal Subcommittee(倫理問題への対応)
 
 IANTは米国内に限らず、世界の関連企業等を招き国際会議を開いている。ナノテクエキスポの主催団体である。
 
(3)フォーサイト・ナノテック・インスティチュート
(Foresight Institute)
住所:PO Box 61058、Palo Alto、CA 94036
プロフィール:
 1986年に設立された同団体は、ナノテクの恩恵とリスクについて一般社会に周知普及活動を行っていくことを目的としている業界シンクタンク。同団体の会員数は1万4,000人に上る。
 主な活動として、米国ほか、海外での講演やカンファレンスを主催している。そのほか、ナノテク関連の情報をサイトで提供する。


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